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フェウの初勝利!

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 もっしゃもっしゃもっしゃもっしゃ。

「ぷぅぶ、ぷぅぶぅ」

 もっしゃもっしゃもっしゃもっしゃ。

「くっ、くっ」

 もっしゃもっしゃもっしゃもっしゃ。

「何ていうか、ホントぼくたちって脅威じゃないんだね、あはは……」

「ふぁぉん」

 草むらの茂みに何となーく隠れていたぼくとフェウの前には、十数匹ほどの白角兎WHラビットの姿があった。
 びっくりするほど存在に気付かれないし、びっくりするほど警戒されていない。
 ここにもしハルトたちがいたとしても、秒で逃げられることは間違いなしだ。

 普通、ぼくみたいな15歳ほどの年齢まで達していたらEランク上位からDランク中位ほどの魔法は使えるようになる。
 そうなると、Eランク中位ほどの実力層に位置する白角兎にとっては脅威になるらしいんだけど、この年齢でEランク中位か下位ほどの魔法しか打てないぼく相手だとその警戒心も薄れてしまうということか。
 
 ある意味、ぼくは最強の白角兎キラーなのかもしれないね。

 日当たりもいいこの辺りは白角兎の大好物、癒やし草の生えも非常に良好らしい。

 うん、これくらいリラックスしていてもらった方が、ぼくたちとしても色々やりやすいんだよね。
 白角兎たちはそれぞれがほんわかと草を毟っては咀嚼している。

 ふわり、と。

 風に乗ってぼくの鼻元までやって来たのは数本の長い銀毛。
 
「これは――」

 ぼくが手に取ったそれを、フェウはしきりにくんくんと嗅いでは、「……ふぁぁお」と寂しそうに俯いた。
 そっか、この銀毛はフェウのお母さんのものなのだろう。
 強い者であった親フェンリルさんの元にいた白角兎たちの群れだったんだ。
 
「お母さんに見ててもらおうね、フェウ」

「……う゛ぁっふ」

 ぼくはフェウの頭にポンと手を置いた。フェウはその時、初めてぼくを噛まなかった。

「ぷぅ? ぶぅ?」
「…………?」
「ぷぅっ?」

 白角兎たちが咀嚼を止めて、辺りを見回し始めた。
 眉間中央に螺旋状の溝を持った白角兎たちは、お互いを見やりながら額を天に掲げた。

「ぷぅっ。ぷぉーーうっ」

「カッカッカッカッカッカッ」
「カッカッカッ」「カッカッカッ」

 一匹が鳴けば、他の兎たちが集まる。
 角同士を掛け合わせて音を鳴らし、周囲に警戒を促しているサインだ。

「う……これだけ気配消そうとしてても警戒態勢入っちゃうのか。フェウ、ぼくを見て」

 ぼくはフェウに言い聞かせて、息を整えた。
 
 フェンリルの十八番と言えば、一つに気配遮断があると聞いたことがある。
 フェウがそれを使えるかどうかは定かじゃないけども、試してみる価値はあるだろう。

「万能魔法・タイプ《気配遮断》」

 瞬間、さぁぁぁっと風が吹いたと共に白角兎たちの先ほどのざわつきが少しだけ収まりを見せた。

「わふっ?」

「しー……」

 草むらを嗅ぎ分けて、少しずつ彼らの群れの中に足を踏み入れていく。
 気配を消して、忍び寄る。一瞬の隙を突くために。

 五メートル、三メートル、一メートル……と。
 徐々に近付いて行くも、まだ彼らの警戒範囲の中にぼくは認識されていないようだった。

 ここで、後ろでじっとぼくの動向を座って見守っていたフェウが立ち上がった。

「……?」

 ――おぉ!

 首を傾げながらフェウが忍び足でこちらにやってくる。
 超微量の魔力が身体を覆い、自然と一体化しつつあるのが分かる。

「鑑定魔法、対象・フェウ」





【クラス】F






 ぼくはお馴染みの鑑定魔法をフェウに施してみた。
 ぼくの目にも、【クラス】表示以外はほとんど消え去っている。
 これはフェウが《気配遮断》の魔法で、自分自身の存在を極限まで遮断できているということだ。

「カッカッ……カッ……」
「ぷぅぅぅ、ぷぅぅぅ……」
 もっしゃ。もっさもっしゃ。

 白角兎たちの警戒は止み、再び癒やし草を食み始める。
 色々弄るように首を傾げていたし、魔力の扱い自体はほとんど覚束ない所を見ると、もしかしたらこれが初めての《気配遮断》だったのかもしれない。

 だとしたら――とっても楽しみで、とっても末恐ろしい。

「一人一匹だよ、フェウ」

「ンヴァッフ」

 フェウは真っ直ぐな瞳で獲物を視界に入れ続けた。
 前傾姿勢で音を一歩も立てずに獲物に近付くフェウの姿は、小さい狩人ハンターと言っても過言ではないだろう。

「――ァアア!! クァァァ!!」

 突然どこかで鳥の鳴き声がした。
 ビクンと兎たちの身体が跳ねる。

「プゥゥゥゥゥゥウッ!!」
「プォォォォォォ!!」

 ぼくとフェウは、お互い合図も交わしていないのに飛び出す瞬間はほとんど同時だった。

「万能魔法・タイプ《麻痺》。ちょっとピリピリするけど我慢してね」

「ぷも……も……も……」

 ぼくは幸先良く、逃げ遅れた一匹の角を掴んですぐさま麻痺魔法を施した。
 びくんびくんと痙攣する白角兎は、片手で持てるほどの重さだ。
 やっぱり効きが悪いのは、ぼくの魔法効果が低いからだろうけど……。今は暴れないくらいがちょうどいい。

 ぼくの隣では、もう一つの戦いが繰り広げられていた。

「がるるるるるるる! がるるるるる!」

 フェウは、見事に逃げ遅れた白角兎の角に牙を立てていた。
 白角兎が身をよじらせながらフェウの牙から逃れようとする。

「ぷぅぅぅ! ぷぅぅぅ! ぷ……ぅ……ンン!!」

 フェウより少し大きいくらいの身体が横に倒れれば、フェウも一緒に倒れてしまう。
 だけども、フェウはここからが強かった。

「がるるる! がるるる!!」

 身体が倒れようが、身がよじれようがフェウは白角兎の角に噛みついて離れない。
 前脚でしっかり兎の前頭部を掴み、後脚に少しの魔力をまわして両方の脚でしっかりと蹴りを繰り出している。

「ぷぅ! ぷ……うっ……!」

 フェウの蹴りがお腹にクリーンヒットしたことで、白角兎はばたりとその場に倒れ込む。

「ヴァフ」

 一仕事終わった、とばかりにフェウは気絶した兎の角を引っ張って、ぼくの前にぽとんと置いた。

 ぼくの方を見向きもせずに、一直線に白角兎の角に目がけて突っ込んでいき、物理攻撃と魔力攻撃の合わせ技までやってのけたこの小さな狩人ハンターには脱帽しかない。

「お手柄だね、フェウ!」

「かぷっ」

「いたたたたたたた!? 褒めてるじゃん! ぼく褒めてるじゃん!?」

 頭を撫でようとして、的確に指と指の間をかぷっとするフェウ。
 噛む力は、いつにも増して強かった気がするけど……。

 フェウは、満足そうに尻尾をふりふりと揺らしていたのだった。
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