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お手をどうぞ

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繋いだセレーネの手の指に自身の指を絡めて、もう一度彼の手にキスを1つ落とすと、今度こそ寮までの道を歩き出す。

「ア、アルっ……名前っ……教えて」

俺に連れられて少し後ろを歩いていたセレーネが戸惑いがちに聞いてきたから歩みはそのままで自分の名前を口にした。

「アステルだよ」

「……アステル……星って意味だったよね?」

「そうだよ」

俺の名前の由来を両親が教えてくれた時のことを思い出すと笑がこぼれてくる。その話をする度に一番星の話をされるものだからいつの間にか暗唱できるくらい覚えてしまっていた。

「僕のお母様はいつも一番星の話をしてくれるんだ。すごく大事な人から教えて貰ったんだって。自分だけの大切なお星様……僕にも見つかるといいねっていつも言ってくれるの」

セレーネがそう言って口元に笑みを浮かべた。

「俺のお母様も同じことを話してくれる」

これは偶然なのか?

それとも……。

分からないけれど、今はただセレーネの星に俺がなれればいいなと思った。

「セレーネは月っていう意味だったよね」

「そうみたい。でも、月なんて僕には似合わないよ」

「どうして?」

「僕ってこんなでしょ?勉強も出来ないし、お淑やかでも無いもの……月とは真逆」

眉を寄せて笑うセレーネの手を、繋いだ手の指で撫でながらそんなことないよって伝える。

セレーネはそんな風に自分のことを悪く言うけれど、マナーは完璧だしダンスだって凄く上手だった。明るくて愛嬌がある所も彼のいい所だ。

それに、彼はいつも俺のことを優しく照らしてくれる。

彼が笑えば心は晴れやかになるし、荒んだ心は落ち着きを取り戻す。

「その名前、俺は君に似合ってると思うよ」

「……そうかな?」

「そうだよ」

そう言って笑ったら、セレーネはまだ納得してないみたいに眉を寄せていたけど、結局最後は、アルが言うならって笑顔を見せてくれた。

その笑顔を見ているとやっぱり癒されるから、本当にその名前がぴったりだと思う。

「僕の一番星がアルならきっと幸せだろうな」

寮の入口に着いた時、ボソリとセレーネがそう呟いて、俺は立ち止まりそうになるのを必死に耐えた。

敢えて聞こえない振りをして、そのままセレーネを部屋まで送ってあげる。

セレーネがなんでそんなことを言うのか分からなくて、内心混乱していたけれどなんでもない風を装って彼におやすみって伝えてから自分の部屋へと足早に戻った。

バタンっと勢いよく扉を閉めて、そのままズルズルと地べたに座り込む。

口元を抑えて、ふうっと息を吐き出すと顔に集まった熱が少しだけ逃げた気がした。

「……それはずるい」

セレーネのたった一言で俺の感情はあちらこちらに動き回ってぐちゃぐちゃになってしまう。

本当に彼には勝てない。

混乱した頭でそれだけははっきりと分かった。
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