上 下
5 / 14

再会②

しおりを挟む
ソラリスと一緒に部屋に戻ると人払いをする。思いっきり胸に飛び込めば、逞しい腕で受け止めてくれる。でも、抱きしめ返してはくれなかった。それが少しだけ寂しい。

「ずっと会いたかった」
「俺もだよ」

ポロポロと涙が溢れてくる。もう二度と大切な人には会えないのだと思った夜もあったんだ。ソラリスが夢に出て来るたびに、枕を濡らして起きる朝が辛かった。泣き出した僕の頬を、大きな手が撫でてくれる。そっとおでこにキスが落とされて、更に涙が流れ出す。

「怖かったっ。一人はもう嫌だ」
「これからは俺が傍にいる。もうなにも怖いことなんてない」

穏やかで優しい声音に癒される。目を閉じて彼の胸に身を預けると、柔らかくていい香りが鼻腔から体内へ入り、満たしてくれる。荒んでいた心が平になっていく感覚がした。

「ねえ、抱きしめてくれないの?」
「……フィオーネ、俺達はもうあの頃とは違う。君は聖女で、俺はただの護衛騎士だ」

胸が痛い。どうしてそんなことを言うんだ。僕は昔となにも変わらない。聖女だとわかってから、知らない人達が僕を敬うようになった。それがたまらなく怖かった。
僕の心を置き去りにして、環境だけが目まぐるしく変化していく。だから、ソラリスだけには、僕を聖女だとは思って欲しくない。  ただのフィオーネとして……フィーとして接して欲しいんだ。
顔を上げるとソラリスの頬に手を添えて、唇を押し当てた。

「フィー、ダメだっ」
「ん、いやだっ、もっと呼んでっ。ソラリス、僕の名前を呼んでよ!」

シトラ村に戻りたい。聖女なんて辞めたいよ。ノワール様なんて大嫌い。でも、逃げることなんてできない。僕の欲しい物はなにも手に入りはしない。今の僕には本当にソラリスだけなんだ。

「大丈夫だよ、フィー」

ついばむようにキスをして、舌を差し出すとソラリスが応えるように舌を絡めてくれる。気持ちよくて、幸せで、一生こうしていたい。背に回された腕は力強くて、僕のすべてを任せたいと思える。

「ソラリス、うぅ、ソラリスぅ」
「ほら、泣かないで。笑った顔を見せてくれ」

指の腹で涙を拭われる。心配させたくなくて、無理矢理下手くそな笑みを浮かべてみせた。そうしたら、力いっぱい抱きしめられて胸いっぱいにソラリスの香りが入り込んでくる。

「俺がもう二度とフィーを泣かせたりしない」

ほらやっぱり、ソラリスは僕の騎士様だね。笑みをこぼすと、もう一度お互いの唇を重ね合わせた。確かめ合うようなキス。甘くて、幸せに浸れるのに、少しの切なさを含んだ口付けだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

花嫁は、約束の先に愛を見る

天宮叶
BL
幼い頃、森で出会った少年に恋をしたエラ。お互いの距離が近づいていくも、少年は「必ず迎えに行く」という言葉を残し突然森へ来なくなってしまう。それから十年の月日が経ち、エラの双子の弟であるゾーイが花嫁として妖精王へと嫁ぐ日が来た。儀式を執り行うゾーイの目の前に妖精王が現れる。しかし妖精王はエラのことを花嫁だと言い始め……。 こちらの作品は、身分差BLアンソロジーに寄稿していたものを、転載したものです。 現在、身分差BLアンソロジーは販売終了となっております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

嘘つきの婚約破棄計画

はなげ
BL
好きな人がいるのに受との婚約を命じられた攻(騎士)×攻めにずっと片思いしている受(悪息) 攻が好きな人と結婚できるように婚約破棄しようと奮闘する受の話です。

消えたいと願ったら、猫になってました。

15
BL
親友に恋をした。 告げるつもりはなかったのにひょんなことからバレて、玉砕。 消えたい…そう呟いた時どこからか「おっけ〜」と呑気な声が聞こえてきて、え?と思った時には猫になっていた。 …え? 消えたいとは言ったけど猫になりたいなんて言ってません! 「大丈夫、戻る方法はあるから」 「それって?」 「それはーーー」 猫ライフ、満喫します。 こちら息抜きで書いているため、亀更新になります。 するっと終わる(かもしれない)予定です。

処理中です...