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好きな人(セレーネ視点)

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驚いて固まっている僕から顔を離したエイデンは何故か泣きそうな顔をしていて、どうしてそんな顔をするのか僕には分からない。

「なんで……」

ずっと僕の告白を断っていたのはエイデンだったはずなのに、どうして今になってキスなんてしてくるんだろう。

分からないから益々混乱して、僕の目からは涙が流れていた。

「……ごめん」

「違うよっ……謝って欲しいんじゃないっ。ただ、どうしてキスをしたのか聞いてるんだよっ」

ずっとずっと追いかけていた。

エイデンは僕の王子様だった。

すぐ近くにいるのに、決して手には入らない宝石のような人。

けれど、彼は僕の王子様ではなかった。

僕の追い求めていた幼い頃に出会った王子様はエイデンではなくてアルだ。

それでも僕にとってエイデンは今も変わらず王子様のように光り輝いて眩しくてかっこいい存在。

「セレーネが探してる王子様は俺じゃない」

「……っ、知ってたの?」

「ずっと言えなかったんだ。初めから分かってた。だって俺はその結婚式に参加していないから。俺の両親はエレノア様とあまり仲が良くなくて、結婚式には祖父だけが参加したんだ」

「……ならっ、それならどうして違うって教えてくれなかったの!?僕はっ、僕はエイデンのことっ、本当に王子様だって思ってた。今も思ってる」

次から次に溢れてくる涙はなんの涙だろう。

悲しいのか怒っているのか、分からないけれどとにかく苦しくて仕方ない。

「セレーネのことが好きだから言えなかったんだ。君に好きだと言って貰えることが嬉しかったから……。けど、セレーネがくれる好きは王子様だけの特別だ。だから、言えなかったし、嘘をついている俺が君の思いに応えることも出来なかったんだ」

「……っ……僕っ……エイデンの気持ち全然気づいてなかった……。いつも自分のことばかりで、エイデンのこともアルのことも全部なにも分かってなかったっ、ごめんなさいっ……」

いつもなら、大丈夫?って声をかけて寄り添ってくれるエイデンは、今は僕の涙を掬ってはくれない。

それが彼が出した答えなんだって嫌でも分かったから、僕はぐっと唇を噛み締めて、小さく……本当にか細い声で、お別れだねって呟いた。

きっと、エイデンは答えの出せない僕の代わりに選んでくれたんだと思う。

それは僕の思い込みかもしれないけれど、いつだって僕のことを気遣ってくれた彼ならそうするんだろうなって勝手に思う。

手を伸ばせば届く距離に彼はいる。

前まではこんな距離いとも簡単に飛び越えて、彼の隣にベッタリとくっついて離れることはしなかった。

けれど、今はもうそれは出来ないから……。

最後に……本当に最後だから、言わせて欲しい。

「エイデン……大好きでした」

本当に本当に大好きなんだ。

けれど、きっと僕たちの関係は最初から上手くいかないって決まっていた様にも感じる。

僕は過去を忘れられないし、手放せない。
そして、その過去にエイデンは存在しない。

だから、僕達は離れるべきなんだって思う。

僕は彼に背を向けて図書館を出ると自分の寮の部屋へと真っ直ぐに歩いて向かう。

立ち止まったら駄目だって何度も言い聞かせて、ずっと感じる彼の視線に気づいてないふりをした。

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