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第53話 名無しの少女、名を名乗る。
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一閃。
瘴気空間の外では、炎の残像を残しながら縦横無尽に戦場を駆け巡る紅髪の女がいた。
「すげぇ……この量をたった一人で――」
女が剣を振るう度に魔族が一人、また一人と倒れ魔獣たちが焼け焦がされていく。
獅子奮迅の活躍に、城塞兵達は消耗戦の果てにようやく勝ち筋を見い出していた。
そんな中でククレ城塞門番長のラヴィは盾を担いで、我先にと魔獣たちの魔法攻撃を受け止め始めた。
「嬢ちゃんが奴等を叩きやすいように肉壁を作れ! 魔獣共の視界を留めるくらいなら俺たちにでも出来るだろう! 20年間城塞を守り続けた俺たちの力、見せつけるぞ! 気張れェェェェッッ!!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!』
雄々しい叫びを上げながら、城塞兵達は残り少ない気力と体力で魔獣達の標的となり続ける。
次々に消滅していく魔獣たち。既にグルゲア以外の魔族たちは戦闘不能状態だ。
次第に戦場がたちまち一体となる。
皆がミノリをサポートし、ミノリは息つく間もなく戦場を飛び回り、魔獣を斬り伏せていく。
「嬢ちゃん、行けぇぇぇぇぇぇ!! そこに追い込んだ魔獣がラストだッ!!」
ククレ城塞兵の皆が、ボロボロの盾で魔獣を追い込んでいく。
「グゲゲェッ!?」
ミノリは戦場最後の魔獣を目の中に捕らえる。
「わたしがご命令を聞くのはリース様のみです。……しかし、そのリース様がお任せ下さったこの戦場。不肖ミノリ、全身全霊にてお応えしますっ」
――ミノリは魔法は大雑把なんだけどねぇ。剣の技術なら俺でも勝てないことも多い。これはもはやセンスと努力が合わさらないと出来ない芸当だ。だから自信を持って剣の技術を伸ばしてくれ。
ミノリはリースから教わったことを忠実に守ってきた。
――剣術7割、魔法3割。それがミノリの黄金比率だ。俺の背中を任せられるのは君しかいないからね。頼んだよ。
リースが魔王を倒すまでの間、この戦場を任された。
守られる存在から一緒に立ち向かう存在へと成長したのは何もジン・フリッツだけではない。
ミノリにはリースの隣を10年共に歩いてきた自負がある。
「――姉弟子として、リース様の隣を歩く者として。ジン君にはまだまだ負けられませんからね」
剣を強く握りしめ、大地を蹴る。
身体をしならせ魔力を滾らせ、ミノリは魔獣の中心線に向けて最速で剣を振り下ろす。
炎の弧を描きながら振り抜くその一撃こそ、ミノリの剣と魔法を合わせた独自の魔剣術の完成形だった。
「――上級火炎魔法魔力付与。不知火の残像剣」
振り下ろすと魔獣の動きがピタリと止まる。
チン、と。
金属の音を鳴らして燃える剣を鞘に収めた――その直後だった。
「グェラ……グェラァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
ボボボボボボッッッ!!!!
斬られた場所から幾重にも炎が巻き上がり、魔獣は一瞬にして炎の渦に包まれた。
斬った魔獣は120。
戦闘不能にした魔族、実に300余り。
城塞兵の損失、ゼロ。
リースの言いつけを忠実に守ったミノリの戦闘はこれにて終わり――の、はずだった。
「嬢ちゃぁぁぁぁぁん!!! すっげぇ! すっげぇな! なんだあの技! あの魔法!! 見たことねぇよ!!!」
「アンタそれ、どこの流派だ!? 俺も使えたりしねぇのかな!?」
「……胸のその十字傷? もしかしてアンタ、あの名無しって奴じゃ……」
「名無し!? 数年前に話題になってた所属不明の剣使いってのは嬢ちゃんのことだったのか!」
「名無し姫ならこれだけ強いのも納得だわなー」
緊張の糸が切れてミノリの元に集まってくる城塞兵たちに、ミノリは少し不満げだ。
だが――。
「な、嬢ちゃん。結局アンタの名は何て言うんだ?」
「――ミノリ。わたしの師匠で、わたしの一番大切なヒトからいただいた、この世でたった一つのかけがえのない名前です」
一人の城塞兵の言葉に、ミノリは待ってましたとばかりに胸を張った。
ミノリのあまりのドヤ顔には、城塞兵達の口もおおいに緩んでいた。
「ミノリ嬢ちゃんか。いい名だ」
「さっそくで悪いんだがよ、ミノリちゃん。ミノリちゃんのその剣ってどうやって――」
「待て待て、炎属性なら俺の方が使えるだろう! ミノリちゃんに先に教わるのは俺だぞ!」
名無しと呼ばれていたかつての少女を、その名で呼ぶ者はもういない――。
瘴気空間の外では、炎の残像を残しながら縦横無尽に戦場を駆け巡る紅髪の女がいた。
「すげぇ……この量をたった一人で――」
女が剣を振るう度に魔族が一人、また一人と倒れ魔獣たちが焼け焦がされていく。
獅子奮迅の活躍に、城塞兵達は消耗戦の果てにようやく勝ち筋を見い出していた。
そんな中でククレ城塞門番長のラヴィは盾を担いで、我先にと魔獣たちの魔法攻撃を受け止め始めた。
「嬢ちゃんが奴等を叩きやすいように肉壁を作れ! 魔獣共の視界を留めるくらいなら俺たちにでも出来るだろう! 20年間城塞を守り続けた俺たちの力、見せつけるぞ! 気張れェェェェッッ!!」
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!』
雄々しい叫びを上げながら、城塞兵達は残り少ない気力と体力で魔獣達の標的となり続ける。
次々に消滅していく魔獣たち。既にグルゲア以外の魔族たちは戦闘不能状態だ。
次第に戦場がたちまち一体となる。
皆がミノリをサポートし、ミノリは息つく間もなく戦場を飛び回り、魔獣を斬り伏せていく。
「嬢ちゃん、行けぇぇぇぇぇぇ!! そこに追い込んだ魔獣がラストだッ!!」
ククレ城塞兵の皆が、ボロボロの盾で魔獣を追い込んでいく。
「グゲゲェッ!?」
ミノリは戦場最後の魔獣を目の中に捕らえる。
「わたしがご命令を聞くのはリース様のみです。……しかし、そのリース様がお任せ下さったこの戦場。不肖ミノリ、全身全霊にてお応えしますっ」
――ミノリは魔法は大雑把なんだけどねぇ。剣の技術なら俺でも勝てないことも多い。これはもはやセンスと努力が合わさらないと出来ない芸当だ。だから自信を持って剣の技術を伸ばしてくれ。
ミノリはリースから教わったことを忠実に守ってきた。
――剣術7割、魔法3割。それがミノリの黄金比率だ。俺の背中を任せられるのは君しかいないからね。頼んだよ。
リースが魔王を倒すまでの間、この戦場を任された。
守られる存在から一緒に立ち向かう存在へと成長したのは何もジン・フリッツだけではない。
ミノリにはリースの隣を10年共に歩いてきた自負がある。
「――姉弟子として、リース様の隣を歩く者として。ジン君にはまだまだ負けられませんからね」
剣を強く握りしめ、大地を蹴る。
身体をしならせ魔力を滾らせ、ミノリは魔獣の中心線に向けて最速で剣を振り下ろす。
炎の弧を描きながら振り抜くその一撃こそ、ミノリの剣と魔法を合わせた独自の魔剣術の完成形だった。
「――上級火炎魔法魔力付与。不知火の残像剣」
振り下ろすと魔獣の動きがピタリと止まる。
チン、と。
金属の音を鳴らして燃える剣を鞘に収めた――その直後だった。
「グェラ……グェラァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
ボボボボボボッッッ!!!!
斬られた場所から幾重にも炎が巻き上がり、魔獣は一瞬にして炎の渦に包まれた。
斬った魔獣は120。
戦闘不能にした魔族、実に300余り。
城塞兵の損失、ゼロ。
リースの言いつけを忠実に守ったミノリの戦闘はこれにて終わり――の、はずだった。
「嬢ちゃぁぁぁぁぁん!!! すっげぇ! すっげぇな! なんだあの技! あの魔法!! 見たことねぇよ!!!」
「アンタそれ、どこの流派だ!? 俺も使えたりしねぇのかな!?」
「……胸のその十字傷? もしかしてアンタ、あの名無しって奴じゃ……」
「名無し!? 数年前に話題になってた所属不明の剣使いってのは嬢ちゃんのことだったのか!」
「名無し姫ならこれだけ強いのも納得だわなー」
緊張の糸が切れてミノリの元に集まってくる城塞兵たちに、ミノリは少し不満げだ。
だが――。
「な、嬢ちゃん。結局アンタの名は何て言うんだ?」
「――ミノリ。わたしの師匠で、わたしの一番大切なヒトからいただいた、この世でたった一つのかけがえのない名前です」
一人の城塞兵の言葉に、ミノリは待ってましたとばかりに胸を張った。
ミノリのあまりのドヤ顔には、城塞兵達の口もおおいに緩んでいた。
「ミノリ嬢ちゃんか。いい名だ」
「さっそくで悪いんだがよ、ミノリちゃん。ミノリちゃんのその剣ってどうやって――」
「待て待て、炎属性なら俺の方が使えるだろう! ミノリちゃんに先に教わるのは俺だぞ!」
名無しと呼ばれていたかつての少女を、その名で呼ぶ者はもういない――。
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