上 下
10 / 39

フェウの初陣

しおりを挟む
 この世界の魔物には、大別して六つの階級が設けられている。

「万能魔法・炎、暖炉の灯火フォルターネイト!」

 こうしてぼくが万能魔法の炎攻撃を仕向けている相手は、Fランク級でどこにでも生息するスライムと呼ばれる生物だ。
 昨日、フェウの夜ご飯にもなった一般的な魔物である。

「きゅぽっ……きゅぽう……ぅ……」

 ぼくの魔法を食らったスライムは、炎に充てられて蒸発して消えていく。
 体液のおおよそ98%を水で占めているスライムには、炎の攻撃効果が最大になる。

「ヴァウルルル。はぐっ、はぐっ」

「つ、つまみ食いはダメだよフェウ! 後でもっと美味しいものあげるからぁぁぁ!」

「……ぐるるるるる」

「ホントフェウってぼくにだけ懐いてくれないよね……? おばちゃんにはあんなに怯えてたってのに……?」

 ぼくは、基本どの魔法でもEランク程度の魔法しか使えない。
 となると、隷属魔法でフェウを一応縛れているってことは、フェウも大体Eランク程度ってことになる。
 ぼくの所属していたアーセナル・レッドはBランクだった。これはつまり、Bランク程度――おおよそ牛頭人身の怪物・ミノタウロス――ほどの魔物を皆で一斉にかかれば討伐できるほどだ。

 通常は、A~Fランクの六つに分かれるが、例外的な存在もある。

「それを考えると、あの親フェンリルは災害級とまで言われてた。一ギルドからは保健保障適応外な上に、中央から派遣された国家の冒険者様たちの名前も囁かれていたら……Sランクってことになるのかなぁ」

 それの一つが、あの親フェンリルなんだろう。
 災害級の認定がなされれば、ぼくたち民間の一ギルド冒険者の手に負える方が少ない。
 中央政権のギルドから大勢の軍隊と、数少ない勇者様を動員して立ち向かうというのがこの国の習わしだ。

 ――この子を、あなたの手で育て上げてもらいたいのです。

 親フェンリルの提案をぼくは受け入れたけど、やっぱり……あの親フェンリルの子ってことは、いつか災害級のフェンリルにフェウも成長してしまう。

 そんなフェウの目の前に、二匹のスライムが現れた。

「ぱぅっ。ぽぅっ」「ぽぅっぽぅっぽぅっ」

 ぷよぷよとした一メートルほどの体躯は、フェウよりも少し大きいくらいだろうか。
 それでもおおよそF等級の魔物ならば、フェウの実力を見てみるにしても初陣としては最適だ。

「がるるるるる……!」

 フェウは小さな身体を精一杯大きくして、毛並みも全て逆立てる。
 地面をザッ、ザッと小さく鳴らしたフェウは眉間に皺を寄せた。

「がぅっ!!」

 軽快に地面を蹴ったフェウは、にょきりと爪を出して一気に二匹との間合いを詰めていく。

「ぽぅっ」「ぱうぱぅ」

 ぷよん、ぷよよんと壁を作って待ち構えるは赤、青と変色させたスライム。
 スライムは、消化してきた魔物の属性がそのまま現れるという。
 おそらくは、森の中の火属性・水属性の魔法を得意とする魔物を吸収消化した結果だろう。
 が、彼らは魔法を出す素振りすら見せなかった。

「がぅっ!!」

 フェウが突き出した爪での引っ掻き攻撃。だが、スライムには全く効いていなかった。
 ずぷりとスライムの身体にはまった爪を何とか引き戻そうと試みるも、赤へ、青へ、紫へ、緑へ次々と体色を変化させていくスライム。
 最終的には灰色となり、その身体はガチリと固まった。

「あちゃー、あのスライム、筋肉狼マッスルウルフ消化してたのか」

 その色を見て、一目で分かる。
 とある森では生態系のトップに君臨することもある、Cランク魔物筋肉狼マッスルウルフ。全身を筋肉で覆われているため俊敏さと力強さを併せ持つ厄介な魔物として害獣駆除の対象になることもしばしばだ。

 って言っても、この森に筋肉狼マッスルウルフなんてものがいたなんてのは初めて聞いたけど……。
 親フェンリルさんに何かがあって、生態系もちょっとだけ変わっちゃったんだろうか。

「がるっ! がるっ! がるっ!」

 スライムの身体から抜けない爪に、フェウも焦り気味だ。
 と思えば、フェウの真後ろにもう一体が近付いてきている。
 ……流石に、頃合いかな。

 ぼくはフェウに近付きながら、炎魔法の発動準備を整えた。
 
筋肉狼マッスルウルフを消化しているスライムなら、狼の特性である硬化をトレースしてるはず。引っ張っても抜けないなら、押し倒して硬化が解けた瞬間に抜け出すしかないんだよね。炎魔法――」

 そう言ってぼくは、フェウの真後ろにいた一匹を蒸発させた。
 ――と。

「がぁぁうっ!!」
「きゅぉ?」

 フェウは、急に腕を引っ張るのを止めて、ぼくが言った通りに・・・・・・・・・スライムを前へと押し倒した。
 当のスライムは、転ぶのを防ぐためか一瞬だけ硬化を解いて元の薄青色の半透明な姿に戻って――。

「がうるっ! ぱうっ!!」

 フェウは小さく跳躍した。ぼくの魔法効果外に逃れるようにするそのタイミングは、完璧だった。

「ぱうるるるるるる……」

 ぼくの炎魔法に充てられて蒸発していくスライム。フェウはタンッと地面に綺麗に着地して、ぼくに目を合わせようとしなかった。

「……フェウ?」

 ぼくの心に、一つの疑念が宿った瞬間だった。

「ぼくの言葉、分かってない……?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします

ねこねこ大好き
ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。 彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。 転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。 召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。 言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど チートが山盛りだった。 対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」 それ以外はステータス補正も無い最弱状態。 クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。 酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。 「ことばわかる?」 言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。 「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」 そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。 それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。 これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。 ------------------------------ 第12回ファンタジー小説大賞に応募しております! よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです! →結果は8位! 最終選考まで進めました!  皆さま応援ありがとうございます!

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

異世界でのんきに冒険始めました!

おむす微
ファンタジー
色々とこじらせた、平凡な三十路を過ぎたオッサンの主人公が(専門知識とか無いです)異世界のお転婆?女神様に拉致されてしまい……勘違いしたあげく何とか頼み込んで異世界に…?。  基本お気楽で、欲望全快?でお届けする。異世界でお気楽ライフ始めるコメディー風のお話しを書いてみます(あくまで、"風"なので期待しないで気軽に読んでネ!)一応15R にしときます。誤字多々ありますが初めてで、学も無いためご勘弁下さい。  ただその場の勢いで妄想を書き込めるだけ詰め込みますので完全にご都合主義でつじつまがとか気にしたら敗けです。チートはあるけど、主人公は一般人になりすましている(つもり)なので、人前で殆んど無双とかしません!思慮が足りないと言うか色々と垂れ流して、バレバレですが気にしません。徐々にハーレムを増やしつつお気楽な冒険を楽しんで行くゆる~い話です。それでも宜しければ暇潰しにどうぞ。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

両親が勇者と魔王だなんて知らない〜平民だからと理不尽に追放されましたが当然ざまぁします〜

コレゼン
ファンタジー
「ランス、おまえみたいな適なしの無能はこのパーティーから追放だ!」  仲間だと思っていたパーティーメンバー。  彼らはランスを仲間となどと思っていなかった。  ランスは二つの強力なスキルで、パーティーをサポートしてきた。  だがそんなランスのスキルに嫉妬したメンバーたちは洞窟で亡き者にしようとする。  追放されたランス。  奴隷だったハイエルフ少女のミミとパーティーを組み。  そして冒険者として、どんどん成りあがっていく。  その一方でランスを追放した元パーティー。  彼らはどんどん没落していった。  気づけはランス達は、元パーティーをはるかに凌駕していた。  そんな中、ある人物からランスは自身の強力なスキルが、勇者と魔王の固有のスキルであることを知らされる。 「え!? 俺の両親って勇者と魔王?」  ランスは様々な争いに次々と巻き込まれていくが――  その勇者と魔王の力とランス自身の才によって、周囲の度肝を抜く結果を引き起こしてゆくのであった。 ※新たに連載を開始しました。よければこちらもどうぞ!  魔王様は転生して追放される。今更戻ってきて欲しいといわれても、もう俺の昔の隷属たちは離してくれない。  https://www.alphapolis.co.jp/novel/980968044/481690134  (ページ下部にもリンクがあります)

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...