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身代わりと狼王子
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来るなと願っても時間というのはあっという間に過ぎ去ってしまう。
「夜伽の準備を致しましょう」
今日はいよいよ初めての夜伽の日だ。
今までに夜伽に向かった方々は抱かれないまま返されたのだと二ゼルさんから教えて貰った。
その事に少しだけ安堵する。
きっと僕も抱かれないまま返されるのだろう。
他の方がどうかは分からないけれど、僕にとってそれは嬉しいことだ。
身体を綺麗に清められ、肌触りのいい薄いシルクの夜着へと着替えさせられる。
この場所に連れて来られてから食事や着るものまで奴隷の頃とは全く違うものに変わってしまい、慣れない環境の変化に心も身体も疲弊しきっていた。
そのこともあり、出来れば何も無いまま今日という日が終わればいいと願ってしまう。
夜伽をするための部屋に案内されると、小さな薬を手渡されてそれを飲んで待っている様に言われ、僕だけが部屋へと取り残されてしまった。
テーブルに用意されていた水差しから水を拝借して言われた通り薬を飲むと視線をさ迷わせる。
広い部屋に1人きりというのは落ち着かない。
待てと言われても椅子に座っていいのかベッドにいた方がいいのかも分からず、仕方なく床へと腰を降ろした。
肌触りのいい毛皮のラグのおかげか床に座っていても痛いとは思わない。
設置されている大窓から外を見れば、夜だというのに砂漠一体が真っ白に照らされていて目が釘付けになった。
初めて見る、どこまで白い砂漠を目に焼き付けながら、自身もあの砂漠の様に清らかに戻れたらと思ってしまう。
「今日で5人目か」
じっと床に座ったまま景色を眺めていると、背後から声がして慌てて身体ごと振り返った。
宝石の様に澄んだ鋭い青い瞳と眼が合う。漆黒の黒髪に浅黒い肌の背の高い美丈夫が僕の方をじっと見下ろしていた。
瞬間、身体が強ばって固まってしまう。
彼から感じる強者の雰囲気に圧倒されて言葉が出てこなかった。
「何故床に座っている」
「……へ、ぁ……」
目が離せない。
何故か心臓が鷲掴みにされたように酷く苦しい。
それと同時にじわじわと腹の奥から熱が込み上げてくる感覚がしてくる。
彼はαだ……それも上位に位置するα……。
「……王子、様?」
「そうだ」
彼がゆっくりと僕へと近づいてくる。
逃げ出したい。
あんなに怖いと思っていたはずなのに……。
今もそれは変わらないはずなのに……、何故か身体はピクリとも動いてはくれない。
僕の目の前に来た彼の手が僕の顎へと伸びてきて、顔を更に上へと上げさせられた。
触れられた所から溶けてしまいそうな程の熱を感じて何故か涙が溢れてくる。
「怖いか」
そんな僕に彼が一言そう尋ねてきた。
「夜伽の準備を致しましょう」
今日はいよいよ初めての夜伽の日だ。
今までに夜伽に向かった方々は抱かれないまま返されたのだと二ゼルさんから教えて貰った。
その事に少しだけ安堵する。
きっと僕も抱かれないまま返されるのだろう。
他の方がどうかは分からないけれど、僕にとってそれは嬉しいことだ。
身体を綺麗に清められ、肌触りのいい薄いシルクの夜着へと着替えさせられる。
この場所に連れて来られてから食事や着るものまで奴隷の頃とは全く違うものに変わってしまい、慣れない環境の変化に心も身体も疲弊しきっていた。
そのこともあり、出来れば何も無いまま今日という日が終わればいいと願ってしまう。
夜伽をするための部屋に案内されると、小さな薬を手渡されてそれを飲んで待っている様に言われ、僕だけが部屋へと取り残されてしまった。
テーブルに用意されていた水差しから水を拝借して言われた通り薬を飲むと視線をさ迷わせる。
広い部屋に1人きりというのは落ち着かない。
待てと言われても椅子に座っていいのかベッドにいた方がいいのかも分からず、仕方なく床へと腰を降ろした。
肌触りのいい毛皮のラグのおかげか床に座っていても痛いとは思わない。
設置されている大窓から外を見れば、夜だというのに砂漠一体が真っ白に照らされていて目が釘付けになった。
初めて見る、どこまで白い砂漠を目に焼き付けながら、自身もあの砂漠の様に清らかに戻れたらと思ってしまう。
「今日で5人目か」
じっと床に座ったまま景色を眺めていると、背後から声がして慌てて身体ごと振り返った。
宝石の様に澄んだ鋭い青い瞳と眼が合う。漆黒の黒髪に浅黒い肌の背の高い美丈夫が僕の方をじっと見下ろしていた。
瞬間、身体が強ばって固まってしまう。
彼から感じる強者の雰囲気に圧倒されて言葉が出てこなかった。
「何故床に座っている」
「……へ、ぁ……」
目が離せない。
何故か心臓が鷲掴みにされたように酷く苦しい。
それと同時にじわじわと腹の奥から熱が込み上げてくる感覚がしてくる。
彼はαだ……それも上位に位置するα……。
「……王子、様?」
「そうだ」
彼がゆっくりと僕へと近づいてくる。
逃げ出したい。
あんなに怖いと思っていたはずなのに……。
今もそれは変わらないはずなのに……、何故か身体はピクリとも動いてはくれない。
僕の目の前に来た彼の手が僕の顎へと伸びてきて、顔を更に上へと上げさせられた。
触れられた所から溶けてしまいそうな程の熱を感じて何故か涙が溢れてくる。
「怖いか」
そんな僕に彼が一言そう尋ねてきた。
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