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いじめはやめましょう
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いよいよ学園での生活が始まった。
三日間はなんの変わりもなく、日が過ぎて行った。
まさに、平和な日常だった。ただ勉強をして、ティータイムもあって、授業も楽しかった。
三日間は、だ。
つまり四日目から、唐突に私の平和な日常が終わりを告げた。
まずは、机の中に入っていたカッターをでも別に手は切らなかった。
そして、消えた私のノートや鉛筆。
といっても、予備があるから大丈夫だが。
でも、極め付けひどかったのは、外の庭園を歩いているときに上から降って来た水だ。
「冷た…」
その時、私に駆け寄って来たのは…
「大丈夫かっ!?」
なんと、あの、あの、あのっ!カナン様だった!
「カ、カ、カカ、カナン様っ!」
「どうした?頭を打ったのか?」
私の以上に興奮した様子に頭がおかしくなったと思われたのか、そう聞かれた。
「い、いえ!大丈夫ですわ!」
「本当にか?」
「えぇ!このようにピンピンしていますもの!」
そう言ってずいっと顔を寄せると、「そ、そうか」と引き気味に体を離された。
「とりあえず、保健室まで連れて行こう。その格好ではまずいだろうから、これを羽織っていろ」
そう言われ、確かにビチョビチョで、少しブラウスが透けていた。
「あ、ありがとうございます。カナン様」
カナンから受け取ったブレザーを羽織る。
カナン様の制服!どーしよう!キュン死しそうっ!!!ていうか、なんかいい匂いがする。イケメン臭ってやつ?
嬉しさに浸かっていたら、もう三回目で慣れてしまった感覚のあとに、至近距離にあるカナン様の美しい顔。
私、今カナン様にお姫様抱っこされてる!?
リュアンには二回もされたけれど、やっぱり最推しキャラは格が違うっ!
保健室までそのまま向かい、何人もの生徒とすれ違い、少し恥ずかしかった。けれど、カナン様は気にした様子はなく、ずんずんと歩いて行った。
保健室のドアを開けると、そこには保健室の先生とそれから…リュアンが。
リュアンは私とカナン様を目を見開いて固まっている。
はっ、そうだった。今私はカナン様にお姫様抱っこされている状態だった。
「カ、カナン様っ!あの、降ろしてください」
「あぁ」
はわぁぁぁっ…!!やっぱりカッコいいっ…!
じゃなくって!!
「あの、カナン様。このブレザー」
「気にするな。羽織っていろ」
「あ、ありがとうございますわっ!」
「俺は授業に戻る。気をつけろ、ルミエラ嬢」
ル・ミ・エ・ラ・じょ・う?
ボンっと一気に私の顔は火が吹いた。暑さで溶けてしまいそうだ。
「大丈夫か…?」
「えぇ、気にしないでくださいませ」
両手で頬を包み自分を落ち着かせる。
首を傾げたカナン様は、「では」と保健室を出て行った。
ルミエラ嬢と呼ばれた余韻に浸っていた私が我に戻ったのは、リュアンが静かに「先生」と声を発したその時だった。
「は、はい、なんでしょうリュアン様」
保健室の先生は、おどおどしながら呼ばれたことに返事した。
「歴史の教授に伝えて来てくれますか?次の授業を休むと」
そうニッコリ微笑んだリュアンに私は寒気がした。
「は、はい!」
保健室の先生は急いで保健室を飛び出して行った。
私は使いっ走りにされた保健室の先生の後ろ姿を呆然と見つめる。
「ルミエラ様」
後ろから伸びて来た手は、私の肩に置かれた。
びっくりした私は少し肩が揺れた。
「濡れたんですよね、大丈夫ですか?」
そう言ってカナン様のブレザーを取ろうとしたけど、私はカナン様のブレザーをきゅっと握りしめた。
「ルミエラ様…?」
「あっ、すみません」
つい愛しのカナン様のブレザーを握りしめていた。
「脱いで下さい」
「………え?」
にこりと笑う、悪魔はにこりと。
「今、なんて…?」
今のは幻聴だろうか?カナン様に会ったことで私の耳がついにいかれたとか?
「脱いで下さいと言いました」
あぁ、幻聴じゃなかった……ていうか、そんな笑顔で言われても…。
「あっ、ブ、ブレザーのことですよね。今脱ぎま」
「全部です」
「は?」
いや、全部って…え?いやいや、全部、ですか…?
「でも、着替え…」
「ちょうどここに僕のシャツがありますから」
ぐぬぬ、と悪あがきとばかりに私は最後の一手を打った。
「いや、でもスカートが…」
「大丈夫です、ズボンもありますから」
なんでそんなに準備がいいの!?なに、リュアンはもしかしていつものように水被ってるの!?
「わ、分かりました。着替えは借ります。でも、自分で着替えますからっ」
「いえ、大丈夫です」
だから、なにが大丈夫なのよ!?
「いえいえ、本当にいいですから。リュアン様はお気になさらないで下さい」
ジリジリと近寄ってくるリュアンに、出会った時のことを思い出す。
そういえば、最初もこんな風に近寄って来たなぁ…なんて。そんなこと思ってる場合じゃないけど。
トン、とドアに体が当たる。
前はスッと顔の横に置かれた手は、バン!と今回は音を立てて壁ドンをされた。
ていうか、これ、壁ドンじゃなくて、ドアバン…?
「あ、あああ、あのっ、リュアン、様…?」
リュアンの顔を見ると、息を切らしてどこか苦しそうにしていた。それに、笑顔も消えている。
「あ、あの大丈夫で」
「脱げって言ってるの分かりませんか?」
また遮られたー!!
心の中で話を聞いてくれと泣きたくなった瞬間、リュアンが倒れこんできた。
咄嗟にリュアンを抱きとめるが、流石にお嬢様の腕力では受け止めきれず、ドアにもたれながら倒れこむ。
額に触れてみると、熱くて、どうやら熱があるようだった。
「ど、どうすれば…」
その時、後ろのドアが開いた。
「わっ!?」
もたれていた私はそのまま仰向けに倒れた。
真上に見えたのは、リュアンに授業を休むと歴史の教授に伝えてきてくれと言われた保健室の先生だった。
「せ、せんせいー!!」
「えっ!?は、はははい!?」
保健室の先生は、私とリュアンを見て、何が起こったんだという様子だった。
「リュアン様は、勉学や剣術の方はもちろんのこと、他にも街で起こる行事や事件についての書類にも目を通していたりしていて。それに、たまに城下に平民たちの様子を見に行ってるんです。そのため、眠る時間もほとんどなく、たまにここに寝にきているんです」
「そうだったんですか…」
先生にリュアンをベッドに運んでもらったあと、私はリュアンの服に着替え、先生から話を聞いていた。
「すみません、ちょっと保健室をあけますけど、気にしないで下さい」
「あっ、はい」
そう言って保健室の先生はどこかに行ってしまった。
私は改めて、リュアンの天使のような顔を見つめる。
さっき保健室の先生から聞いた言葉を思い出して、こんなまだ若いのに、すごいと感心した。
リュアンにそんな様子は見られなかったのに。もしかしたら、ウィルニーも次期国王候補としてリュアンみたいに頑張っているのだろうか。リュアンは疲れを顔に出さずに毎日頑張っているみたいだけれど。
「…お疲れ様」
私はそう言って、よしよしと頭を撫でた。
すると、気のせいかリュアンの表情が少し和らいだ気がした。
病人をここに一人残して行くのは少し気苦しいが、制服を乾かさなければいけなかったため、私はリュアンの側から離れ制服を取ろうとしたところ、腕を掴まれた。
「え…?」
リュアンをみると、うっすら目を開けていて、こっち見ながら、今にも泣きそうな声で、「行かないで…」そう言われた。
次の瞬間、ぐいっと引っ張っられ、私がリュアンを押し倒す形に倒れ込んでしまった。
「リュ、リュアン様…?」
そう声をかけてみると、スヤスヤと心地好さそうに眠っていた。
その時、だれかが保健室に入ってきた。そして、どんどんとこっちのベッドに近づいてきて、カーテンを開けた。
赤茶色の髪の青年は、さっきの保健室先生のように翡翠色の目を丸く見開いている。
驚いたのは、私も同じだ。だって、この青年は…
「えっと…?これは、どういう状況?」
ヒロインの攻略対象者なのだから…。
私はとりあえず、状況を話して赤茶色の髪の青年に助けてもらった。
赤茶色の髪の青年の名を、ベルティー・トレイシーという。この国の宰相の息子だ。
私はこのベルティーとリュアンが親友だったことを初めて知った。
というか、リュアンに友達がいたことに驚いた。
そういえば、アルデナ様の誕生日のときにヒロインのイアナがお友達がいて良かったとかなんとか言っていた。それだけ、友達が少ないということだろうか。
こんな悪魔によく付き合えるななんて思いつつ、そういえばムードメーカーとゲームのキャラ紹介にも書いてあったことを思い出した。
ウィルニーはありきたりの俺様で、そういえば、リュアンは…天使、だったような気がする。
運営様方、間違いです。天使でも小悪魔ですらもなくて、もう悪魔です、悪魔。
「あの、ところで君は…?」
そういえば、私はこの青年とは初対面だったか。
「わたくしは、メルカリア公爵家の一人娘、ルミエラ・メルカリアです。どうぞお見知り置きを」
名前を言うときはこう言えと、講師に昔から教わってきたことをマニュアル通りに言い終えて、お辞儀をする。
「あっ、俺はトレイシー公爵家の長男、ベルティー・トレイシーです」
続いて、ベルティーもそう名乗った。名前は知っているけれども。
「君があの噂のルミエラ様なんだね」
「え?噂の…?」
「うん、ウィルニー様に婚約破棄された公爵家のご令嬢」
ズバッというね、えらく。
自分がどれだけ失礼なことを言ったのか、言ってから気づいたらしく、「ご、ごめん!」と謝ってきた。
「いえ、気にしないで下さい。わたくし、全然そのことは気にしていませんもの。今言われてそういえばそうだったわと思い出したくらいですもの」
「あっ、そうなんだ」
私の話を聞き、安心したらしく、ほっと息を吐いた。
「ベルティー様は、どうしてこちらに…?」
「リュアンの荷物を持ってきたんだ。また寝てるんだろうと思ってさ」
「そうなんですのね。あっ、わたくしはこれくらいでお暇させていただきますわ」
そう言って、濡れた制服を回収したあと、寮に戻り、予備の制服を着て残った授業を受けた。
いじめはどんどんエスカレートしていき、ついには私の部屋のドアに無数の切り傷が付いていた。
そんなことがあったため、私は別の部屋に移動になったけれど。
今、学校ではその謎の殺人鬼が噂になっている。殺人鬼と言われてはいるが、まだ誰も殺されていないけれど。
そして、今日、私はまた水を被せられた。
「…はぁ。またか」
保健室に行こうか寮に戻ろうか迷っていたところ、「ルミエラ様」と上の方から声がした。
上を見上げると、二階の窓からこちらを見下げているニコニコとしたリュアンが見える。
「大丈夫ですか?びしょ濡れですけど」
「大丈夫です」
「どう見ても大丈夫じゃなさそうですけどね」
じゃぁ、なんで大丈夫か聞くのよっ。
「部屋が変わったそうですね。送っていきます。着替えに行くんですよね」
「え?そうですが、私一人で行けま…」
そこで私の言葉は止まった。別に遮られたわけじゃない。遮られたわけではなく、リュアンの行動に言葉がなくなったからだ。
だってリュアンは、窓から飛び出したんだから。
「リュ、リュアン様っ!!」
リュアンは窓から飛び出し、真正面にあった木に飛び移って木を伝いながら降りてきて、こっちに歩いてきた。
「ふうっ、結構危ないですね、これ」
結構危ないですね、これ。じゃないからっ、王子様が何してるの!
「ど、どうして窓から飛び降りたりなんか…!?」
「だって飛び降りた方が早くないですか?ルミエラ様を待たせるわけには行きませんし」
そんなきょとんとした顔で言われても。どんだけ危ない行為だったか分かってるの?
「それに」
ずいっと顔を寄せられ、「こっちの方がかっこいいでしょ?」そう耳元で囁かれる。
「…か、かっこよくなんかありません!気をつけてください!」
どっちかっていうと、かっこいいというより、心臓に悪すぎた。私を送るというだけで怪我に遭いでもしたらたまったもんじゃない。
「じゃぁ、カナンはかっこよかったですか…?」
「え?カナン様?めっちゃくちゃカッコいいです」
あっ、つい本音が口から出て…。
「そうですか…」
リュアンをみると、なんだかいつもと感じが違う。笑顔がないし、少し、怒っているようにも見えなくはない。
「リュアン様?どうかされましたか?」
「…いえ、なんでもありません。行きましょうか。あっ、どうぞ。羽織って下さい」
パッといつもの王子様スマイルを顔に浮かべたリュアンは私にケープを渡して来た。
カナン様はブレザーだったけれど、一つ下のリュアンは四ヶ月前に入学したばかりのピカピカの一年生である。
この学園は一、二、三年と制服が男女ともに違っている。
しかも、二年生になったらなったで二年生の服を買わなくてはいけなくて、主人公のイアナのような平民にとってはとても迷惑な話だ。いくらイアナが奨学生といっても、制服代は免除されない。
そのため、平民には平民用の服が用意されてあり、それを着て三年間過ごすことになっている。
だけど、デザインはとても可愛く、令嬢が着るような膝下長スカートとは違い、膝より少し上くらいのスカートの丈の可愛い制服である。
話は戻るが、二年生のカナン様はブレザーで、一年生のリュアンはケープ、しかも短パンだ。そして、三年生のウィルニーは燕尾服のような後ろの丈が長いブレザーである。
とまあ、制服の話はこれまでとして、私はリュアンにケープを突き返す。
「大丈夫です。カナン様にもリュアン様にも制服を借りるわけにはいきませんし。それにまだ、カナン様に返せていないんです」
「だから」と私はケープをリュアン様に返した。
「…わかりました。行きましょうか」
折角の行為を踏みにじってしまったからか、リュアンは乱暴に私の手を掴んで歩き出した。
寮まで来たけれど、部屋の前まで送って行くと言われ、結局送ってもらうことにした。断っても聞きそうになかったので。
「ルミエラ様の部屋のドアが切り刻まれていたのですよね」
「はい、それが酷い有様で。いったい誰がやったのか…」
「本当、一体誰がそんな命知らずな事…」
「え?何か言いました?」
「いえ、何も」
リュアンが何かブツブツと言っていた気がしたのだけれど、気のせいみたいだった。
「あっ、リュアン様、この前お借りした服をまだ返していませんでしたわ。お詫びも兼ねて、どうぞ寄って行って下さい。授業中ですけれど」
「……」
「リュアン様?」
何も言わないリュアンに後ろを振り返ってみると、「寄ります」とリュアンが言った。
一体今の沈黙はなんだったんだろう。授業中だということを気にしているのだろうか。
「どうぞ」
「お邪魔します」
リュアンを部屋に招き入れ、紅茶をいれた。
「ありがとうございます」
「じゃぁ、わたくし着替えてきます」
そう一言ことわり、ベッドルームに入って、クローゼットから制服を出し、着替え始めた。
スカートを履き丁度ブラウスのボタンをようとおもっていたところ、ドアは開いた。
私の部屋にいるのは私とリュアンしかいないはずだ。ということは、ドアを開けたのは…
「やっぱり貴女は危機感が足りません」
そうニッコリ微笑むリュアンだった。
「な、なっ…」
「下着、見えてます」
そう言われ、私は顔を真っ赤にしながら後ろを向き、急いでボタンをつけ始めた。
でも、後ろから手が伸びてきてボタンをつける手が止まった。
後ろから伸びてきた手は私を抱きしめた。すぐ近くにはリュアンの吐息が聞こえる。
「あのドアには鍵がついてます。僕と二人きりだっていうのになんで鍵を閉めなかったんですか?」
「いや、あの…」
「それからボタン、かけ間違えてます」
「えっ?」
そう言われ、手元を見てみると、確かにボタンをかけ間違えていた。
ボタンを外そうとしたら抱きしめられたままリュアンの手は私の手を捕まえた。
「あ、あの…リュアン様…?」
「僕がやります」
「え!?いや、いいですから」
「僕が、やります」
有無を言わさぬその声に私は諦め、「はい…」と頷いてしまった。
ボタンが外されていくたびに当たるリュアンの華奢で白い手が私の肌に当たり、ぴくっと反応してしまう。
ボタンをつけ始めたその時、リュアンがわざとか私の耳に息をふぅっと吐いた。
「ひゃっ!?」
突然のことに、身体が過剰に反応してしまった。
「ふふっ、可愛い」
また耳元で囁かれ、甘い声に耳が痺れそうになる。無駄に声だけはいいんだから。
「あの、リュアン様、耳元で言うのはやめてください…」
「ルミエラ様、耳まで真っ赤だよ。大丈夫?もしかして耳弱いの?」
だからっ、耳元で言わないでくれー!!決して耳が弱いわけではないからっ。あなたの声が心臓に悪いだけなの。
なんておもっていたら、かぶっと耳に甘噛みされた。
「…~~リュアン様っ!!」
耐えきれず叫ぶと、リュアンは私から体をパッと離し、「ボタンつけるの終わりましたよ」と言った。
後ろを向くと、機嫌良さそうに微笑むリュアン。
「ルミエラ様、話を戻しますけど、鍵はかけて下さい。それとも、僕だから鍵を閉めなかったんですか?」
「まぁ、はい…」
本当はなにも考えてなかったけど。
「どうしてですか?」
「え?えっと、リュアン様は…ほらっ、女の子みたいじゃないですか!だから、女友達というかなんという、か…」
あっ、やばい。めっさ怒ってる。
「僕が、何ですって…?」
にこぉっとブラックスマイルを浮かべるリュアンに血の気が抜けていく。
「え、だから、女…」
リュアンに肩を押された私は、そのまま後ろに倒れていった。
どうやら後ろはベッドだったようで、そのまま、もふもふ、ふかふかのベッドに倒れる。
さすがお嬢様たちの寝るベッドというか、倒れたけど全然痛くない。
って、そんな場合じゃなかった。
「…リュ、リュリュリュリュアン様?どうしたんで…」
そうリュアンを見上げると覆い被さってきた。
「ひえぇ!?」
「女、ですか…?」
リュアンの天使のような端正な顔が目の前で苦しそうな表情を浮かべている。
「僕はあなたに女だと思われてるんですよね…」
「そういうわけじゃ…」
「あなたが言ったのはそういうことです」
さらりと髪を撫でられ、髪に口付けられた。
「このままあなたをめちゃくちゃにしたい…」
え?殺すってことですか?まぢですか?
「なーんてね、冗談です。すみません」
いきなりニコッと笑みを浮かべたリュアンは、私の上から退き、立たせてくれた。
一体、今のは何だったんだろう。もしかして、リュアンの中に眠るサイコパスが目覚めたのだろうか。
「じゃぁ僕、お暇しますね」
そう言うと、リュアンは部屋を出て行った。
三日間はなんの変わりもなく、日が過ぎて行った。
まさに、平和な日常だった。ただ勉強をして、ティータイムもあって、授業も楽しかった。
三日間は、だ。
つまり四日目から、唐突に私の平和な日常が終わりを告げた。
まずは、机の中に入っていたカッターをでも別に手は切らなかった。
そして、消えた私のノートや鉛筆。
といっても、予備があるから大丈夫だが。
でも、極め付けひどかったのは、外の庭園を歩いているときに上から降って来た水だ。
「冷た…」
その時、私に駆け寄って来たのは…
「大丈夫かっ!?」
なんと、あの、あの、あのっ!カナン様だった!
「カ、カ、カカ、カナン様っ!」
「どうした?頭を打ったのか?」
私の以上に興奮した様子に頭がおかしくなったと思われたのか、そう聞かれた。
「い、いえ!大丈夫ですわ!」
「本当にか?」
「えぇ!このようにピンピンしていますもの!」
そう言ってずいっと顔を寄せると、「そ、そうか」と引き気味に体を離された。
「とりあえず、保健室まで連れて行こう。その格好ではまずいだろうから、これを羽織っていろ」
そう言われ、確かにビチョビチョで、少しブラウスが透けていた。
「あ、ありがとうございます。カナン様」
カナンから受け取ったブレザーを羽織る。
カナン様の制服!どーしよう!キュン死しそうっ!!!ていうか、なんかいい匂いがする。イケメン臭ってやつ?
嬉しさに浸かっていたら、もう三回目で慣れてしまった感覚のあとに、至近距離にあるカナン様の美しい顔。
私、今カナン様にお姫様抱っこされてる!?
リュアンには二回もされたけれど、やっぱり最推しキャラは格が違うっ!
保健室までそのまま向かい、何人もの生徒とすれ違い、少し恥ずかしかった。けれど、カナン様は気にした様子はなく、ずんずんと歩いて行った。
保健室のドアを開けると、そこには保健室の先生とそれから…リュアンが。
リュアンは私とカナン様を目を見開いて固まっている。
はっ、そうだった。今私はカナン様にお姫様抱っこされている状態だった。
「カ、カナン様っ!あの、降ろしてください」
「あぁ」
はわぁぁぁっ…!!やっぱりカッコいいっ…!
じゃなくって!!
「あの、カナン様。このブレザー」
「気にするな。羽織っていろ」
「あ、ありがとうございますわっ!」
「俺は授業に戻る。気をつけろ、ルミエラ嬢」
ル・ミ・エ・ラ・じょ・う?
ボンっと一気に私の顔は火が吹いた。暑さで溶けてしまいそうだ。
「大丈夫か…?」
「えぇ、気にしないでくださいませ」
両手で頬を包み自分を落ち着かせる。
首を傾げたカナン様は、「では」と保健室を出て行った。
ルミエラ嬢と呼ばれた余韻に浸っていた私が我に戻ったのは、リュアンが静かに「先生」と声を発したその時だった。
「は、はい、なんでしょうリュアン様」
保健室の先生は、おどおどしながら呼ばれたことに返事した。
「歴史の教授に伝えて来てくれますか?次の授業を休むと」
そうニッコリ微笑んだリュアンに私は寒気がした。
「は、はい!」
保健室の先生は急いで保健室を飛び出して行った。
私は使いっ走りにされた保健室の先生の後ろ姿を呆然と見つめる。
「ルミエラ様」
後ろから伸びて来た手は、私の肩に置かれた。
びっくりした私は少し肩が揺れた。
「濡れたんですよね、大丈夫ですか?」
そう言ってカナン様のブレザーを取ろうとしたけど、私はカナン様のブレザーをきゅっと握りしめた。
「ルミエラ様…?」
「あっ、すみません」
つい愛しのカナン様のブレザーを握りしめていた。
「脱いで下さい」
「………え?」
にこりと笑う、悪魔はにこりと。
「今、なんて…?」
今のは幻聴だろうか?カナン様に会ったことで私の耳がついにいかれたとか?
「脱いで下さいと言いました」
あぁ、幻聴じゃなかった……ていうか、そんな笑顔で言われても…。
「あっ、ブ、ブレザーのことですよね。今脱ぎま」
「全部です」
「は?」
いや、全部って…え?いやいや、全部、ですか…?
「でも、着替え…」
「ちょうどここに僕のシャツがありますから」
ぐぬぬ、と悪あがきとばかりに私は最後の一手を打った。
「いや、でもスカートが…」
「大丈夫です、ズボンもありますから」
なんでそんなに準備がいいの!?なに、リュアンはもしかしていつものように水被ってるの!?
「わ、分かりました。着替えは借ります。でも、自分で着替えますからっ」
「いえ、大丈夫です」
だから、なにが大丈夫なのよ!?
「いえいえ、本当にいいですから。リュアン様はお気になさらないで下さい」
ジリジリと近寄ってくるリュアンに、出会った時のことを思い出す。
そういえば、最初もこんな風に近寄って来たなぁ…なんて。そんなこと思ってる場合じゃないけど。
トン、とドアに体が当たる。
前はスッと顔の横に置かれた手は、バン!と今回は音を立てて壁ドンをされた。
ていうか、これ、壁ドンじゃなくて、ドアバン…?
「あ、あああ、あのっ、リュアン、様…?」
リュアンの顔を見ると、息を切らしてどこか苦しそうにしていた。それに、笑顔も消えている。
「あ、あの大丈夫で」
「脱げって言ってるの分かりませんか?」
また遮られたー!!
心の中で話を聞いてくれと泣きたくなった瞬間、リュアンが倒れこんできた。
咄嗟にリュアンを抱きとめるが、流石にお嬢様の腕力では受け止めきれず、ドアにもたれながら倒れこむ。
額に触れてみると、熱くて、どうやら熱があるようだった。
「ど、どうすれば…」
その時、後ろのドアが開いた。
「わっ!?」
もたれていた私はそのまま仰向けに倒れた。
真上に見えたのは、リュアンに授業を休むと歴史の教授に伝えてきてくれと言われた保健室の先生だった。
「せ、せんせいー!!」
「えっ!?は、はははい!?」
保健室の先生は、私とリュアンを見て、何が起こったんだという様子だった。
「リュアン様は、勉学や剣術の方はもちろんのこと、他にも街で起こる行事や事件についての書類にも目を通していたりしていて。それに、たまに城下に平民たちの様子を見に行ってるんです。そのため、眠る時間もほとんどなく、たまにここに寝にきているんです」
「そうだったんですか…」
先生にリュアンをベッドに運んでもらったあと、私はリュアンの服に着替え、先生から話を聞いていた。
「すみません、ちょっと保健室をあけますけど、気にしないで下さい」
「あっ、はい」
そう言って保健室の先生はどこかに行ってしまった。
私は改めて、リュアンの天使のような顔を見つめる。
さっき保健室の先生から聞いた言葉を思い出して、こんなまだ若いのに、すごいと感心した。
リュアンにそんな様子は見られなかったのに。もしかしたら、ウィルニーも次期国王候補としてリュアンみたいに頑張っているのだろうか。リュアンは疲れを顔に出さずに毎日頑張っているみたいだけれど。
「…お疲れ様」
私はそう言って、よしよしと頭を撫でた。
すると、気のせいかリュアンの表情が少し和らいだ気がした。
病人をここに一人残して行くのは少し気苦しいが、制服を乾かさなければいけなかったため、私はリュアンの側から離れ制服を取ろうとしたところ、腕を掴まれた。
「え…?」
リュアンをみると、うっすら目を開けていて、こっち見ながら、今にも泣きそうな声で、「行かないで…」そう言われた。
次の瞬間、ぐいっと引っ張っられ、私がリュアンを押し倒す形に倒れ込んでしまった。
「リュ、リュアン様…?」
そう声をかけてみると、スヤスヤと心地好さそうに眠っていた。
その時、だれかが保健室に入ってきた。そして、どんどんとこっちのベッドに近づいてきて、カーテンを開けた。
赤茶色の髪の青年は、さっきの保健室先生のように翡翠色の目を丸く見開いている。
驚いたのは、私も同じだ。だって、この青年は…
「えっと…?これは、どういう状況?」
ヒロインの攻略対象者なのだから…。
私はとりあえず、状況を話して赤茶色の髪の青年に助けてもらった。
赤茶色の髪の青年の名を、ベルティー・トレイシーという。この国の宰相の息子だ。
私はこのベルティーとリュアンが親友だったことを初めて知った。
というか、リュアンに友達がいたことに驚いた。
そういえば、アルデナ様の誕生日のときにヒロインのイアナがお友達がいて良かったとかなんとか言っていた。それだけ、友達が少ないということだろうか。
こんな悪魔によく付き合えるななんて思いつつ、そういえばムードメーカーとゲームのキャラ紹介にも書いてあったことを思い出した。
ウィルニーはありきたりの俺様で、そういえば、リュアンは…天使、だったような気がする。
運営様方、間違いです。天使でも小悪魔ですらもなくて、もう悪魔です、悪魔。
「あの、ところで君は…?」
そういえば、私はこの青年とは初対面だったか。
「わたくしは、メルカリア公爵家の一人娘、ルミエラ・メルカリアです。どうぞお見知り置きを」
名前を言うときはこう言えと、講師に昔から教わってきたことをマニュアル通りに言い終えて、お辞儀をする。
「あっ、俺はトレイシー公爵家の長男、ベルティー・トレイシーです」
続いて、ベルティーもそう名乗った。名前は知っているけれども。
「君があの噂のルミエラ様なんだね」
「え?噂の…?」
「うん、ウィルニー様に婚約破棄された公爵家のご令嬢」
ズバッというね、えらく。
自分がどれだけ失礼なことを言ったのか、言ってから気づいたらしく、「ご、ごめん!」と謝ってきた。
「いえ、気にしないで下さい。わたくし、全然そのことは気にしていませんもの。今言われてそういえばそうだったわと思い出したくらいですもの」
「あっ、そうなんだ」
私の話を聞き、安心したらしく、ほっと息を吐いた。
「ベルティー様は、どうしてこちらに…?」
「リュアンの荷物を持ってきたんだ。また寝てるんだろうと思ってさ」
「そうなんですのね。あっ、わたくしはこれくらいでお暇させていただきますわ」
そう言って、濡れた制服を回収したあと、寮に戻り、予備の制服を着て残った授業を受けた。
いじめはどんどんエスカレートしていき、ついには私の部屋のドアに無数の切り傷が付いていた。
そんなことがあったため、私は別の部屋に移動になったけれど。
今、学校ではその謎の殺人鬼が噂になっている。殺人鬼と言われてはいるが、まだ誰も殺されていないけれど。
そして、今日、私はまた水を被せられた。
「…はぁ。またか」
保健室に行こうか寮に戻ろうか迷っていたところ、「ルミエラ様」と上の方から声がした。
上を見上げると、二階の窓からこちらを見下げているニコニコとしたリュアンが見える。
「大丈夫ですか?びしょ濡れですけど」
「大丈夫です」
「どう見ても大丈夫じゃなさそうですけどね」
じゃぁ、なんで大丈夫か聞くのよっ。
「部屋が変わったそうですね。送っていきます。着替えに行くんですよね」
「え?そうですが、私一人で行けま…」
そこで私の言葉は止まった。別に遮られたわけじゃない。遮られたわけではなく、リュアンの行動に言葉がなくなったからだ。
だってリュアンは、窓から飛び出したんだから。
「リュ、リュアン様っ!!」
リュアンは窓から飛び出し、真正面にあった木に飛び移って木を伝いながら降りてきて、こっちに歩いてきた。
「ふうっ、結構危ないですね、これ」
結構危ないですね、これ。じゃないからっ、王子様が何してるの!
「ど、どうして窓から飛び降りたりなんか…!?」
「だって飛び降りた方が早くないですか?ルミエラ様を待たせるわけには行きませんし」
そんなきょとんとした顔で言われても。どんだけ危ない行為だったか分かってるの?
「それに」
ずいっと顔を寄せられ、「こっちの方がかっこいいでしょ?」そう耳元で囁かれる。
「…か、かっこよくなんかありません!気をつけてください!」
どっちかっていうと、かっこいいというより、心臓に悪すぎた。私を送るというだけで怪我に遭いでもしたらたまったもんじゃない。
「じゃぁ、カナンはかっこよかったですか…?」
「え?カナン様?めっちゃくちゃカッコいいです」
あっ、つい本音が口から出て…。
「そうですか…」
リュアンをみると、なんだかいつもと感じが違う。笑顔がないし、少し、怒っているようにも見えなくはない。
「リュアン様?どうかされましたか?」
「…いえ、なんでもありません。行きましょうか。あっ、どうぞ。羽織って下さい」
パッといつもの王子様スマイルを顔に浮かべたリュアンは私にケープを渡して来た。
カナン様はブレザーだったけれど、一つ下のリュアンは四ヶ月前に入学したばかりのピカピカの一年生である。
この学園は一、二、三年と制服が男女ともに違っている。
しかも、二年生になったらなったで二年生の服を買わなくてはいけなくて、主人公のイアナのような平民にとってはとても迷惑な話だ。いくらイアナが奨学生といっても、制服代は免除されない。
そのため、平民には平民用の服が用意されてあり、それを着て三年間過ごすことになっている。
だけど、デザインはとても可愛く、令嬢が着るような膝下長スカートとは違い、膝より少し上くらいのスカートの丈の可愛い制服である。
話は戻るが、二年生のカナン様はブレザーで、一年生のリュアンはケープ、しかも短パンだ。そして、三年生のウィルニーは燕尾服のような後ろの丈が長いブレザーである。
とまあ、制服の話はこれまでとして、私はリュアンにケープを突き返す。
「大丈夫です。カナン様にもリュアン様にも制服を借りるわけにはいきませんし。それにまだ、カナン様に返せていないんです」
「だから」と私はケープをリュアン様に返した。
「…わかりました。行きましょうか」
折角の行為を踏みにじってしまったからか、リュアンは乱暴に私の手を掴んで歩き出した。
寮まで来たけれど、部屋の前まで送って行くと言われ、結局送ってもらうことにした。断っても聞きそうになかったので。
「ルミエラ様の部屋のドアが切り刻まれていたのですよね」
「はい、それが酷い有様で。いったい誰がやったのか…」
「本当、一体誰がそんな命知らずな事…」
「え?何か言いました?」
「いえ、何も」
リュアンが何かブツブツと言っていた気がしたのだけれど、気のせいみたいだった。
「あっ、リュアン様、この前お借りした服をまだ返していませんでしたわ。お詫びも兼ねて、どうぞ寄って行って下さい。授業中ですけれど」
「……」
「リュアン様?」
何も言わないリュアンに後ろを振り返ってみると、「寄ります」とリュアンが言った。
一体今の沈黙はなんだったんだろう。授業中だということを気にしているのだろうか。
「どうぞ」
「お邪魔します」
リュアンを部屋に招き入れ、紅茶をいれた。
「ありがとうございます」
「じゃぁ、わたくし着替えてきます」
そう一言ことわり、ベッドルームに入って、クローゼットから制服を出し、着替え始めた。
スカートを履き丁度ブラウスのボタンをようとおもっていたところ、ドアは開いた。
私の部屋にいるのは私とリュアンしかいないはずだ。ということは、ドアを開けたのは…
「やっぱり貴女は危機感が足りません」
そうニッコリ微笑むリュアンだった。
「な、なっ…」
「下着、見えてます」
そう言われ、私は顔を真っ赤にしながら後ろを向き、急いでボタンをつけ始めた。
でも、後ろから手が伸びてきてボタンをつける手が止まった。
後ろから伸びてきた手は私を抱きしめた。すぐ近くにはリュアンの吐息が聞こえる。
「あのドアには鍵がついてます。僕と二人きりだっていうのになんで鍵を閉めなかったんですか?」
「いや、あの…」
「それからボタン、かけ間違えてます」
「えっ?」
そう言われ、手元を見てみると、確かにボタンをかけ間違えていた。
ボタンを外そうとしたら抱きしめられたままリュアンの手は私の手を捕まえた。
「あ、あの…リュアン様…?」
「僕がやります」
「え!?いや、いいですから」
「僕が、やります」
有無を言わさぬその声に私は諦め、「はい…」と頷いてしまった。
ボタンが外されていくたびに当たるリュアンの華奢で白い手が私の肌に当たり、ぴくっと反応してしまう。
ボタンをつけ始めたその時、リュアンがわざとか私の耳に息をふぅっと吐いた。
「ひゃっ!?」
突然のことに、身体が過剰に反応してしまった。
「ふふっ、可愛い」
また耳元で囁かれ、甘い声に耳が痺れそうになる。無駄に声だけはいいんだから。
「あの、リュアン様、耳元で言うのはやめてください…」
「ルミエラ様、耳まで真っ赤だよ。大丈夫?もしかして耳弱いの?」
だからっ、耳元で言わないでくれー!!決して耳が弱いわけではないからっ。あなたの声が心臓に悪いだけなの。
なんておもっていたら、かぶっと耳に甘噛みされた。
「…~~リュアン様っ!!」
耐えきれず叫ぶと、リュアンは私から体をパッと離し、「ボタンつけるの終わりましたよ」と言った。
後ろを向くと、機嫌良さそうに微笑むリュアン。
「ルミエラ様、話を戻しますけど、鍵はかけて下さい。それとも、僕だから鍵を閉めなかったんですか?」
「まぁ、はい…」
本当はなにも考えてなかったけど。
「どうしてですか?」
「え?えっと、リュアン様は…ほらっ、女の子みたいじゃないですか!だから、女友達というかなんという、か…」
あっ、やばい。めっさ怒ってる。
「僕が、何ですって…?」
にこぉっとブラックスマイルを浮かべるリュアンに血の気が抜けていく。
「え、だから、女…」
リュアンに肩を押された私は、そのまま後ろに倒れていった。
どうやら後ろはベッドだったようで、そのまま、もふもふ、ふかふかのベッドに倒れる。
さすがお嬢様たちの寝るベッドというか、倒れたけど全然痛くない。
って、そんな場合じゃなかった。
「…リュ、リュリュリュリュアン様?どうしたんで…」
そうリュアンを見上げると覆い被さってきた。
「ひえぇ!?」
「女、ですか…?」
リュアンの天使のような端正な顔が目の前で苦しそうな表情を浮かべている。
「僕はあなたに女だと思われてるんですよね…」
「そういうわけじゃ…」
「あなたが言ったのはそういうことです」
さらりと髪を撫でられ、髪に口付けられた。
「このままあなたをめちゃくちゃにしたい…」
え?殺すってことですか?まぢですか?
「なーんてね、冗談です。すみません」
いきなりニコッと笑みを浮かべたリュアンは、私の上から退き、立たせてくれた。
一体、今のは何だったんだろう。もしかして、リュアンの中に眠るサイコパスが目覚めたのだろうか。
「じゃぁ僕、お暇しますね」
そう言うと、リュアンは部屋を出て行った。
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