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もうやめて!①
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ソラリスが護衛騎士になってから、今までよりかは神殿での生活が億劫ではなくなっている。でも、再会した日にキスをしてからソラリスは一切僕に触れてくれない。
「ソラリスは僕のこと好きじゃないの?」
「……フィオーレ様はノワール様の婚約者ですから」
仕事中はいつもこれだ。フィーと呼んでくれないし、常に敬語で距離を感じる。たしかにソラリスの言う通り、僕はノワール様の婚約者だ。だから、ソラリスとの関係が知られれば僕ではなくソラリスの命が危ない。
それに本来、一介の騎士が聖女に触れることは許されない。
「わかっているけれど、二人のときくらいいいじゃないか……」
「俺だって我慢してるんだ」
敬語を崩して困ったような表情を浮かべるソラリス。優しく頭を撫でられて胸がふわふわする。本当はもっと触れて欲しいけれど、ソラリスのためにも我慢しよう。ふくれ面をする僕に笑いかけながら、距離を置くソラリスを目で追う。婚約破棄するための理由があればいいけれど、神殿に閉じ込められている僕には外のことを知るのも一苦労だ。
(婚約破棄か……)
ノワール様が僕と婚約破棄するなんて思えない。昔から一度手に入れたものは自分で壊してしまう以外に、手放したりなんてしない人だから。
「そうだ。これを返すよ」
引き出しからブローチを取り出そうと思い鍵を取り出す。再会できたのだから、もう僕が持っている必要もない。
「ノワール様! 勝手に入られては困ります!」
アンの慌てた声が聞こえてきて、咄嗟に鍵をしまう。勢いよく扉が開いてノワール様が部屋へと入ってきた。
酷く苛立たしげな様子だ。ソラリスを見て舌打ちをすると、僕の方へと真っ直ぐに歩いてくる。
「なぜ断らなかった」
護衛騎士選抜のことを言っているのだろう。ノワール様は僕が護衛騎士をつけることを断ると思っていたのだろうか。
怒っているということはそういうことなのだろう。確かに聖女自身が断れば、無理強いはできないのだろうけれど。
「王様の命令で遣わされた者達です。断れるはずなどありません」
いくら聖女でも、国王には逆らえない。それはノワール様もわかっているはずだ。つまり僕が叱責されているのはただの八つ当たりなのだろう。すごく腹が立つ。それになのに、ノワール様の前に立つと恐怖で身体が竦みそうになる。そんな自分も嫌だ。
でも、心配そうにこちらを伺ってくれているソラリスが居るから、今は少しだけ恐怖が抑えられている。ソラリスが居てくれるだけこんなにも心強い。
「口答えをするな!」
ノワール様が大きく手を振りかぶった。咄嗟に目を閉じて衝撃に耐える。
「離せ!」
でも、予想していた痛みは感じず、その代わりにノワール様の怒鳴り声が部屋に響く。目を開けると、僕を庇うようにしながらソラリスがノワール様の腕を掴んでいた。守ってくれたのだと気がついて、心音がはやくなった。こんな状況なのに、好きって気持ちが溢れてきて堪らない。
気持ちが漏れそうになって、思わずソラリスの背に触れる。僕が怖がっていると思ったのか、ソラリスが一瞬こちらを見て安心させるように笑みを向けてくれた。
いつもそうだ。僕が怖がっていると、手を握ってくれて笑みを見せてくれる。鎮痛剤みたいに、その笑顔を見ていると気持ちが穏やかになっていくんだ。
「こんなことをしてただで済むと思っているのか」
歯ぎしりをするノワール様とソラリスが睨み合う。
相手は権力者なのにソラリスは一歩も引く気配がない。
「俺はフィオーレ様の護衛騎士です。彼に手は出させない」
ソラリスってこんなにも格好良かったかな。ううん、昔からすごく格好良かったけれど、今はもっと素敵に見える。高鳴る心音が止まらない。ソラリスから目が離せなかった。こうやって何度も僕は彼に恋をするんだ。
「ソラリスは僕のこと好きじゃないの?」
「……フィオーレ様はノワール様の婚約者ですから」
仕事中はいつもこれだ。フィーと呼んでくれないし、常に敬語で距離を感じる。たしかにソラリスの言う通り、僕はノワール様の婚約者だ。だから、ソラリスとの関係が知られれば僕ではなくソラリスの命が危ない。
それに本来、一介の騎士が聖女に触れることは許されない。
「わかっているけれど、二人のときくらいいいじゃないか……」
「俺だって我慢してるんだ」
敬語を崩して困ったような表情を浮かべるソラリス。優しく頭を撫でられて胸がふわふわする。本当はもっと触れて欲しいけれど、ソラリスのためにも我慢しよう。ふくれ面をする僕に笑いかけながら、距離を置くソラリスを目で追う。婚約破棄するための理由があればいいけれど、神殿に閉じ込められている僕には外のことを知るのも一苦労だ。
(婚約破棄か……)
ノワール様が僕と婚約破棄するなんて思えない。昔から一度手に入れたものは自分で壊してしまう以外に、手放したりなんてしない人だから。
「そうだ。これを返すよ」
引き出しからブローチを取り出そうと思い鍵を取り出す。再会できたのだから、もう僕が持っている必要もない。
「ノワール様! 勝手に入られては困ります!」
アンの慌てた声が聞こえてきて、咄嗟に鍵をしまう。勢いよく扉が開いてノワール様が部屋へと入ってきた。
酷く苛立たしげな様子だ。ソラリスを見て舌打ちをすると、僕の方へと真っ直ぐに歩いてくる。
「なぜ断らなかった」
護衛騎士選抜のことを言っているのだろう。ノワール様は僕が護衛騎士をつけることを断ると思っていたのだろうか。
怒っているということはそういうことなのだろう。確かに聖女自身が断れば、無理強いはできないのだろうけれど。
「王様の命令で遣わされた者達です。断れるはずなどありません」
いくら聖女でも、国王には逆らえない。それはノワール様もわかっているはずだ。つまり僕が叱責されているのはただの八つ当たりなのだろう。すごく腹が立つ。それになのに、ノワール様の前に立つと恐怖で身体が竦みそうになる。そんな自分も嫌だ。
でも、心配そうにこちらを伺ってくれているソラリスが居るから、今は少しだけ恐怖が抑えられている。ソラリスが居てくれるだけこんなにも心強い。
「口答えをするな!」
ノワール様が大きく手を振りかぶった。咄嗟に目を閉じて衝撃に耐える。
「離せ!」
でも、予想していた痛みは感じず、その代わりにノワール様の怒鳴り声が部屋に響く。目を開けると、僕を庇うようにしながらソラリスがノワール様の腕を掴んでいた。守ってくれたのだと気がついて、心音がはやくなった。こんな状況なのに、好きって気持ちが溢れてきて堪らない。
気持ちが漏れそうになって、思わずソラリスの背に触れる。僕が怖がっていると思ったのか、ソラリスが一瞬こちらを見て安心させるように笑みを向けてくれた。
いつもそうだ。僕が怖がっていると、手を握ってくれて笑みを見せてくれる。鎮痛剤みたいに、その笑顔を見ていると気持ちが穏やかになっていくんだ。
「こんなことをしてただで済むと思っているのか」
歯ぎしりをするノワール様とソラリスが睨み合う。
相手は権力者なのにソラリスは一歩も引く気配がない。
「俺はフィオーレ様の護衛騎士です。彼に手は出させない」
ソラリスってこんなにも格好良かったかな。ううん、昔からすごく格好良かったけれど、今はもっと素敵に見える。高鳴る心音が止まらない。ソラリスから目が離せなかった。こうやって何度も僕は彼に恋をするんだ。
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