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身代わりと狼王子

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第1王子がΩの香りに反応を示さないことは奴隷の間でも有名な話だったから知っている。

けれど、奴隷の自分には関係の無い話だとずっと思っていた。

それなのにまさかこんなことになるなんて……。

それに、僕にはまだ隠さなければならない事実がある。

「……夜伽はいつから始まるのですか」

「本日から順番に行われます。貴方様は5日後の夜が最初の夜伽です」

「そうなんですね……」

「ええ。それから敬語はお止めに」

「……努力、します」

確かに僕は貴族としてここに来ているのだから敬語はおかしいんだと思う。けれど、本来使用人よりも身分の低い奴隷の僕が敬語を取り去るなんて恐れ多くて今は出来そうになかった。

僕は石ころだ。
誰かの上に立つような人間じゃない。

それなのにこんなことになってしまうなんて……。

「……夜伽は決まった日にしか行われないのですよね」

「基本はそうですが、王子がお気に召せば王子から呼ばれることもあるかと」

「そうなんですね……」

説明を聞いて、僕には縁遠い事だなとつい思ってしまった。

Ωは通常華奢で可憐な見た目をしていると言われているけれど、僕はお世辞にも凄く整った容姿をしている訳では無いから目には止まらないだろう。体格は男にしては華奢な方だけれど、どちらかと言うと痩せすぎてみすぼらしい外見だと思う。

「……5日後、か」

他人に身体を差し出すことは初めてでは無い。

ご主人様や客を楽しませるために幾度となくこの身体を使ってきた。痛くとも辛くとも止めては貰えなかったし、反抗すれば罰が与えられた。

いつの間にか逆らうこともしなくなって、怖くて苦しいだけの行為を受け止める日々は本当に辛かった。

心はどんどんと擦り切れていくのに、抱かれなくなれば僕は捨てられてしまうのだと自分が生きるために必死に感覚を麻痺させて生きていたんだ。

抜け出せたと思ったのに……。

ここでもやはり僕は奴隷のままだ。

きっと一生変わらないのだと思う。

それを受け入れるしか道が無いのなら、生きていくため何もかも隠して身体を差し出すしかない。

一筋頬から涙が零れる。

この涙は何に対してのものだろうか?

やっぱり、いっそ消えてしまえたら楽なのに。
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