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好きな人(セレーネ視点)
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授業を終えてふらふらと廊下を進んでいると、いつの間にか図書館の入口に辿り着いていて、無意識にここに来てしまったことに胸が苦しくなった。
授業終わりの少し薄暗い館内は珍しく人がまばらで、アルと初めて話をした時のことを思い出す。
カウンターにはアルではなくて他の生徒が座っていて、今日は当番じゃ無いんだって安堵したと同時に少しの寂しさを覚えた。
そんな複雑な気持ちを引き摺りながら、何となく騎士の心得の置いてある棚へと足を運ぶと、見覚えのある黒髪が目に止まって足を止めた。
「……エイデン」
僕の声が聞こえたのか彼がゆっくりと僕の方を見て、驚いた顔をした後に直ぐにいつもみたいな優しい笑顔を浮かべながらこちらへと歩いて来てくれた。
そんなことにどうしようもなく胸が痛んでしまう。
エイデンはいつも、僕のどんなに些細な言葉だって聞き逃さない。
まるで僕のことを全部分かってくれているみたいに先回りして気遣ってくれて、僕が我儘を言っても今みたいなキラキラとした笑顔で包み込んでくれるんだ。
本当に王子様みたいな人。
理想を絵に描いた様な彼は、もしかしたら僕に合わせてくれているのかもしれないと思うこともある。
「こんな所で会うなんて思わなかった」
「……何をしてたの?」
「ああ、久しぶりに読もうと思って」
そう言って騎士の心得を僕に見せてきたエイデンが、懐かしいな~って笑う。
「この本さ、昔何度も何度も読み返しては立派な騎士になるんだって息巻いてたんだけど、俺もまだまだ駄目だな」
「エイデンはこの学校じゃ一番の剣術の使い手じゃない」
「んー、上には上がいるんだよ。この間アルと手合わせして負けちゃったし」
「アルに負けたの?」
驚いて聞き返したらエイデンが目を細めて、少しだけ悔しそうにそうだよって答えた。
どうして2人が手合わせをすることになったのかは分からないけれど、エイデンに勝つなんてアルは凄いんだなって思った。
「何かあった?」
「えっ……どうして?」
「なんか元気ないから」
「……そ、そんなことないよ」
何故か僕たちの間には緊張感が生まれていて、彼の一挙一動を見逃さないように彼をしっかりと見つめていると、エイデンが微かに口から息を吐き出したのが分かった。
まるで自分に付いている何かを祓うみたいな動作にも見えて不思議に思う。
「アルに告白でもされた?」
エイデンの言葉に僕は一気に頭が真っ白になって、なんて答えたらいいのか分からなくなって、結局小さく頷くことしか出来なかった。
そんな僕にエイデンが手を伸ばしてきて、彼の顔が僕に近づいてきて驚いたと同時に、冷ややかで薄い彼の唇が僕の唇に触れた。
授業終わりの少し薄暗い館内は珍しく人がまばらで、アルと初めて話をした時のことを思い出す。
カウンターにはアルではなくて他の生徒が座っていて、今日は当番じゃ無いんだって安堵したと同時に少しの寂しさを覚えた。
そんな複雑な気持ちを引き摺りながら、何となく騎士の心得の置いてある棚へと足を運ぶと、見覚えのある黒髪が目に止まって足を止めた。
「……エイデン」
僕の声が聞こえたのか彼がゆっくりと僕の方を見て、驚いた顔をした後に直ぐにいつもみたいな優しい笑顔を浮かべながらこちらへと歩いて来てくれた。
そんなことにどうしようもなく胸が痛んでしまう。
エイデンはいつも、僕のどんなに些細な言葉だって聞き逃さない。
まるで僕のことを全部分かってくれているみたいに先回りして気遣ってくれて、僕が我儘を言っても今みたいなキラキラとした笑顔で包み込んでくれるんだ。
本当に王子様みたいな人。
理想を絵に描いた様な彼は、もしかしたら僕に合わせてくれているのかもしれないと思うこともある。
「こんな所で会うなんて思わなかった」
「……何をしてたの?」
「ああ、久しぶりに読もうと思って」
そう言って騎士の心得を僕に見せてきたエイデンが、懐かしいな~って笑う。
「この本さ、昔何度も何度も読み返しては立派な騎士になるんだって息巻いてたんだけど、俺もまだまだ駄目だな」
「エイデンはこの学校じゃ一番の剣術の使い手じゃない」
「んー、上には上がいるんだよ。この間アルと手合わせして負けちゃったし」
「アルに負けたの?」
驚いて聞き返したらエイデンが目を細めて、少しだけ悔しそうにそうだよって答えた。
どうして2人が手合わせをすることになったのかは分からないけれど、エイデンに勝つなんてアルは凄いんだなって思った。
「何かあった?」
「えっ……どうして?」
「なんか元気ないから」
「……そ、そんなことないよ」
何故か僕たちの間には緊張感が生まれていて、彼の一挙一動を見逃さないように彼をしっかりと見つめていると、エイデンが微かに口から息を吐き出したのが分かった。
まるで自分に付いている何かを祓うみたいな動作にも見えて不思議に思う。
「アルに告白でもされた?」
エイデンの言葉に僕は一気に頭が真っ白になって、なんて答えたらいいのか分からなくなって、結局小さく頷くことしか出来なかった。
そんな僕にエイデンが手を伸ばしてきて、彼の顔が僕に近づいてきて驚いたと同時に、冷ややかで薄い彼の唇が僕の唇に触れた。
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