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未来へ
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――再び戻ってきたその空間。
来る時とは違い、水の中にいるというよりは何もない場所にただ突っ立っているような感覚だった。
何もなかったはずのその場所にぽっかりと空いた穴から見えた景色。そこには、どこかの壇上に立つグレイス王の姿があった。
《脅威は去った。だが、これは終わりじゃない》
まるで俺が大衆の一人になったかのような光景だ。
壇上に立つグレイス王の後方に広がっていたのは、黒い土と瓦礫の山。
グレイス王の傍に立つのは小さい身体で懸命に胸を張ろうとするアマリア、アステルさん。
二人は困惑にも似た表情を浮かべる。
《街は壊れ、財は失われた。残されたのは、我々の身体だけだ》
王の心を込めた演説は続いた。
《だからこそ、やり直そう。私たちがいれば、そなたたちがいれば人は何度でもやり直せるということを各国に示してみせよう。クセル・グレイスとして――王として宣言する》
ぞわり、大衆の温度が一気に高まった。
《この国は新たに生まれ変わる。王の名のもとに、クセル王国の建国を宣言する。向こう何千年、何万年。次に来る脅威にも耐え得る史上最強の国とすることを、初代クセル王は宣言する。そのために皆、力を貸してほしい!》
王の宣言とともに、大きな歓声が沸き起こる。
それは、焦土と化した大地に、確かな可能性を根付かせていた――。
〇〇〇
目の前の映像がラグを起こして消えていくと同時に新たに見たその景色。
大衆が、皆涙を流していた。
その先頭をきっていたのは白髪白髭の老人だ。
鬣のようなその老人の筋肉は全く衰えの様子がない。
背後には神妙な面持ちで前を見るエルフ族の女性がいた。
《お前は、よく頑張ったよ》
筋骨隆々とした身体で拳を握るのは、アステルさんの姿だった。
その隣には、成長したアマリアの姿もある。
《パパ……? パパ、いなくなっちゃったの……?》
そんなアマリアが手を握るのは小さな子供。
親の特徴を受け継ぎ、綺麗な銀の髪の少年は茫然と棺を眺めていた。
《こんなちっちゃい王様置いて先に逝ったのが、お前の一番の罪だぜ。なぁ、グレイス》
棺を前に動かなくなった三人。
アマリアは、幼い子供を小さく抱きしめていた。
《なぁ、アマリア》
《……はい》
《エルフってのぁ、寿命が長いってのは、本当か?》
《まぁ……人間よりは、はるかに長いと思います》
そう言ったアマリアをもとに、アステルさんは小さな王をひょいと持ち上げる。
《こいつは、これからいろんな困難が待ち受けるだろう。こんな小さな王ともなれば、摂政も必要だ。取り入ろうとする輩も多い》
アマリアは、何も答えなかった。
《お前が支えて、伝えてやってほしい。グレイスの残していった遺志を、クセル王国の繁栄を、民の力を……》
《もちろんですよ! というか、アステルは他人事すぎますよ!? そんな大役を全部私に押し付けるなんて、許しませんからね!》
すっかり怒り心頭のアマリアに、アステルさんは「ははは……」と苦笑気味に若王を下ろした。
《もう、はやく行きますよ! 会議あるんですから!》
若王の手をつなぎ、その場を立ち去るアマリア。
アステルさんは手で口を押えて、小さく咳き込んだ。
棺を見るその姿は、弱々しさが感じられた。
《ったく……安心して見てらんねぇよ。いつまで経っても、心配で心配でたまんねぇよ》
その掌に滲んだ血を見て、アステルさんは苦笑を浮かべる。
《若い奴らを残してくってのも、怖ぇもんだなぁ……》
〇〇〇
《第十五代クセル国王、シルヴィア・グレイスとして命じる。外敵の狂気から祖国防衛の任務を授けよう。総大将は第三大隊長アマリア・ステル。異論はないな?》
《――はっ。仰せのままに》
《クセル王国建国時からの忠臣だ。父上からもそなたの充分すぎる功績は耳に入っておる。信じておるぞ》
《ありがたきお言葉です》
玉座の前にひざまずいたアマリアに、王は告げる。
《皆の者、アマリアを筆頭とし祖国防衛を見事果たしてみせよ。いずれ迫りくるという「時の悪魔」の前に国が崩壊したとなれば、祖先への恥、末代までの恥と心得よ!》
《《――はっ!》》
王の一声に、その場で跪く全ての兵士たちの雄叫びが木霊した。
《でも、アマリア隊長最近婚期逃したって、戦場で敵国兵士にすら求婚してるってマジ?》
《近頃の焦り具合からしたら、あながち嘘とも言い切れないな》
《600年だったか。そりゃ、婚期逃してるだろうな……。というか、マジか……600年か……》
《エルフ族って結婚しなけりゃ1000年近く生きられるって話だからなぁ……》
《あなた方、ちょっと裏庭行きましょうか。ここでは王の目についてしまいますからね。王の御前で血を見せるのは忍びないですので》
《《ひぃぃぃぃぃぃっ!!??》》
〇〇〇
ぐるぐると移り変わる映像。
薄く、淡く浮かび上がった新たなそれは見覚えがあった。
《――ご武運を、タツヤ様》
幼い獣人族の少女を、炎球が襲う。
激しい熱を帯びた球が彼女を包み込む――その瞬間だった。
《ったく、いつまで世話焼かせんだよバカルーナッ!》
瞬足を武器に颯爽と現れて、ルーナを引き抜いた一人の女性。
翡翠の瞳に茶のロングストレートが大きく揺れた。
《よっし、ルーナは回収した! 私たちの力、あの化け物にぶつけてやんなッ!》
――応ッ!!
突如として森の陰から出てきたのは、おおよそ20名の獣人族の屈強な戦士たち。
彼らの肉体がボコボコと隆起し、瞳がギラついた。
自身の肉体能力を引き上げる獣人族特有の魔法、肉体増幅魔法によって力を引き上げた彼らは、統一した指揮の下で魔法を展開し、炎球を分散させていった。
《ね、ネルト……姉様……! なんで、ここに……》
《そりゃールーナ。あんたの危機にはいつだってお姉ちゃんが傍にいるのさ……ってカッコいいこと言ってやりたかったんだけどね》
そう茶化すように笑って、ネルトさんは告げる。
《ヴァステラの森から王都を避けるようにして生物たちが逃げてったのが見えた。時の悪魔の襲来が近いかもしれないってことで、王都に向かってたアンタらを追ってきたってことさ。ギリギリ間に合ってよかった!》
《ね、姉様~~……!》
《大体あんたはいつも突撃ばっかしてんだからこうなるのよ! もうちょっと旦那のことも考えてやんな! あんたが死んだら本当にタツヤは私がもらうからね!?》
《そ、それはだめですよ! 絶対に無しです!》
《だったらあんな無茶苦茶なことばっかするんじゃないよバカルーナ!》
《……うっ……》
そんな姉妹一族を傍目に、先頭の大隊を率いるアマリアさんに近づく大隊がもう一つあった。
《……ドレッド様はご無事ですよね?》
アマリアさんに声をかけられたのは、黒髪黒髭を蓄えた男。第一大隊長、グスタフ・グスマン。
どことなくアステルさんに似ている風貌のその男の腰には、かつてアステルさんが帯刀していた剣があった。
《当たり前だ。地下へ、というつもりだったが王の強いご意思で今はエルドキア様と共にけが人の治療に携わっている。こんな窮地を前に、本当の王になられたぞ、あの方は。お前の方は……見なくても、分かるな》
新たに別動隊として加わった一つの大隊。
アマリアさんは、叫ぶ。
《これより第一大隊、第三大隊合同で超大規模な攻撃魔法術式を展開します! 各自最後の魔法力をつぎ込みなさい!》
《かつてグラントヘルムの片翼を貫いた祖――アステル・グスタフの剣を持っている! 総員、魔法力をこの場一体に放出しろ! 時龍核を貫くほどの大規模魔法だ!》
アステルさんも、吠える。それにこたえて大隊はありったけの魔法力を前方のアマリアさん、グスタフにつぎ込んでいく。
《ま、待ってください!》
その大隊長二人に声をかけたのは、ネルトさんが下した木の幹で、荒い息を吐くルーナだ。
《タツヤ様が……まだですッ!》
《……異世界転移者、か》
グスマンは左腕にありったけの魔法力を込めていた。
《必ず、帰ってきます! そう約束したんです!》
《だが帰ってこない。グラントヘルムの勢いは少し止んだだろう。だが、それだけだ。奴を屠るのは、今しかない》
その証拠に、先ほどまで止まっていたグラントへルムが再び大きく口を開け始めた。
今までで一番ドでかい炎球を精製し始めていた。
《あの異世界転移者はコイツの動きを止めた。それだけでもよくやった方だ》
次第に精製される光の剣と、炎球。
《タツヤ様……!》
《ちょ、ルーナ!? あんた、また!》
震える身体に鞭を打ったルーナが、グラントヘルムに突撃していくのと同時に、俺の身体も走り出していた。
眼前に映る画像は、時龍核の本体。虹色に輝くその石に俺の持っていた欠片を打ち付けた。
ガラスのように儚く割れた映像の向こう側に見える白い光を目掛けて走り出す。
それは一瞬の出来事だった。
ここに来たときと同じような浮遊感と、肺が焼けつくかのような熱気だ。
「タヅヤ"ざま"~~!! お待ちしておりまじだ! お待ちじでお"り"ま"じだっ!!」
顔をぐじゃぐじゃにして俺を抱き寄せてきたルーナ!
いたい! めっちゃ痛い! 嬉しいけどめっちゃ痛いよルーナ!
「約束通り帰って来たよ。ちょっと遅れて悪かったな」
獣人族の怪力に持ち上げられて、すぐさまグラントヘルムとの距離を取った俺たちを確認したアマリアさんと、グスマンはにやり、不敵な笑みを浮かべた。
「総員、大規模攻撃魔法術式展開! 射てッ!!!!」
アマリアさんの号令と共にグスマンは空気一帯に広がった魔法力を一気に集約させた。
「光属性魔法、陽光の一閃ァッ!」
瞬間、剣から射出された一閃が、動きを鈍くさせたグラントヘルムの胸郭中央の時龍核を大きく貫いたーー。
来る時とは違い、水の中にいるというよりは何もない場所にただ突っ立っているような感覚だった。
何もなかったはずのその場所にぽっかりと空いた穴から見えた景色。そこには、どこかの壇上に立つグレイス王の姿があった。
《脅威は去った。だが、これは終わりじゃない》
まるで俺が大衆の一人になったかのような光景だ。
壇上に立つグレイス王の後方に広がっていたのは、黒い土と瓦礫の山。
グレイス王の傍に立つのは小さい身体で懸命に胸を張ろうとするアマリア、アステルさん。
二人は困惑にも似た表情を浮かべる。
《街は壊れ、財は失われた。残されたのは、我々の身体だけだ》
王の心を込めた演説は続いた。
《だからこそ、やり直そう。私たちがいれば、そなたたちがいれば人は何度でもやり直せるということを各国に示してみせよう。クセル・グレイスとして――王として宣言する》
ぞわり、大衆の温度が一気に高まった。
《この国は新たに生まれ変わる。王の名のもとに、クセル王国の建国を宣言する。向こう何千年、何万年。次に来る脅威にも耐え得る史上最強の国とすることを、初代クセル王は宣言する。そのために皆、力を貸してほしい!》
王の宣言とともに、大きな歓声が沸き起こる。
それは、焦土と化した大地に、確かな可能性を根付かせていた――。
〇〇〇
目の前の映像がラグを起こして消えていくと同時に新たに見たその景色。
大衆が、皆涙を流していた。
その先頭をきっていたのは白髪白髭の老人だ。
鬣のようなその老人の筋肉は全く衰えの様子がない。
背後には神妙な面持ちで前を見るエルフ族の女性がいた。
《お前は、よく頑張ったよ》
筋骨隆々とした身体で拳を握るのは、アステルさんの姿だった。
その隣には、成長したアマリアの姿もある。
《パパ……? パパ、いなくなっちゃったの……?》
そんなアマリアが手を握るのは小さな子供。
親の特徴を受け継ぎ、綺麗な銀の髪の少年は茫然と棺を眺めていた。
《こんなちっちゃい王様置いて先に逝ったのが、お前の一番の罪だぜ。なぁ、グレイス》
棺を前に動かなくなった三人。
アマリアは、幼い子供を小さく抱きしめていた。
《なぁ、アマリア》
《……はい》
《エルフってのぁ、寿命が長いってのは、本当か?》
《まぁ……人間よりは、はるかに長いと思います》
そう言ったアマリアをもとに、アステルさんは小さな王をひょいと持ち上げる。
《こいつは、これからいろんな困難が待ち受けるだろう。こんな小さな王ともなれば、摂政も必要だ。取り入ろうとする輩も多い》
アマリアは、何も答えなかった。
《お前が支えて、伝えてやってほしい。グレイスの残していった遺志を、クセル王国の繁栄を、民の力を……》
《もちろんですよ! というか、アステルは他人事すぎますよ!? そんな大役を全部私に押し付けるなんて、許しませんからね!》
すっかり怒り心頭のアマリアに、アステルさんは「ははは……」と苦笑気味に若王を下ろした。
《もう、はやく行きますよ! 会議あるんですから!》
若王の手をつなぎ、その場を立ち去るアマリア。
アステルさんは手で口を押えて、小さく咳き込んだ。
棺を見るその姿は、弱々しさが感じられた。
《ったく……安心して見てらんねぇよ。いつまで経っても、心配で心配でたまんねぇよ》
その掌に滲んだ血を見て、アステルさんは苦笑を浮かべる。
《若い奴らを残してくってのも、怖ぇもんだなぁ……》
〇〇〇
《第十五代クセル国王、シルヴィア・グレイスとして命じる。外敵の狂気から祖国防衛の任務を授けよう。総大将は第三大隊長アマリア・ステル。異論はないな?》
《――はっ。仰せのままに》
《クセル王国建国時からの忠臣だ。父上からもそなたの充分すぎる功績は耳に入っておる。信じておるぞ》
《ありがたきお言葉です》
玉座の前にひざまずいたアマリアに、王は告げる。
《皆の者、アマリアを筆頭とし祖国防衛を見事果たしてみせよ。いずれ迫りくるという「時の悪魔」の前に国が崩壊したとなれば、祖先への恥、末代までの恥と心得よ!》
《《――はっ!》》
王の一声に、その場で跪く全ての兵士たちの雄叫びが木霊した。
《でも、アマリア隊長最近婚期逃したって、戦場で敵国兵士にすら求婚してるってマジ?》
《近頃の焦り具合からしたら、あながち嘘とも言い切れないな》
《600年だったか。そりゃ、婚期逃してるだろうな……。というか、マジか……600年か……》
《エルフ族って結婚しなけりゃ1000年近く生きられるって話だからなぁ……》
《あなた方、ちょっと裏庭行きましょうか。ここでは王の目についてしまいますからね。王の御前で血を見せるのは忍びないですので》
《《ひぃぃぃぃぃぃっ!!??》》
〇〇〇
ぐるぐると移り変わる映像。
薄く、淡く浮かび上がった新たなそれは見覚えがあった。
《――ご武運を、タツヤ様》
幼い獣人族の少女を、炎球が襲う。
激しい熱を帯びた球が彼女を包み込む――その瞬間だった。
《ったく、いつまで世話焼かせんだよバカルーナッ!》
瞬足を武器に颯爽と現れて、ルーナを引き抜いた一人の女性。
翡翠の瞳に茶のロングストレートが大きく揺れた。
《よっし、ルーナは回収した! 私たちの力、あの化け物にぶつけてやんなッ!》
――応ッ!!
突如として森の陰から出てきたのは、おおよそ20名の獣人族の屈強な戦士たち。
彼らの肉体がボコボコと隆起し、瞳がギラついた。
自身の肉体能力を引き上げる獣人族特有の魔法、肉体増幅魔法によって力を引き上げた彼らは、統一した指揮の下で魔法を展開し、炎球を分散させていった。
《ね、ネルト……姉様……! なんで、ここに……》
《そりゃールーナ。あんたの危機にはいつだってお姉ちゃんが傍にいるのさ……ってカッコいいこと言ってやりたかったんだけどね》
そう茶化すように笑って、ネルトさんは告げる。
《ヴァステラの森から王都を避けるようにして生物たちが逃げてったのが見えた。時の悪魔の襲来が近いかもしれないってことで、王都に向かってたアンタらを追ってきたってことさ。ギリギリ間に合ってよかった!》
《ね、姉様~~……!》
《大体あんたはいつも突撃ばっかしてんだからこうなるのよ! もうちょっと旦那のことも考えてやんな! あんたが死んだら本当にタツヤは私がもらうからね!?》
《そ、それはだめですよ! 絶対に無しです!》
《だったらあんな無茶苦茶なことばっかするんじゃないよバカルーナ!》
《……うっ……》
そんな姉妹一族を傍目に、先頭の大隊を率いるアマリアさんに近づく大隊がもう一つあった。
《……ドレッド様はご無事ですよね?》
アマリアさんに声をかけられたのは、黒髪黒髭を蓄えた男。第一大隊長、グスタフ・グスマン。
どことなくアステルさんに似ている風貌のその男の腰には、かつてアステルさんが帯刀していた剣があった。
《当たり前だ。地下へ、というつもりだったが王の強いご意思で今はエルドキア様と共にけが人の治療に携わっている。こんな窮地を前に、本当の王になられたぞ、あの方は。お前の方は……見なくても、分かるな》
新たに別動隊として加わった一つの大隊。
アマリアさんは、叫ぶ。
《これより第一大隊、第三大隊合同で超大規模な攻撃魔法術式を展開します! 各自最後の魔法力をつぎ込みなさい!》
《かつてグラントヘルムの片翼を貫いた祖――アステル・グスタフの剣を持っている! 総員、魔法力をこの場一体に放出しろ! 時龍核を貫くほどの大規模魔法だ!》
アステルさんも、吠える。それにこたえて大隊はありったけの魔法力を前方のアマリアさん、グスタフにつぎ込んでいく。
《ま、待ってください!》
その大隊長二人に声をかけたのは、ネルトさんが下した木の幹で、荒い息を吐くルーナだ。
《タツヤ様が……まだですッ!》
《……異世界転移者、か》
グスマンは左腕にありったけの魔法力を込めていた。
《必ず、帰ってきます! そう約束したんです!》
《だが帰ってこない。グラントヘルムの勢いは少し止んだだろう。だが、それだけだ。奴を屠るのは、今しかない》
その証拠に、先ほどまで止まっていたグラントへルムが再び大きく口を開け始めた。
今までで一番ドでかい炎球を精製し始めていた。
《あの異世界転移者はコイツの動きを止めた。それだけでもよくやった方だ》
次第に精製される光の剣と、炎球。
《タツヤ様……!》
《ちょ、ルーナ!? あんた、また!》
震える身体に鞭を打ったルーナが、グラントヘルムに突撃していくのと同時に、俺の身体も走り出していた。
眼前に映る画像は、時龍核の本体。虹色に輝くその石に俺の持っていた欠片を打ち付けた。
ガラスのように儚く割れた映像の向こう側に見える白い光を目掛けて走り出す。
それは一瞬の出来事だった。
ここに来たときと同じような浮遊感と、肺が焼けつくかのような熱気だ。
「タヅヤ"ざま"~~!! お待ちしておりまじだ! お待ちじでお"り"ま"じだっ!!」
顔をぐじゃぐじゃにして俺を抱き寄せてきたルーナ!
いたい! めっちゃ痛い! 嬉しいけどめっちゃ痛いよルーナ!
「約束通り帰って来たよ。ちょっと遅れて悪かったな」
獣人族の怪力に持ち上げられて、すぐさまグラントヘルムとの距離を取った俺たちを確認したアマリアさんと、グスマンはにやり、不敵な笑みを浮かべた。
「総員、大規模攻撃魔法術式展開! 射てッ!!!!」
アマリアさんの号令と共にグスマンは空気一帯に広がった魔法力を一気に集約させた。
「光属性魔法、陽光の一閃ァッ!」
瞬間、剣から射出された一閃が、動きを鈍くさせたグラントヘルムの胸郭中央の時龍核を大きく貫いたーー。
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