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それって……
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「おっ!来た来た」
「…仕事は?」
「今日はお前の相手しろって言われてんだよ」
「つまりサボりか」
「違うから!ちゃんとこのために予定開けてるんだよ」
わざわざ俺のためだけに仕事を片付けてくれた兄貴に文句も言えなくて来たくなかったって文句が出るのを喉元で止める。
エントランスの脇にあるソファーに腰掛けて軽く世間話をする。
久々の親の会社はなんだかそわそわするし、さっきから通り過ぎていく従業員や受付の女の子たちが兄貴といる俺の事を詮索するような目で見てくるのもあんまり気分がいいものじゃない。
「そんな嫌そうな顔すんなって」
「…早く帰りたい」
「社長が会いたがってるからさ。いつもの発作みたいなもんだろ」
「すげえめんどい」
父さんと母さんは末っ子の俺にめちゃくちゃ甘くて定期的に俺の顔を見ないと気が済まないらしい。それを俺達は発作って呼んでるけど、その発作は出来れば今後一切おきないでほしいと願ってしまう。
「そういや秘書さんいるって言ってなかった?」
この間兄貴が言ってたことを思い出してそう言うとあ~って兄貴が思い出したように口を開いた。
「今用事で外に出てるけど、もう帰ってくると思うよ」
「ふーん。その後秘書さんの様子はどう?」
「んーー、あれは駄目だな。悪化の一途って感じ」
秘書さんの様子を思い浮かべて苦笑いする兄貴にそっかって返すとタイミング良く兄貴が頼んでくれたのか従業員の女の子が2人分の珈琲を運んできてくれた。
それにお礼を言って珈琲に口をつける。
「兄貴っていつ結婚すんの?」
「まず相手がいないからな~」
「まだ婚約者決まんないの?」
「俺が断ってるから。結婚するなら好きな子としたいだろ」
「もう26なのに大丈夫なのかよ」
「社長と同じこと言うなよ~」
子供みたいに頬を膨らませる兄貴に白けた目を向けると今度は兄貴が泣き真似をし始めて俺は眉を寄せた。
会社の人が困惑してるから辞めろよ。
普段はキリッとしてるのか、こうやって家族と触れ合う兄貴を見ると周りの人はイメージが崩れるみたいだって知ったのはいつだったか。
今もそれは変わらないみたいだ。
「悟来たみたいだ」
しばらく駄弁っていたら兄貴がホールの入口に視線を向けて何がおかしいのかにやにやしながらそう言ってきた。
俺もその視線を辿ってそっちに視線を向ける。
「…え…」
ガシャンって派手な音をたてて手に持っていたカップが俺の手から床へと落ちた。
でも、俺はそんなことに気が回らないくらい動転していて、ゆったりとした足取りでこっちへ歩いてくるその人から視線を外すことが出来ない。
彼は俺の姿に気づくと一瞬だけ微かにぴくりと眉を動かして、その後はなんの感情も浮かんでいない真面目な表情に戻ると近くにいた女の子に俺の割ってしまったカップを片すように言ってから兄貴の隣で足を止めた。
「常務、頼まれていた件の資料を受け取ってきました」
「ああ、ご苦労様。」
兄貴へと仕事の報告をする彼はその間俺には一切視線を向けなくて、俺はそれに何故か生きた心地がしなかった。
「…兄貴…この人って…」
震える唇を動かしてたずねる。
「俺の秘書の月見薫」
兄貴に紹介された薫さんは俺に名刺を手渡すと月見薫ですって自己紹介をしてくる。
まるで初めて会ったみたいなその態度に俺は困惑した。
上司って…兄貴のことだったのか?
前に兄貴が家に来た時の会話を思い出した。
ほらやっぱり…兄貴の言葉はいつだってちゃんと聞いておかないと痛い目を見るんだ。
「…兄貴、俺今日は…帰るわ」
「ここまで来て何言ってんだよ」
兄貴が不思議そうに尋ねてきて俺はそれに目眩がしそうになった。
薫さんは上司のことが好きなんだよな…。
じゃあ、それって…
兄貴のこと?
「…仕事は?」
「今日はお前の相手しろって言われてんだよ」
「つまりサボりか」
「違うから!ちゃんとこのために予定開けてるんだよ」
わざわざ俺のためだけに仕事を片付けてくれた兄貴に文句も言えなくて来たくなかったって文句が出るのを喉元で止める。
エントランスの脇にあるソファーに腰掛けて軽く世間話をする。
久々の親の会社はなんだかそわそわするし、さっきから通り過ぎていく従業員や受付の女の子たちが兄貴といる俺の事を詮索するような目で見てくるのもあんまり気分がいいものじゃない。
「そんな嫌そうな顔すんなって」
「…早く帰りたい」
「社長が会いたがってるからさ。いつもの発作みたいなもんだろ」
「すげえめんどい」
父さんと母さんは末っ子の俺にめちゃくちゃ甘くて定期的に俺の顔を見ないと気が済まないらしい。それを俺達は発作って呼んでるけど、その発作は出来れば今後一切おきないでほしいと願ってしまう。
「そういや秘書さんいるって言ってなかった?」
この間兄貴が言ってたことを思い出してそう言うとあ~って兄貴が思い出したように口を開いた。
「今用事で外に出てるけど、もう帰ってくると思うよ」
「ふーん。その後秘書さんの様子はどう?」
「んーー、あれは駄目だな。悪化の一途って感じ」
秘書さんの様子を思い浮かべて苦笑いする兄貴にそっかって返すとタイミング良く兄貴が頼んでくれたのか従業員の女の子が2人分の珈琲を運んできてくれた。
それにお礼を言って珈琲に口をつける。
「兄貴っていつ結婚すんの?」
「まず相手がいないからな~」
「まだ婚約者決まんないの?」
「俺が断ってるから。結婚するなら好きな子としたいだろ」
「もう26なのに大丈夫なのかよ」
「社長と同じこと言うなよ~」
子供みたいに頬を膨らませる兄貴に白けた目を向けると今度は兄貴が泣き真似をし始めて俺は眉を寄せた。
会社の人が困惑してるから辞めろよ。
普段はキリッとしてるのか、こうやって家族と触れ合う兄貴を見ると周りの人はイメージが崩れるみたいだって知ったのはいつだったか。
今もそれは変わらないみたいだ。
「悟来たみたいだ」
しばらく駄弁っていたら兄貴がホールの入口に視線を向けて何がおかしいのかにやにやしながらそう言ってきた。
俺もその視線を辿ってそっちに視線を向ける。
「…え…」
ガシャンって派手な音をたてて手に持っていたカップが俺の手から床へと落ちた。
でも、俺はそんなことに気が回らないくらい動転していて、ゆったりとした足取りでこっちへ歩いてくるその人から視線を外すことが出来ない。
彼は俺の姿に気づくと一瞬だけ微かにぴくりと眉を動かして、その後はなんの感情も浮かんでいない真面目な表情に戻ると近くにいた女の子に俺の割ってしまったカップを片すように言ってから兄貴の隣で足を止めた。
「常務、頼まれていた件の資料を受け取ってきました」
「ああ、ご苦労様。」
兄貴へと仕事の報告をする彼はその間俺には一切視線を向けなくて、俺はそれに何故か生きた心地がしなかった。
「…兄貴…この人って…」
震える唇を動かしてたずねる。
「俺の秘書の月見薫」
兄貴に紹介された薫さんは俺に名刺を手渡すと月見薫ですって自己紹介をしてくる。
まるで初めて会ったみたいなその態度に俺は困惑した。
上司って…兄貴のことだったのか?
前に兄貴が家に来た時の会話を思い出した。
ほらやっぱり…兄貴の言葉はいつだってちゃんと聞いておかないと痛い目を見るんだ。
「…兄貴、俺今日は…帰るわ」
「ここまで来て何言ってんだよ」
兄貴が不思議そうに尋ねてきて俺はそれに目眩がしそうになった。
薫さんは上司のことが好きなんだよな…。
じゃあ、それって…
兄貴のこと?
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