4 / 57
第4話 転生エルフ(93)、気付けば63年間ひたすら籠もって修行していた。
しおりを挟む
エルフ族の生息区域であるユグドラシルの古代樹は、区域中央にある神木を中心として居住区全体が不可視の結界に包まれている。
食べ物と日当たりは非常に良好。そして災害も、危険極まりない魔獣もほとんどない。
エルフ族が1000年もの間外に出ずにここで生まれ、育ち、寿命を全うして死んでいくには環境としては充分すぎるものがある。
加えて外部からは一切感知が不可能なその結界により、エルフ族は独自の生活圏を保ち続けられるのだ。
そんなユグドラシルの古代樹の最も外れに存在する大型書庫こそ、通称『森の図書館』と呼ばれるエルフ族の叡智が詰まった場所だ。
ちなみに最近は俺の住処にもなっている。
『今やエルフの中に魔法を使う者はそうおりませぬ。そして森の図書館を使う者は今やリースのみになりましてな。魔道の研究・解読に励むのならば、もうここの鍵はワシが持っておる必要もありませぬ。好きに使って良いですぞ』
そう言って全属性魔法を習得した30歳の頃に族長は、森の図書館の管理を一任してくれた。
当初は数万冊しかなかったが、数少ない外の世界との繋がりから魔道書を手に入れ続けてはや数十年。
回復魔法についての魔道書が5438冊。
火・土・水・風の四大元素魔法についての魔道書が6029冊。
その他特殊魔法・古代魔術などについての魔道書が18048冊。
と、数十年でこんなにも魔道書と使える魔法が増えていった。
そこから今日はさらに魔道書が外からやってくる大切な一日だ。
空を見上げぼーっとしていると、森に入る手前でドデカい馬車がこちらにやってくる者がいる。
ひょろっとした体つきに、清廉な服装をしているその姿は一端の貴族の雰囲気が漂っている。
この前来た時は領主仕事が相当忙しかったのだろう。ヒゲは生えっぱなしだったが今日は綺麗に整えられている。
「あ、来た来た、グリレットさんだ」
そのヒトの名前はグリレット・ガルランダ。エルフ族が代々懇意にしている唯一のヒト族、ガルランダ家の現当主だ。
このガルランダ家はここら一帯の土地を治めている辺境の領主様らしく、ここの祖先と族長の間で固い絆が結ばれているのだとか。
グリレットさんは結界のせいで位置が把握できていないようで、こちらの方角を見ては首を傾げている。
森の図書館から唯一結界外に出られる通路を使い、グリレットさんの前に顔を出す。
「やっほ、グリレットさん。久しぶりだね。いつも通り、交換用に古代樹産の木材は充分量用意させてもらったよ。今回はどんな魔道書を持ってきてくれたんだい?」
声を掛けると、ビクッと肩を震わせるグリレットさん。
「ほ、本当に、エルフ族が存在したなんて……! 父様の言ってた通りだ!?」
「? 父様?」
「は、初めまして!」
そう言うと、グリレットさん(?)は妙に仰々しい様子で俺の前に片膝をついた。
おかしい。グリレットさんはもっとガサツな人だったはずなのに。
「初めてお目にかかります、リース様。グリレット・ガルランダが嫡男、ガリウス・ガルランダと言います。幼少の頃から父、グリレットからエルフ族の方々のお話はよく聞かせていただいていました!」
「嫡男?」
グリレットさんが、父?
いや、それはおかしい。だって――
『いやぁ、俺ぁ今度幼馴染みにプロポーズするんスよ!』
『いいね、じゃ次来るときは夫婦揃って魔道書持って来てくれるのかな?』
『旦那、気が早いっスよ。でもそうだなぁ。旦那にも神がかって可愛いウチの幼馴染みに会わせてやりてェっスね』
『グリレットさんがそこまでベタ惚れな人なら、是非会ってみたいね』
なんて話をしたばっかりだったはずだ。
あれは確か数年前……だったかな?
「本来ならば父が駆けつけるべき所、寄る年波には敵わずに足腰を弱めてしまったために長男である私が代わりにやってきたこと、お許し下さい」
「ちなみにグリレ……ガリウスくん。お父上が最後にここにやってきたの、いつだっけ?」
「はい。私が産まれる前――そして父と母が結婚をする2年ほど前ですので、22年前になります」
「22年前」
たった数年のつもりが、いつの間にかあれから22年も時が経ってたらしい。
これは俺も他のエルフ族がどうのこうの言ってられる場合じゃないかもしれない。
「ですのでその分、魔道書は豊富に取りそろえて来ました! リース様のためにと、世界中から取り寄せた最新のものから、誰にも読めずガラクタ同然で売られている魔道書まで何でもありますので、お気に召していただけるかと!」
屈託の無い笑顔を向けてくれるガリウスくん。
「そ、そっか、ありがとう……!」
あっと言う間の63年じゃなかったんだ。
――気がついたら、63年経っていたのか……!
食べ物と日当たりは非常に良好。そして災害も、危険極まりない魔獣もほとんどない。
エルフ族が1000年もの間外に出ずにここで生まれ、育ち、寿命を全うして死んでいくには環境としては充分すぎるものがある。
加えて外部からは一切感知が不可能なその結界により、エルフ族は独自の生活圏を保ち続けられるのだ。
そんなユグドラシルの古代樹の最も外れに存在する大型書庫こそ、通称『森の図書館』と呼ばれるエルフ族の叡智が詰まった場所だ。
ちなみに最近は俺の住処にもなっている。
『今やエルフの中に魔法を使う者はそうおりませぬ。そして森の図書館を使う者は今やリースのみになりましてな。魔道の研究・解読に励むのならば、もうここの鍵はワシが持っておる必要もありませぬ。好きに使って良いですぞ』
そう言って全属性魔法を習得した30歳の頃に族長は、森の図書館の管理を一任してくれた。
当初は数万冊しかなかったが、数少ない外の世界との繋がりから魔道書を手に入れ続けてはや数十年。
回復魔法についての魔道書が5438冊。
火・土・水・風の四大元素魔法についての魔道書が6029冊。
その他特殊魔法・古代魔術などについての魔道書が18048冊。
と、数十年でこんなにも魔道書と使える魔法が増えていった。
そこから今日はさらに魔道書が外からやってくる大切な一日だ。
空を見上げぼーっとしていると、森に入る手前でドデカい馬車がこちらにやってくる者がいる。
ひょろっとした体つきに、清廉な服装をしているその姿は一端の貴族の雰囲気が漂っている。
この前来た時は領主仕事が相当忙しかったのだろう。ヒゲは生えっぱなしだったが今日は綺麗に整えられている。
「あ、来た来た、グリレットさんだ」
そのヒトの名前はグリレット・ガルランダ。エルフ族が代々懇意にしている唯一のヒト族、ガルランダ家の現当主だ。
このガルランダ家はここら一帯の土地を治めている辺境の領主様らしく、ここの祖先と族長の間で固い絆が結ばれているのだとか。
グリレットさんは結界のせいで位置が把握できていないようで、こちらの方角を見ては首を傾げている。
森の図書館から唯一結界外に出られる通路を使い、グリレットさんの前に顔を出す。
「やっほ、グリレットさん。久しぶりだね。いつも通り、交換用に古代樹産の木材は充分量用意させてもらったよ。今回はどんな魔道書を持ってきてくれたんだい?」
声を掛けると、ビクッと肩を震わせるグリレットさん。
「ほ、本当に、エルフ族が存在したなんて……! 父様の言ってた通りだ!?」
「? 父様?」
「は、初めまして!」
そう言うと、グリレットさん(?)は妙に仰々しい様子で俺の前に片膝をついた。
おかしい。グリレットさんはもっとガサツな人だったはずなのに。
「初めてお目にかかります、リース様。グリレット・ガルランダが嫡男、ガリウス・ガルランダと言います。幼少の頃から父、グリレットからエルフ族の方々のお話はよく聞かせていただいていました!」
「嫡男?」
グリレットさんが、父?
いや、それはおかしい。だって――
『いやぁ、俺ぁ今度幼馴染みにプロポーズするんスよ!』
『いいね、じゃ次来るときは夫婦揃って魔道書持って来てくれるのかな?』
『旦那、気が早いっスよ。でもそうだなぁ。旦那にも神がかって可愛いウチの幼馴染みに会わせてやりてェっスね』
『グリレットさんがそこまでベタ惚れな人なら、是非会ってみたいね』
なんて話をしたばっかりだったはずだ。
あれは確か数年前……だったかな?
「本来ならば父が駆けつけるべき所、寄る年波には敵わずに足腰を弱めてしまったために長男である私が代わりにやってきたこと、お許し下さい」
「ちなみにグリレ……ガリウスくん。お父上が最後にここにやってきたの、いつだっけ?」
「はい。私が産まれる前――そして父と母が結婚をする2年ほど前ですので、22年前になります」
「22年前」
たった数年のつもりが、いつの間にかあれから22年も時が経ってたらしい。
これは俺も他のエルフ族がどうのこうの言ってられる場合じゃないかもしれない。
「ですのでその分、魔道書は豊富に取りそろえて来ました! リース様のためにと、世界中から取り寄せた最新のものから、誰にも読めずガラクタ同然で売られている魔道書まで何でもありますので、お気に召していただけるかと!」
屈託の無い笑顔を向けてくれるガリウスくん。
「そ、そっか、ありがとう……!」
あっと言う間の63年じゃなかったんだ。
――気がついたら、63年経っていたのか……!
0
お気に入りに追加
2,140
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
世界最強で始める異世界生活〜最強とは頼んだけど、災害レベルまでとは言ってない!〜
ワキヤク
ファンタジー
その日、春埼暁人は死んだ。トラックに轢かれかけた子供を庇ったのが原因だった。
そんな彼の自己犠牲精神は世界を創造し、見守る『創造神』の心を動かす。
創造神の力で剣と魔法の世界へと転生を果たした暁人。本人の『願い』と創造神の『粋な計らい』の影響で凄まじい力を手にしたが、彼の力は世界を救うどころか世界を滅ぼしかねないものだった。
普通に歩いても地割れが起き、彼が戦おうものなら瞬く間にその場所は更地と化す。
魔法もスキルも無効化吸収し、自分のものにもできる。
まさしく『最強』としての力を得た暁人だが、等の本人からすれば手に余る力だった。
制御の難しいその力のせいで、文字通り『歩く災害』となった暁人。彼は平穏な異世界生活を送ることができるのか……。
これは、やがてその世界で最強の英雄と呼ばれる男の物語。
修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す
佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。
誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。
また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。
僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。
不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。
他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる