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エピローグ②:魔王討伐6年後
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俺とミノリの間には子どもができなかった。
古来より異種族間交配に関する文献は様々あったが、結局どれも成功した例はない。
それに、まだ生まれていない生命レベルの生き死にを左右する魔法はこの世に存在しなかった。
考えてみれば生命の根本に干渉する《輪廻転生》も《異世界転生》も魔法とは違う因子という別の存在だ。
生物は後世に自らの子孫を残すことで、種と自らが生きた証を残そうとする本能がある。
ミノリが選択した《生きた証》を残す方法が、自身が人生を賭けて切り開いた剣術を広めるということだったのだろう。
「許可を取る必要もないけど、いいんじゃないかな。応援するよ。アテはあるのかい?」
「はいっ! 実は以前、城塞に買い出しに行っていた時にガリウス様から空いた土地の紹介があったんです」
ミノリはそう言って城塞城下の地図にある、とある部分を指さした。
「……なるほど。ここを選んだなら、天国で彼女も喜んでくれそうだ」
そこはかつてグリレットさんの妻、シルファさんが経営していた大衆食堂の跡地だった。
――もし私が死んだら、食堂の後はミノリちゃんの好きなように使いんさい。ミノリちゃんのやりたいことが出来たときに使いたいように使ってくれたらえぇ。ガリウスにもそう言っとくからね。
かつて、シルファさんはそうミノリに遺言を残してくれていた。
国防の要、そして他国との交流源となるククレ城塞の土地は一坪持とうとするだけでかなりの値段がかかる。
にも関わらずガリウスくんも、シルファさんの遺言通りにあの土地を変わらず残しておいてくれたという。
「向こうでシルファ様にお会いしたときに恥じることのないような道場にしないといけませんね!」
やる気十分。そう言った様子でミノリは笑顔を浮かべた。
魔王戦終結後に人間界に戻ってきたからというもの、相変わらず俺は瘴気魔法の新たな習得と《輪廻転生》解析に勤しんでいたが、ミノリは片時も俺の側から離れなかった。
剣の修行をして、城塞へ一緒に買い出しへ行き、一緒にご飯を作り、一緒に食べて、くだらない雑談をしながら一緒に魔術書を読んで、一緒に寝る。
そんな他愛のない生活が続いた3年間だった。
勇者ジン君の活躍を新聞で見る度にミノリはこんな小さな所で一生を終えるんじゃなく、もっと大きな世界に羽ばたくべきなんじゃないかと思ってしまっている自分がいた。
俺はあと900年近くもある。
だけどもミノリにそこまでの時間は残されてはいないのだから。
方法があるとすれば――。
「ね、ミノリ。もし……もしも、魔王のように将来再びこの世に復活出来るかもしれないとしたら、どうする?」
俺のズルい問いかけに、ミノリは夕食後のお皿を洗いながら困ったように呟く。
「もしいつかの未来の世界でもう一度生まれ変わるなら……そうですねぇ」
ミノリは「うーん」と首を傾げた。
「未来の世界を見たい気もします。リース様はエルフ族なので、もう一度リース様とお会い出来るかもしれません。また二人で色々な所を旅してまわるのもいいかもしれないですね」
「じゃあ――」
「でも、その未来の時が来るまでリース様をお待たせしてしまうくらいならば、わたしはリース様と過ごせる今の時をせいいっぱい大事にしたいです」
ぴっとりと寄り添ってくるミノリの体温は、いつにも増して温かかった。
《因子》は、本人が強く望まない限り発現しないことが分かっている。
輪廻転生であれば、「もう一度世界を征服するために甦りたい」と。
異世界転生であれば、「次の人生こそ本気で生きたい」と。
勇者であれば、「みんなを守れるだけの圧倒的な力が欲しい」と。
因子持ちはみな、並々ならぬ決意と強い覚悟を持ってその因子を発現させている。
「……そっか」
エルフに転生してから113年目。
――その3年後、ミノリはガリウスくんの協力も経てククレ城塞の城下町に立派な剣術道場を建てた。
オゥル皇国管轄ククレ城塞に出来たとある剣術道場では、後に世界を席巻する二つの剣術流派が誕生することになる。
一つ、剣技を主としながら魔法の補助を入れて戦う《ミノリ流剣技術》。
一つ、魔法を主としながら剣技の補助を入れて戦う《リース流剣技術》。
二人の名前をそのまま入れるのは恥ずかしい、なんて思っていたのは最初の方だけで。
《魔法》と《剣技》の複合技で敵と相対する流派は時を経て、《魔剣士》という新たな冒険者職業を生み出すまでになった。
ミノリが剣を教え、俺が魔法を研究する。
その基本的なスタンスが新たに確立したものの、俺たちは相変わらず今まで通りの他愛の無い生活を続けて――46年の月日が経った。
古来より異種族間交配に関する文献は様々あったが、結局どれも成功した例はない。
それに、まだ生まれていない生命レベルの生き死にを左右する魔法はこの世に存在しなかった。
考えてみれば生命の根本に干渉する《輪廻転生》も《異世界転生》も魔法とは違う因子という別の存在だ。
生物は後世に自らの子孫を残すことで、種と自らが生きた証を残そうとする本能がある。
ミノリが選択した《生きた証》を残す方法が、自身が人生を賭けて切り開いた剣術を広めるということだったのだろう。
「許可を取る必要もないけど、いいんじゃないかな。応援するよ。アテはあるのかい?」
「はいっ! 実は以前、城塞に買い出しに行っていた時にガリウス様から空いた土地の紹介があったんです」
ミノリはそう言って城塞城下の地図にある、とある部分を指さした。
「……なるほど。ここを選んだなら、天国で彼女も喜んでくれそうだ」
そこはかつてグリレットさんの妻、シルファさんが経営していた大衆食堂の跡地だった。
――もし私が死んだら、食堂の後はミノリちゃんの好きなように使いんさい。ミノリちゃんのやりたいことが出来たときに使いたいように使ってくれたらえぇ。ガリウスにもそう言っとくからね。
かつて、シルファさんはそうミノリに遺言を残してくれていた。
国防の要、そして他国との交流源となるククレ城塞の土地は一坪持とうとするだけでかなりの値段がかかる。
にも関わらずガリウスくんも、シルファさんの遺言通りにあの土地を変わらず残しておいてくれたという。
「向こうでシルファ様にお会いしたときに恥じることのないような道場にしないといけませんね!」
やる気十分。そう言った様子でミノリは笑顔を浮かべた。
魔王戦終結後に人間界に戻ってきたからというもの、相変わらず俺は瘴気魔法の新たな習得と《輪廻転生》解析に勤しんでいたが、ミノリは片時も俺の側から離れなかった。
剣の修行をして、城塞へ一緒に買い出しへ行き、一緒にご飯を作り、一緒に食べて、くだらない雑談をしながら一緒に魔術書を読んで、一緒に寝る。
そんな他愛のない生活が続いた3年間だった。
勇者ジン君の活躍を新聞で見る度にミノリはこんな小さな所で一生を終えるんじゃなく、もっと大きな世界に羽ばたくべきなんじゃないかと思ってしまっている自分がいた。
俺はあと900年近くもある。
だけどもミノリにそこまでの時間は残されてはいないのだから。
方法があるとすれば――。
「ね、ミノリ。もし……もしも、魔王のように将来再びこの世に復活出来るかもしれないとしたら、どうする?」
俺のズルい問いかけに、ミノリは夕食後のお皿を洗いながら困ったように呟く。
「もしいつかの未来の世界でもう一度生まれ変わるなら……そうですねぇ」
ミノリは「うーん」と首を傾げた。
「未来の世界を見たい気もします。リース様はエルフ族なので、もう一度リース様とお会い出来るかもしれません。また二人で色々な所を旅してまわるのもいいかもしれないですね」
「じゃあ――」
「でも、その未来の時が来るまでリース様をお待たせしてしまうくらいならば、わたしはリース様と過ごせる今の時をせいいっぱい大事にしたいです」
ぴっとりと寄り添ってくるミノリの体温は、いつにも増して温かかった。
《因子》は、本人が強く望まない限り発現しないことが分かっている。
輪廻転生であれば、「もう一度世界を征服するために甦りたい」と。
異世界転生であれば、「次の人生こそ本気で生きたい」と。
勇者であれば、「みんなを守れるだけの圧倒的な力が欲しい」と。
因子持ちはみな、並々ならぬ決意と強い覚悟を持ってその因子を発現させている。
「……そっか」
エルフに転生してから113年目。
――その3年後、ミノリはガリウスくんの協力も経てククレ城塞の城下町に立派な剣術道場を建てた。
オゥル皇国管轄ククレ城塞に出来たとある剣術道場では、後に世界を席巻する二つの剣術流派が誕生することになる。
一つ、剣技を主としながら魔法の補助を入れて戦う《ミノリ流剣技術》。
一つ、魔法を主としながら剣技の補助を入れて戦う《リース流剣技術》。
二人の名前をそのまま入れるのは恥ずかしい、なんて思っていたのは最初の方だけで。
《魔法》と《剣技》の複合技で敵と相対する流派は時を経て、《魔剣士》という新たな冒険者職業を生み出すまでになった。
ミノリが剣を教え、俺が魔法を研究する。
その基本的なスタンスが新たに確立したものの、俺たちは相変わらず今まで通りの他愛の無い生活を続けて――46年の月日が経った。
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