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第17話 転生エルフ(100)、約束を果たす。

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 ククレ城塞の城下町は多くのヒト族で賑わっていた。
 様々な飲食の出店に、魔道書屋と武具屋。
 オゥル皇国の紋章以外にも様々な国の物で溢れている。
 
 辺境伯領は異国と最も近い領土であるための交流拠点になることも多い。
 なるほど各国に散らばる魔道書が効率的に手に入っていたわけだ。

 グリレットさんの復活から1週間。
 外に出られるほどにまで回復したグリレットさんの提案により、俺はかっての約束通りククレ城塞を案内してもらうことになった。

「旦那も律儀な人っスね。わざわざ人の嫁さん見にこんなトコまでやって来るなんて」

 足腰の悪いグリレットさんを車椅子に乗せて城下町を進む。
 
「昔から約束は守る方なんだ。聞く所によれば奥さんはまだ元気に出店やってるんだってね。前領主様の奥さんが城下町で働いているってのは意外だな」

「あぁ、嫁さん――シルファは昔から料理が抜群に上手くてな。40年間の付き合いで、狩ってきた魔獣を嫌な顔一つせずに捌いて美味い飯にして振る舞ってくれてたんスよ。魔獣掃討から帰ってシルファの飯食ってるときが一番幸せだった。今も料理を続けてくれてるっての知った時は嬉しかったなァ」

 そういえば、グリレットさんは幼馴染み……シルファさんと無事に結婚出来たんだっけ。
 気恥ずかしそうに自らの白いヒゲを搔きながら後ろを振り返る。

「人のことを言うがそういう旦那だって、ずいぶん可愛い子がいるじゃないスか。エルフの長い命に付きあわせるとは旦那も人が悪いっスね」

 その目線の先には、俺の隣で車椅子を押す一人の少女がいた。
 紅髪のてっぺんをひょこひょこと動かしつつ彼女は真顔で呟く。

「リース様の伴侶、ミノリと申しますグリレット様。7年リース様をお待ちし続けていましたので、これからはずっと一緒です。以後お見知りおきを」

 ミノリは俺以外にはあまり心を開かず会話もしない方だが、こうして髪の毛の先が元気に動くときは上機嫌の証拠だ。

「おぉ、本当にリース様の嫁さんスか……! エルフ様でもやることはきっちりやってるんだな」

「何か目的があって強くなりたいってのを汲んで引き取ってるだけだよ。まぁ、良い子には変わりないけどね。ミノリがいなければここにたどり着くこともなかったわけだし」

 ぷっくりと頬を膨らませるミノリ。
 だがポンポンとミノリの頭を撫でると、彼女は猫のように喉を鳴らしていた。
 だんだんこの子の対応にも慣れてきた気がするな。

「貴方らも、なかなかのバカップルに見えるけどなァ」

 グリレットさんの俺たちを見る目が若干冷たくなった気がするが――まぁ気のせいだろうな。


●●●


「この度は主人が大変お世話になりました。本当に、本当にリース様には感謝してもしたりないくらいです」

 深々と礼儀正しくこちらに頭を下げる女性はシルファ・ガルランダさん。
 グリレットさんの幼馴染みにして、今は彼の奥さんだ。
 城下町の一番端にある小さな露店は、『シルファ食堂』と書かれた古風な暖簾が特徴的だった。
 前世日本でも近所で見かけた、優しいおばあちゃんが経営しているタイプのご飯屋さんだ。
 小さな割烹着に身を包んだシルファさんの姿は、とても一領主の奥方様には見えないほどの素朴さだった。
 綺麗に年を重ねた淑女は確かに可愛らしい笑顔を浮かべている。
 
 長い白髪に優しい表情をしたシルファさんは、おっとりした表情で「よろしかったら、中へどうぞ~」と俺たちを店の中に招き入れてくれる。

「な、旦那。ウチの嫁さんは神がかって可愛いでしょう?」

 顔中の皺を寄せてニカっと笑うグリレットさんに、かつての姿が重なった。

 ――旦那にも神がかって可愛いウチの幼馴染みに会わせてやりてェっスね。

 グリレットさんが40年経っても同じことを言っててよかった。

「だね。寿命が60年と少ししかないのがもったいないくらいだ」

「なんスかそのエルフ独特の褒め方……!」

 照れ隠しのように笑うグリレットさん。
 時の流れは残酷だと思っていたけど、案外時の流れがもたらしてくれる喜びもあるみたいだ。
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