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愛の裏返し

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何言ってるんだろう僕。

自分でもどうしてこんなこと言ったのか分からない。だけど、泣いている彼の顔を見たら放っておけないって思ったんだよ。

「俺に逆らうのか?」

「ち、違います……。ただ、泣いてたから、だから……」

「同情したか?だがなアレ1人助けたところでどうなる。お前は泣いているやつを見る度に助けろと俺に頼むのか?」

「……っ、いいえ……」

わかったなら諦めろ、とライル様の瞳が僕に告げてくる。

その瞳に見つめられることが怖くて視線を逸らすと、逸らした先に縋るように僕のことを見つめている彼の姿が見えて、唇を噛み締めた。

「っ……なんでもします」

「……」

「なんでもしますから、だから彼を追い出さないで下さい……」

奴隷の間には一つだけ暗黙のルールがあった。
それは【何でもする】という言葉は決して使わないこと。

この言葉は諸刃の剣だ。

主人はその言葉を聞いて願いを叶えてくれるけれど、その言葉を言った者が生き残っていたことはない。
だから、どんなに理不尽な目にあってもこの言葉だけは言うなと奴隷仲間から厳しく教えられていた。

そのルールを破ってまで僕が彼を助けたいと思ったことに理由なんてない。

ただ、今彼を救えるのは自分しかいないのだと思ったんだ。

それは見惚れなんかじゃなく事実だと分かる。

なんでも・・・・とは便利な言葉だが、後悔することになるぞ」

「……分かって、います」

歯切れの悪い僕の返事にライル様は、小さくため息を零すともう一度僕を引き寄せて、耳元で囁いた。

「それならばアレはお前の使用人にでもすればいい。お前の好きなようにしろ」

ライル様の言葉にパッと顔を上げると、にやりとライル様の口角が上がったのが分かった。

「おいお前」

「は、はいっ……」

「追い出しはしない。アズハルに感謝しろ」

「!……あ、ありがとうございます」

彼の涙を含んだ感謝の言葉が響く。

その声を背中で聞きながら、ほっと息を吐き出すとライル様が僕をそのまま抱き抱えて部屋の方へと戻り始めた。

「安心する暇は無いと思え」

「ら、ライル様っ、降ろしてください……」

「なんでもするのだろう?大人しく抱かれていろ」

それは抱き抱えられていろということか……それとも……。

考えることが怖くて、ライル様の胸に頬を当てて衣装を掴む。

そうしたらライル様が微かに笑みを漏らしたのが聞こえてきた。
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