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第35話 転生エルフ(106)、巣立たせる。
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「よく俺を信じてついてきてくれたね、ジン君。お疲れさま」
ジン君と出会ってから366日目の朝。
彼の魔力の器は当初の頃とは比べものにならないほどに大きく成長した。
「……ありがとうございます?」
いつもの日課として剣の素振りをしていたジン君は、突然のことに驚いているようだった。
「修行を次の段階に進めよう。外の世界に出向いて、実際に人助けのためにその力を使うんだ」
俺の発した一言にジン君の表情がピリッと締まった。
ジン君にはもう必要充分量の魔力容量は備わった。
いつ《勇者》の因子が開花してもそれを受け入れるだけの器は出来上がっている。
「なるほど、ついにギルドで冒険者として活動して良いってことですね!」
「その通り。ただし、仲間を見つけることだ。野良冒険者で突き進むとなれば限界が来る。ギルドで高位の依頼をこなしていくなら仲間との連携や行動は必須になってくるだろうからね」
一転して不安そうに唾を飲み込むジン君。
それもそうだ。彼はちょうど1年前、その仲間だと思っていた人たちに裏切られてここにいるのだから。
「仲間、ですか……」
「不安だろうけどあの頃とはもう違う。ジン君は強い。魔力付与も、魔力の流れを読むことも、魔力の流し方も跳ね返し方も知っている。今のキミなら魔力を存分に使うA級冒険者と戦っても負けることはないよ」
一時期はミノリも冒険者だった身だ。
だが彼女は最後までソロ活動をしていたし、野良冒険者とも揶揄されていた。
正規の手続きを踏んでなければ手当たり次第に魔獣を倒すことしか出来ない。
魔獣の増殖盛んな今ならギルド経由で正規の依頼をこなした方が名も挙げやすくなるし、魔王の元にも辿りやすくもなるだろう。
とはいえ俺の目の届かない所に彼を一人で野放しにするのも心配だ。
万が一、因子覚醒前に彼が死んでしまってはここまでの俺やジン君の努力も水の泡になってしまう。
「ま、何とかなるのだ。何せ、お主にはこの我が付いてやるのだからな。ぬはははは!」
だからこそ、俺はこの子に最強のボディーガードをつけることにした。
パタパタと翼をはためかせてジン君の肩に降り立ったのは、半年間の居候を楽しむミニマム黒龍だった。
「ヴリトラさん!? この半年間、ずっと軒先で日向ぼっこして眠っていたあなたがなんで……!?」
「お主、我を何だと思っておるのだ……。半年前に交わしたリースとの約束なのだ。お主が小娘よりも強くなろうものならば、我がお主の旅路に付いて行ってやろうとな」
この半年間、ヴリトラもただここで居候していただけではない。
ヴリトラには半年前に、もしジン君が強くなって魔王に対抗出来る可能性を見出したら彼の冒険に付いて行って欲しいとお願いしていたのだ。
「今後二度と封印されぬように、我も人間の生態を理解しておかねばならんのだ」と小さく付け加えたヴリトラにも、密かに目的はあるみたいだけど。
未だ因子が開花していないジン君のみをここから出してしまうのは少し心配だが、ヴリトラが付いて行ってくれるなら安心できる。
ジン君としても心強い味方にはなるだろうしね。
(頼んだよ、ヴリトラ)
俺が目線をやるとヴリトラは翼を立てて「任されたのだ」と目で訴えてきた。
――四大元素魔法を用いる仲間を見つけて、魔族と魔獣討伐に特化した《勇者》因子を開花させるんだ。
半年前、俺はもう一つの目的をヴリトラに伝えている。
過去のいくつかの魔道書や『魔法不適合者の英雄譚』などの伝承から、勇者因子の開花には二つの条件があると見ている。
一つに、諦めずに自らの力を磨き続けること。
俺のような《転生》因子持ちなどがこの世に生まれた瞬間に発動する先天型のものとすると、ジン君のような《勇者》因子は本人の生き様によって開花が変わる後天型とも言えるものだ。
開花するのに充分な時間を費やす分、開花した時には爆発的な力を得やすくなるのだろう。
そして二つ目に火、水、土、風属性を合わせた四大元素魔法を持ったそれぞれの仲間がいること。
伝承をそれぞれ紐解いてみると、かつての勇者候補も魔法が使えないことを理由に何度も組織を追放されていたという。
10年近く放浪を繰り返した先に、たまたま巡り会った仲間がそれぞれ違う四大元素魔法を持っており、長年お互いが高め合った結果として《因子》が開花したのだ。
この世の万物を司ると言われる四大元素魔法の対として、この世の理の埒外にある《因子》が関与しているのだと考えれば納得もいく。
――なるほど。我は火の魔法を使う。となると、残りの水・土・風属性の者を仲間にすればいいのだな。承ったのだ!
みんなの笑顔を守りたくて冒険者になるジン君は、魔王の出現を見逃せるわけもない。
正義感の強い彼のことだ。魔王は確実に倒してくれるだろう。
そして残り900年をのんびり過ごしたい俺は魔王がここで倒れてくれると非常に都合が良い。
まさにWIN-WINというわけだ。
「さぁ、行っておいで。いつの日かジン君の名声がここまで轟いてくることを期待しているよ」
これからの平穏な900年を過ごしたい俺の期待を一身に受けるジン君。
その瞳は、1年前のそれとは違ってずいぶんとたくましいものになっていた。
ジン君と出会ってから366日目の朝。
彼の魔力の器は当初の頃とは比べものにならないほどに大きく成長した。
「……ありがとうございます?」
いつもの日課として剣の素振りをしていたジン君は、突然のことに驚いているようだった。
「修行を次の段階に進めよう。外の世界に出向いて、実際に人助けのためにその力を使うんだ」
俺の発した一言にジン君の表情がピリッと締まった。
ジン君にはもう必要充分量の魔力容量は備わった。
いつ《勇者》の因子が開花してもそれを受け入れるだけの器は出来上がっている。
「なるほど、ついにギルドで冒険者として活動して良いってことですね!」
「その通り。ただし、仲間を見つけることだ。野良冒険者で突き進むとなれば限界が来る。ギルドで高位の依頼をこなしていくなら仲間との連携や行動は必須になってくるだろうからね」
一転して不安そうに唾を飲み込むジン君。
それもそうだ。彼はちょうど1年前、その仲間だと思っていた人たちに裏切られてここにいるのだから。
「仲間、ですか……」
「不安だろうけどあの頃とはもう違う。ジン君は強い。魔力付与も、魔力の流れを読むことも、魔力の流し方も跳ね返し方も知っている。今のキミなら魔力を存分に使うA級冒険者と戦っても負けることはないよ」
一時期はミノリも冒険者だった身だ。
だが彼女は最後までソロ活動をしていたし、野良冒険者とも揶揄されていた。
正規の手続きを踏んでなければ手当たり次第に魔獣を倒すことしか出来ない。
魔獣の増殖盛んな今ならギルド経由で正規の依頼をこなした方が名も挙げやすくなるし、魔王の元にも辿りやすくもなるだろう。
とはいえ俺の目の届かない所に彼を一人で野放しにするのも心配だ。
万が一、因子覚醒前に彼が死んでしまってはここまでの俺やジン君の努力も水の泡になってしまう。
「ま、何とかなるのだ。何せ、お主にはこの我が付いてやるのだからな。ぬはははは!」
だからこそ、俺はこの子に最強のボディーガードをつけることにした。
パタパタと翼をはためかせてジン君の肩に降り立ったのは、半年間の居候を楽しむミニマム黒龍だった。
「ヴリトラさん!? この半年間、ずっと軒先で日向ぼっこして眠っていたあなたがなんで……!?」
「お主、我を何だと思っておるのだ……。半年前に交わしたリースとの約束なのだ。お主が小娘よりも強くなろうものならば、我がお主の旅路に付いて行ってやろうとな」
この半年間、ヴリトラもただここで居候していただけではない。
ヴリトラには半年前に、もしジン君が強くなって魔王に対抗出来る可能性を見出したら彼の冒険に付いて行って欲しいとお願いしていたのだ。
「今後二度と封印されぬように、我も人間の生態を理解しておかねばならんのだ」と小さく付け加えたヴリトラにも、密かに目的はあるみたいだけど。
未だ因子が開花していないジン君のみをここから出してしまうのは少し心配だが、ヴリトラが付いて行ってくれるなら安心できる。
ジン君としても心強い味方にはなるだろうしね。
(頼んだよ、ヴリトラ)
俺が目線をやるとヴリトラは翼を立てて「任されたのだ」と目で訴えてきた。
――四大元素魔法を用いる仲間を見つけて、魔族と魔獣討伐に特化した《勇者》因子を開花させるんだ。
半年前、俺はもう一つの目的をヴリトラに伝えている。
過去のいくつかの魔道書や『魔法不適合者の英雄譚』などの伝承から、勇者因子の開花には二つの条件があると見ている。
一つに、諦めずに自らの力を磨き続けること。
俺のような《転生》因子持ちなどがこの世に生まれた瞬間に発動する先天型のものとすると、ジン君のような《勇者》因子は本人の生き様によって開花が変わる後天型とも言えるものだ。
開花するのに充分な時間を費やす分、開花した時には爆発的な力を得やすくなるのだろう。
そして二つ目に火、水、土、風属性を合わせた四大元素魔法を持ったそれぞれの仲間がいること。
伝承をそれぞれ紐解いてみると、かつての勇者候補も魔法が使えないことを理由に何度も組織を追放されていたという。
10年近く放浪を繰り返した先に、たまたま巡り会った仲間がそれぞれ違う四大元素魔法を持っており、長年お互いが高め合った結果として《因子》が開花したのだ。
この世の万物を司ると言われる四大元素魔法の対として、この世の理の埒外にある《因子》が関与しているのだと考えれば納得もいく。
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