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第6話 転生エルフ(93)、魔獣を拳骨で退治する。

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「ガルルルルル……ッ!!」「ォウッ!! ォウッ!!」「シャァァァァッ!!」

 今、目に見えるのは3頭の筋肉狼《マッスルウルフ》。
 森の茂みからは、隠れているつもりなのかは分からないが血の臭いを漂わせた狼がさらにもう2頭。
 狼たちも突然現れた俺の存在に驚いたのか、少し間を取って威嚇をしてくる。
 血気盛んな筋肉狼の多い春の時期は、森に入ることすら禁じられているはずだ。
 普段一匹狼の奴等が徒党を組んでいると、なお厄介になる。

 こうなってしまえば彼らに見つかってしまったのが運の尽き。もし俺が通りがからなければ骨もなくなるまで屍肉を喰らい尽くされていただろう。

(お前等、今のうちだ。商品はもう傷物で使い物にもならん。あのエルフが狙われているうちに逃げるぞ。このままじゃ何個命があっても足りやしねぇ!)
(とはいえお頭。ひょっこり散歩してるお気楽エルフ族なんて一分も囮出来ないんでは?)
(エルフは回復魔法を使えると聞いたことがある。運良けりゃ、食われながら回復して少々時間は稼げるさ。行くぞッ!)
(……エルフ、捕まえられたら高値で売れたんスけどねぇ)
(ここで死んで全てがパーになるよりマシだろ!)

 俺が狼の位置を探っていると、標的から外れた見た目の悪いゴロツキたちはコソコソと
逃げの体勢を取り始めていた。

 なるほど、俺はどうやら散歩中にひょっこり戦闘現場に舞い込んでしまったお気楽エルフ族という認識らしい。
 まぁ間違ってはないかな。

 逃げると決めた彼らは、一斉に森の出口へ向かって駆け抜けていく。
 
 俺を囮にしようという点は百歩譲って許してあげよう。
 でも――。

「傷付いたこの子達を置いて自分たちだけ逃げようっていう時点で良い大人ではないよね。闇属性魔法、粘黒鞭コック

「――ぐへぇッ!?」
「お、おかしら、どうされ――べへぇ!?」
「なんだこれ、粘っこすぎて取れねぇよ! 逃げらんねぇ、狼に噛み殺されちまうよお頭ァ!?」

 逃げようとする3人には大人しくしてもらうため、粘着性の高い黒い鞭で木に結びつけておく。
 45歳くらいの時に使えるようになった、魔族が使う古代魔術の一つ。それが闇属性魔法である。習得に20年掛かった難しくも便利な魔法で、基本的に技は全部ネチっこいのが特徴だ。

「あぁ、エルフが殺されて、その後は俺たちか……俺たちか……」
「あれでもこれって、あのエルフが出したやつっスかね、回復魔法とは思えないっスけど―?」

 そう、このゴロツキ達はもう一つ大きな勘違いをしている。
 体長2メートルほどの筋肉狼たちは俺に隙が出来たとみて5頭一斉に襲いかかってくる。

「硬化魔法、魔法力付与《エンチャント》」

 俺は握りしめた拳に極大の魔法力を付与した。

 かつて一部の獣人族が操ったとする硬化魔法。彼らは森で生き抜くために圧倒的な筋力と身体強化魔法を駆使していた。
 最初はこの魔法を使うファクターが全く分からなかったが、齢60を過ぎて何が必要かが分かり始めた。

 そう、《筋肉》である。

 まさか、齢60にしてこの魔法を使うために筋力トレーニングに励むとは思っていなかった。
 前世人間だったら間違いなく腰をやっていたけど、今世がエルフだったからこそ出来たことだ。

 筋肉狼の外皮が硬いのならば、それを打ち砕くほどの威力をそのままぶつければ良い。
  
「――《獣ノ拳骨》」

 溜めた魔法力と握った拳を同時に振り抜き、筋肉狼の頭に拳骨を打ち付ける。
 辺りの草が吹き飛ぶほどの衝撃波と共に筋肉狼はその場に倒れ伏した。

「……次」

 後は勢いに任せて飛び込んでくる筋肉狼を迎え撃つだけの簡単な作業だ。

 ドゴンッ!! ガコンッ!! メキョッ! ガンッッ!!!

 最後の一頭が大地に墜ちたのを見たゴロツキたちの目が点になる。

「なぁ、あれ、本当にエルフ……か?」
「回復魔法しか使えないっていう噂、何だったんスかね」
「ぼーっとしてる場合ですかい!? 俺等の窮地は変わってねぇぞ!?」

 ――彼らのもう一つの勘違いは、俺が彼らの知っているような回復魔法しか使えないエルフではなかったってことだ。
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