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それでもいい……(セレーネ視点)

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「それでね、エイデンがね僕の好きなお菓子を買ってきてくれてねっ」

図書館のカウンターに腕を乗せて、本をペラペラめくっているアルにエイデンの話をする。

アルに騎士の心得の場所を教えてもらった日から、僕は度々ここに足を運んでいた。
いつもつまらなさそうに図書委員専用のカウンター席に腰掛けて本を読んでいるアルは僕の話に優しく微笑みを浮かべながら相槌を打ってくれる。

エイデンは最近騎士になる為の訓練で放課後は忙しくて中々一緒に帰ったり出来ないから、アルと話をするのは寂しさも紛れるし楽しいからこの時間が好きだ。

「セレーネは本当にエイデンのことが好きなんだね」

アルが眉を垂れさせてそう言ってきて、僕はそれに満面の笑顔を浮かべて、大好きっ!って答えた。

そうしたら微かにアルが悲しそうな顔をした気がしたけど、直ぐにいつもみたいに微笑みを浮かべて、そうかって返事が返ってきた。

「アルは好きな人いないの?」

「……いるよ」

「へー!どんな子?可愛い??綺麗?」

「可愛くて綺麗で、天使みたいな子かな」

そう言ってふわりとアルが優しく微笑んで、前髪と眼鏡に隠れて目は見えないけれど、凄く大好きなんだって言うのが伝わってきた。

じっと彼が僕の顔を見ている気がして、まるで僕に言われているような気になるけど、そんな風に思うのはアルに失礼だと思って、慌てて、へえー!ってわざとらしいくらい大袈裟にリアクションをとる。

「結ばれるといいね」

応援してあげたくてそう言ったら、アルはやっぱり僕を見つめながら、そうだねって相槌を打った。

「ねえねえ、エイデンが皇太子様かもしれないっていう噂知ってる?」

雰囲気を変えたくて別の話題を振ると、知ってるよって返事が返ってきたから、本当だったら嫌だなってボヤく。

「どうして?」

「今でもかっこよくて優しくて素敵なのに、皇太子様だったら皆もっとエイデンのことほっとかなくなるから。それに、僕のお母様、皇后陛下のことあんまり好きじゃないみたいで……もしもエイデンと付き合えても婚約するのは許してくれないかもしれないから……」

「……そうなんだね。セレーネのお母様はどうして皇后陛下のことが好きじゃないのか分かれば解決できることもあるかもしれないけれど、人の気持ちはどうやっても変えられない時もあるから」

アルの言葉に僕は小さく頷いた。

アルの言う通り、人の気持ちが簡単に変えられるんだったら好きな人のことで悩むことなんてないだろうし、苦しい気持ちになることもないのかもしれないって思う。
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