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駄目だよ

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セレーネの柔らかい唇の感触を感じて、理性が吹っ飛びそうになるのを目をぐっと閉じて我慢すると、彼の両肩に手を掛けて彼を引き離した。

「やだっ」

嫌だ嫌だと駄々っ子のように首を振るセレーネを抑えて、俺はしっかりと彼の顔を見ると、強い声で彼の名前を呼んだ。

「セレーネ、こっちを見ろ!」

「……っ」

俺の声に反応してセレーネがビクリと身体を跳ねさせる。

開花期に入った影響ではぁはぁと浅く呼吸を繰り返すセレーネは酷く辛そうで、どうにかしてやりたいと思うけれど、その役目は俺じゃないんだ。

「セレーネ、君が好きなのはエイデンだろう。そうだね?」

「……ぼ、僕っ……」

「違う?」

声を少しだけ和らげて問えばセレーネがポロリと涙を零して、僕はエイデンが好きって答えてくれた。

「ならこんなことしたらダメだ。絶対後悔する」

「……っ、だって……苦しいっ」

「……」

「苦しいよお……エイデンにいくら気持ちを伝えたって応えてくれないっ、僕はエイデンのことが好きなのにっ……でも、でもっ……アルは優しいから……ふっ……うぅ……」

顔を真っ赤にして苦しいって吐露するセレーネの背中を撫でてやりながら、俺は自分の心を落ち着かせるために1度だけ深呼吸をした。

セレーネの言葉は俺にとって刃のように鋭く重いから、受け止めるのに準備が必要なんだ。

「……セレーネ、俺はエイデンの代わりにはなれない。どんなにセレーネが今苦しくて、楽な方に逃げたくても俺は今の君を受け入れることは出来ないんだよ」

「……っ……アル……」

「……苦しいよね……。その苦しさを俺はよく知ってる。でも、俺は助けてあげられない。俺はエイデンじゃないから」

「……アルっ、ごめんなさいっ……」

そう言って泣きじゃくるセレーネをひたすら撫でてあげながら、俺は唇を噛み締める。

セレーネが苦しいように俺も胸が苦しくて、ギリギリの所で踏みとどまっている理性と胸の苦しさでどうにかなってしまいそうだった。

「アル~、遊びに来たよ」

その時、部屋の扉が開いてノアとオリビアが部屋に入ってきた。

「アル、いる~?って……なにしてんの?」

「アステルに、セレーネ様!?えっ、なんだ!??どういう状況なんだっ」

慌てる2人に、セレーネが開花期に入ったと伝えると2人が状況を直ぐに把握してくれて、とりあえず俺からセレーネを離してくれた。

俺は情けないことに腰が抜けてしまっていて、セレーネも苦しそうに胸を抑えている。

「とりあえずアルが外に出た方がいいね。セレーネ様はここに居てもらうしかないよ。外に出したら危険だ」

「……わかった……すまないが肩を貸してくれ」

オリビアがセレーネをベッドに連れて行って、ノアが俺に肩を貸してくれた。

「中から鍵をかけろ」

俺の指示にオリビアが頷いて、それを確認してから俺とノアは急いで部屋から出た。

「……噛んじゃえばよかったのに」

部屋を出て廊下を進んでいるとノアがそう小さく呟いて、俺はそんなことする訳ないだろって返事を返した。

「……どうして?好きなんでしょ」

「……好きだからこそだろ」

「僕なら噛むよ」

「俺はそんなにずるい人間にはなれないんだ。分かるだろ?」

はぁって息を吐き出すと、ノアがまた小さく分かりたくないって呟いたのが聞こえてきた。
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