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困り顔

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「アステルは僕が隣国の出身だというのは知っているよね」

お母様からの問いかけに頷くと、彼は何かを懐かしむように目を細めて1度瞬きをした。

「隣国のライヒトゥムに居た頃、僕が住んでいた公爵家で行われたパーティーで僕は陛下と出会ってこのシュヴェエトへ嫁いでくることになったんだ」

「ええ……」

その話は子供用の本になるほどにこの国では有名な話で、俺も幼い頃は2人の運命を何度も羨ましく思った。

「僕には兄が居たのだけど、兄はあまり隣国での生活が上手く行かなかった様でシュヴェエトに嫁いだ僕を羨ましく思っていたのか、当時まだ陛下と婚姻していなかった僕を誘拐する事件を起こして罰を受けることになったんだ。19年前のその誘拐事件は歴史書にも記載されていると思うけれど知っているかな?」

「……ええ。当時、お父様が直接現場まで赴いてお母様を助けたのでしたよね。その事件とミラー公爵夫人となんの関係が?」

「彼……アデレード=ロペスは平民堕ちという罰を受けて平民として暮らすために与えられた家に向かう途中行方不明になってそこから消息が分からなくなったのだけど、今代のミラー公爵家当主であるユリウス=ミラー様に遊郭で働いていたところを見初められてミラー公爵家で保護される形になったんだ」

「……つまり、セレーネのお母様はお母様の兄君ということですか?それは……」

言われた事が上手く呑み込めずに目眩がした。

お父様はお母様の話を隣で聞きながらずっと難しい顔をしていた。それに反して、お母様は意外にもずっと涼やかな顔をしていて被害にあった本人だというのにその吹っ切れた様なむしろ、兄を懐かしむような様子に俺は更に混乱した。

「罪人の子を皇太子の婚約者にする訳には行かない」

厳しい声でお父様が残酷な言葉を告げてくる。けれど、俺はそれを聞いてもセレーネと婚約したいという意思は変わらなかった。

「……お母様もそう思ってらっしゃいますか」

お父様がセレーネのお母様を嫌っているのは彼の雰囲気から察することができたけれど、お母様が同じ様に思っているとは到底思えなくて尋ねる。

「……1度ミラー公爵家の方々とお話をしてみるよ」

けれど、返ってきたのはそんな曖昧な言葉だった。

「……分かりました」

全然納得は出来ないけれど、そう言われてしまっては頷くことしか出来ない。

それにこの話をこれからセレーネにしなければならないという事実が俺の心に重くのしかかっていた。

きっとセレーネはショックを受けてしまうだろう……。彼の様子からしてこのことは知らない様だったから。

「……セレーネには俺から伝えます……」

「それがいいだろう」

「……ですが、俺はセレーネを諦めるつもりはありません」

真っ直ぐにお父様とお母様に視線を向けて言えば、2人も俺を見返して来る。そうして数秒見つめ合うと、お父様が小さくそうか、と溜息を吐き出すように呟いた。
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