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困り顔
④
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一頻り踊り終えると休憩のために飲み物を取ってきてセレーネへと渡してあげた。それをちびちびと口に含みながら、まだ楽しげに踊っている生徒達を2人並んで眺める。
「エイデンとノアくんも踊ってるかな」
「人が多くて分からないけれどきっと踊ってるんじゃないかな。あの二人がああなるとは思っていなかったけど」
「……そうだね」
悲しげな声でセレーネが相槌を打つから、俺は彼の顔を覗き込んで、まだエイデンのこと気になる?って質問した。
そうしたらセレーネが勢いよく首を振って、僕が好きなのはアルだよって答えてくれる。
「……僕、アルのこと大好き」
「俺もセレーネのことが好きだよ」
「……アルと婚約したいって思ってる……気が早いかな?」
「そんなことない」
「……うん。でも、無理かもしれないね」
「……セレーネ……」
お父様とお母様から浴びせられた視線が相当堪えたのか、それともセレーネのお母様のことを考えているのか……分からないけれど、弱気になっているセレーネを何とか元気つけてあげたいと思った。
「こっちを向いてごらん」
セレーネの頬にそっと手を添えると、俯いていた顔がこちらを向く。俺はその唇にそっと軽くキスをして、大丈夫だよって自分にも言い聞かせるように言葉を送った。
周りに見られるとか皇太子としての行動だとかそういうのは今はどうでも良くて、ただ落ち込んでいるセレーネに寄り添ってあげたかった。
「お父様もお母様も悪い方ではない。この後話す時にちゃんと理由を聞いてくるから」
「……うん……ありがとう」
不安そうに揺れる瞳に俺が映っていて、そんな俺の顔も少しだけ不安げだ。
こんな顔してたらセレーネだって安心できないだろって自分に言い聞かせる。自分がまずは笑わないと……。考えるのは後からにしよう。
「もう一曲俺と踊って下さいませんか?」
だから、あえておどけた口調でそう問いかけた。
身体を動かせば少しは余計な雑念も吹き飛ぶ気がした。
「……はい、喜んで」
俺の意図を汲み取ってくれたのかセレーネも微かにほほ笑みを浮かべて俺の手を取ってくれる。はしゃぐ生徒の輪の中に混じると音楽に合わせてまた踊り始めた。
暗い気持ちを振り払う様に俺達のダンスは激しさを増して、難しいステップを踏んでいく。難しければ難しい程ダンスに集中できる気がした。
「皆が見てる……」
いつの間にか俺達の周りには踊ってる人は誰も居なくて、俺達を観衆が囲んでダンスを見守っている。
「俺の恋人が凄いって所を見せてあげよう」
「もう、アルってば」
曲は少しずつ終盤へと近づいて、それに合わせてダンスは大きなものへと変化して行った。セレーネが俺の目の前を回って、俺は彼をしっかりと支える。
これからも彼とこう在りたい。
セレーネの隣で彼を俺が支えてあげたい。
セレーネとずっと寄り添っていたい。
お父様とお母様も俺達が踊るのを黙って見ている。
音の終わりに合わせて激しかった踊りは少しずつゆっくりとした物へと移行していき、ピタリと音が止んだ時俺とセレーネは向かい合って荒い息を吐き出しながら笑い合っていた。
一瞬の静寂の後に、観衆からの大きな拍手が俺達を包み込む。けれど、その大きな音すら遮断する程に目の前のセレーネは綺麗で、彼に釘付けになっていた。
「何があっても離さないよ」
「……約束してくれる?」
「勿論」
俺達の間に交わされた会話を知っているのは俺達だけ。声は拍手と歓声の音にかき消されて他の人の耳には届かなかった。
「エイデンとノアくんも踊ってるかな」
「人が多くて分からないけれどきっと踊ってるんじゃないかな。あの二人がああなるとは思っていなかったけど」
「……そうだね」
悲しげな声でセレーネが相槌を打つから、俺は彼の顔を覗き込んで、まだエイデンのこと気になる?って質問した。
そうしたらセレーネが勢いよく首を振って、僕が好きなのはアルだよって答えてくれる。
「……僕、アルのこと大好き」
「俺もセレーネのことが好きだよ」
「……アルと婚約したいって思ってる……気が早いかな?」
「そんなことない」
「……うん。でも、無理かもしれないね」
「……セレーネ……」
お父様とお母様から浴びせられた視線が相当堪えたのか、それともセレーネのお母様のことを考えているのか……分からないけれど、弱気になっているセレーネを何とか元気つけてあげたいと思った。
「こっちを向いてごらん」
セレーネの頬にそっと手を添えると、俯いていた顔がこちらを向く。俺はその唇にそっと軽くキスをして、大丈夫だよって自分にも言い聞かせるように言葉を送った。
周りに見られるとか皇太子としての行動だとかそういうのは今はどうでも良くて、ただ落ち込んでいるセレーネに寄り添ってあげたかった。
「お父様もお母様も悪い方ではない。この後話す時にちゃんと理由を聞いてくるから」
「……うん……ありがとう」
不安そうに揺れる瞳に俺が映っていて、そんな俺の顔も少しだけ不安げだ。
こんな顔してたらセレーネだって安心できないだろって自分に言い聞かせる。自分がまずは笑わないと……。考えるのは後からにしよう。
「もう一曲俺と踊って下さいませんか?」
だから、あえておどけた口調でそう問いかけた。
身体を動かせば少しは余計な雑念も吹き飛ぶ気がした。
「……はい、喜んで」
俺の意図を汲み取ってくれたのかセレーネも微かにほほ笑みを浮かべて俺の手を取ってくれる。はしゃぐ生徒の輪の中に混じると音楽に合わせてまた踊り始めた。
暗い気持ちを振り払う様に俺達のダンスは激しさを増して、難しいステップを踏んでいく。難しければ難しい程ダンスに集中できる気がした。
「皆が見てる……」
いつの間にか俺達の周りには踊ってる人は誰も居なくて、俺達を観衆が囲んでダンスを見守っている。
「俺の恋人が凄いって所を見せてあげよう」
「もう、アルってば」
曲は少しずつ終盤へと近づいて、それに合わせてダンスは大きなものへと変化して行った。セレーネが俺の目の前を回って、俺は彼をしっかりと支える。
これからも彼とこう在りたい。
セレーネの隣で彼を俺が支えてあげたい。
セレーネとずっと寄り添っていたい。
お父様とお母様も俺達が踊るのを黙って見ている。
音の終わりに合わせて激しかった踊りは少しずつゆっくりとした物へと移行していき、ピタリと音が止んだ時俺とセレーネは向かい合って荒い息を吐き出しながら笑い合っていた。
一瞬の静寂の後に、観衆からの大きな拍手が俺達を包み込む。けれど、その大きな音すら遮断する程に目の前のセレーネは綺麗で、彼に釘付けになっていた。
「何があっても離さないよ」
「……約束してくれる?」
「勿論」
俺達の間に交わされた会話を知っているのは俺達だけ。声は拍手と歓声の音にかき消されて他の人の耳には届かなかった。
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