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時空の狭間で
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「どうか、ご武運を――」
タツヤは無事に、時龍核の内部に入り込むことが出来ただろうか。
アマリア達は、防御術式をこちらに割く余裕はなかった。だからこそ、動いた。
一瞬だけのチャンスを、タツヤの意思を尊重するために、少しだけ、無茶をした。
後悔は無かった。むしろ、誇らしくさえも思えた。
今まで迷惑を掛けっぱなしだった旅の恩返しの一部にくらいはなっただろうか。
再び、この世界に戻ってきてくれるだろうか。
眼前に迫る炎球を遠目で眺めながら、ルーナは目を瞑った。
自分の為せることは、終わった。
後はタツヤを信じて待つだけだ。
その時、自分はタツヤの隣にいられるだろうか。
――もし、タツヤ様の隣に自分以外のヒトがいたら……ちょっと嫌だな。
隣にいるのが自分でなくとも、タツヤは分け隔てなく親切に接していくだろう。
タツヤと出会ってたった半年の中で。美味しいものをたくさん食べさせてもらった。家族と仲直りさせてくれた。大事にしてくれた。そんな色々な思い出が瞬時に脳裏をよぎって、消えていく。
「……あれ? おかしい……なぁ……」
もう泣かないと決めていたはずなのに。
涙が止まらなかった。
空腹による燃料切れでほとんど身体も動かない中で、ルーナが小さく手を伸ばした――
――瞬間だった。
「ったく、いつまで世話焼かせんだよバカルーナッ!」
ルーナの手を勢いよく引っ張り抜いたのは、聞き慣れた声だった――。
○○○
時龍核の内部に入った俺は、海に投げ捨てられたかのような感覚を味わっていた。
前後左右に光が反射して虹色を醸し出している。
水を掻き分けて進むようにして、前へ移る。眼前には一層光り輝くキューブ型の塊があった。
本当にこれが時空龍の身体の中なのかと疑問に思えるほど澄んだ世界にいるのは、俺ただ1人だけだ。
「――ッ!?」
だが、そんな澄んだ世界に現れたのは円形の空間だ。
その円形の空間の奥に存在するのは、少し古びた木造のフローリング。
脱ぎっぱなしでよれよれの服。
投げ出された買い出し用のビニール袋に、片付けられていない段ボール。
見覚えのある、懐かしささえも感じるアパートの部屋だった。
全てはあそこから始まったのだ。
だけど――。
――俺が求めているのは、それじゃないもんな……。
にやり、不適な笑みを浮かべてその後方にあるキューブ型の塊に手を伸ばす。
あの塊を、時龍核と呼ぶのだろう。
懐に忍ばせておいたのは、第一大隊長グスタフから預かった時龍核の欠片。
まるでそれに共鳴するかのように、互いが互いを引き寄せているのが分かった。
時龍核本体に手を伸ばす。
息もそう長くは続かないだろう。
俺は手を伸ばした先にある時龍核の本体をがっちり掴んだ。
「――ぁ?」
突如、身に降りかかったのは謎の浮遊感。
水中にいたのが、突然空中に投げ出されたかのような、そんな感覚。
考えることも、抵抗することもままならない中で空間が捻れ始める。
「あ――れ?」
吐き気、目眩、意識の混濁。
様々な痛みと違和感に支配されながら、どこかへと落とされてゆく。
グラントヘルムの中は、こんなにも広い空間だったっけ……? なんてことを頭の片隅に思い浮かべたまま、俺は意識を失っていった――。
○○○
「……ここは……?」
ふと、目を覚ます。
見慣れない藁の天井だった。
とてとてとて。
可愛らしい足音と共に俺を覗き込んだのは――金の髪をした幼女だった。
タツヤは無事に、時龍核の内部に入り込むことが出来ただろうか。
アマリア達は、防御術式をこちらに割く余裕はなかった。だからこそ、動いた。
一瞬だけのチャンスを、タツヤの意思を尊重するために、少しだけ、無茶をした。
後悔は無かった。むしろ、誇らしくさえも思えた。
今まで迷惑を掛けっぱなしだった旅の恩返しの一部にくらいはなっただろうか。
再び、この世界に戻ってきてくれるだろうか。
眼前に迫る炎球を遠目で眺めながら、ルーナは目を瞑った。
自分の為せることは、終わった。
後はタツヤを信じて待つだけだ。
その時、自分はタツヤの隣にいられるだろうか。
――もし、タツヤ様の隣に自分以外のヒトがいたら……ちょっと嫌だな。
隣にいるのが自分でなくとも、タツヤは分け隔てなく親切に接していくだろう。
タツヤと出会ってたった半年の中で。美味しいものをたくさん食べさせてもらった。家族と仲直りさせてくれた。大事にしてくれた。そんな色々な思い出が瞬時に脳裏をよぎって、消えていく。
「……あれ? おかしい……なぁ……」
もう泣かないと決めていたはずなのに。
涙が止まらなかった。
空腹による燃料切れでほとんど身体も動かない中で、ルーナが小さく手を伸ばした――
――瞬間だった。
「ったく、いつまで世話焼かせんだよバカルーナッ!」
ルーナの手を勢いよく引っ張り抜いたのは、聞き慣れた声だった――。
○○○
時龍核の内部に入った俺は、海に投げ捨てられたかのような感覚を味わっていた。
前後左右に光が反射して虹色を醸し出している。
水を掻き分けて進むようにして、前へ移る。眼前には一層光り輝くキューブ型の塊があった。
本当にこれが時空龍の身体の中なのかと疑問に思えるほど澄んだ世界にいるのは、俺ただ1人だけだ。
「――ッ!?」
だが、そんな澄んだ世界に現れたのは円形の空間だ。
その円形の空間の奥に存在するのは、少し古びた木造のフローリング。
脱ぎっぱなしでよれよれの服。
投げ出された買い出し用のビニール袋に、片付けられていない段ボール。
見覚えのある、懐かしささえも感じるアパートの部屋だった。
全てはあそこから始まったのだ。
だけど――。
――俺が求めているのは、それじゃないもんな……。
にやり、不適な笑みを浮かべてその後方にあるキューブ型の塊に手を伸ばす。
あの塊を、時龍核と呼ぶのだろう。
懐に忍ばせておいたのは、第一大隊長グスタフから預かった時龍核の欠片。
まるでそれに共鳴するかのように、互いが互いを引き寄せているのが分かった。
時龍核本体に手を伸ばす。
息もそう長くは続かないだろう。
俺は手を伸ばした先にある時龍核の本体をがっちり掴んだ。
「――ぁ?」
突如、身に降りかかったのは謎の浮遊感。
水中にいたのが、突然空中に投げ出されたかのような、そんな感覚。
考えることも、抵抗することもままならない中で空間が捻れ始める。
「あ――れ?」
吐き気、目眩、意識の混濁。
様々な痛みと違和感に支配されながら、どこかへと落とされてゆく。
グラントヘルムの中は、こんなにも広い空間だったっけ……? なんてことを頭の片隅に思い浮かべたまま、俺は意識を失っていった――。
○○○
「……ここは……?」
ふと、目を覚ます。
見慣れない藁の天井だった。
とてとてとて。
可愛らしい足音と共に俺を覗き込んだのは――金の髪をした幼女だった。
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