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再会②
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ソラリスと一緒に部屋に戻ると人払いをする。思いっきり胸に飛び込めば、逞しい腕で受け止めてくれる。でも、抱きしめ返してはくれなかった。それが少しだけ寂しい。
「ずっと会いたかった」
「俺もだよ」
ポロポロと涙が溢れてくる。もう二度と大切な人には会えないのだと思った夜もあったんだ。ソラリスが夢に出て来るたびに、枕を濡らして起きる朝が辛かった。泣き出した僕の頬を、大きな手が撫でてくれる。そっとおでこにキスが落とされて、更に涙が流れ出す。
「怖かったっ。一人はもう嫌だ」
「これからは俺が傍にいる。もうなにも怖いことなんてない」
穏やかで優しい声音に癒される。目を閉じて彼の胸に身を預けると、柔らかくていい香りが鼻腔から体内へ入り、満たしてくれる。荒んでいた心が平になっていく感覚がした。
「ねえ、抱きしめてくれないの?」
「……フィオーネ、俺達はもうあの頃とは違う。君は聖女で、俺はただの護衛騎士だ」
胸が痛い。どうしてそんなことを言うんだ。僕は昔となにも変わらない。聖女だとわかってから、知らない人達が僕を敬うようになった。それがたまらなく怖かった。
僕の心を置き去りにして、環境だけが目まぐるしく変化していく。だから、ソラリスだけには、僕を聖女だとは思って欲しくない。 ただのフィオーネとして……フィーとして接して欲しいんだ。
顔を上げるとソラリスの頬に手を添えて、唇を押し当てた。
「フィー、ダメだっ」
「ん、いやだっ、もっと呼んでっ。ソラリス、僕の名前を呼んでよ!」
シトラ村に戻りたい。聖女なんて辞めたいよ。ノワール様なんて大嫌い。でも、逃げることなんてできない。僕の欲しい物はなにも手に入りはしない。今の僕には本当にソラリスだけなんだ。
「大丈夫だよ、フィー」
ついばむようにキスをして、舌を差し出すとソラリスが応えるように舌を絡めてくれる。気持ちよくて、幸せで、一生こうしていたい。背に回された腕は力強くて、僕のすべてを任せたいと思える。
「ソラリス、うぅ、ソラリスぅ」
「ほら、泣かないで。笑った顔を見せてくれ」
指の腹で涙を拭われる。心配させたくなくて、無理矢理下手くそな笑みを浮かべてみせた。そうしたら、力いっぱい抱きしめられて胸いっぱいにソラリスの香りが入り込んでくる。
「俺がもう二度とフィーを泣かせたりしない」
ほらやっぱり、ソラリスは僕の騎士様だね。笑みをこぼすと、もう一度お互いの唇を重ね合わせた。確かめ合うようなキス。甘くて、幸せに浸れるのに、少しの切なさを含んだ口付けだった。
「ずっと会いたかった」
「俺もだよ」
ポロポロと涙が溢れてくる。もう二度と大切な人には会えないのだと思った夜もあったんだ。ソラリスが夢に出て来るたびに、枕を濡らして起きる朝が辛かった。泣き出した僕の頬を、大きな手が撫でてくれる。そっとおでこにキスが落とされて、更に涙が流れ出す。
「怖かったっ。一人はもう嫌だ」
「これからは俺が傍にいる。もうなにも怖いことなんてない」
穏やかで優しい声音に癒される。目を閉じて彼の胸に身を預けると、柔らかくていい香りが鼻腔から体内へ入り、満たしてくれる。荒んでいた心が平になっていく感覚がした。
「ねえ、抱きしめてくれないの?」
「……フィオーネ、俺達はもうあの頃とは違う。君は聖女で、俺はただの護衛騎士だ」
胸が痛い。どうしてそんなことを言うんだ。僕は昔となにも変わらない。聖女だとわかってから、知らない人達が僕を敬うようになった。それがたまらなく怖かった。
僕の心を置き去りにして、環境だけが目まぐるしく変化していく。だから、ソラリスだけには、僕を聖女だとは思って欲しくない。 ただのフィオーネとして……フィーとして接して欲しいんだ。
顔を上げるとソラリスの頬に手を添えて、唇を押し当てた。
「フィー、ダメだっ」
「ん、いやだっ、もっと呼んでっ。ソラリス、僕の名前を呼んでよ!」
シトラ村に戻りたい。聖女なんて辞めたいよ。ノワール様なんて大嫌い。でも、逃げることなんてできない。僕の欲しい物はなにも手に入りはしない。今の僕には本当にソラリスだけなんだ。
「大丈夫だよ、フィー」
ついばむようにキスをして、舌を差し出すとソラリスが応えるように舌を絡めてくれる。気持ちよくて、幸せで、一生こうしていたい。背に回された腕は力強くて、僕のすべてを任せたいと思える。
「ソラリス、うぅ、ソラリスぅ」
「ほら、泣かないで。笑った顔を見せてくれ」
指の腹で涙を拭われる。心配させたくなくて、無理矢理下手くそな笑みを浮かべてみせた。そうしたら、力いっぱい抱きしめられて胸いっぱいにソラリスの香りが入り込んでくる。
「俺がもう二度とフィーを泣かせたりしない」
ほらやっぱり、ソラリスは僕の騎士様だね。笑みをこぼすと、もう一度お互いの唇を重ね合わせた。確かめ合うようなキス。甘くて、幸せに浸れるのに、少しの切なさを含んだ口付けだった。
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