マニーフェイク・フレンズ

天宮叶

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それって……

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なんだか気まづい雰囲気になった俺達は薫さんの帰るねって言葉でお開きにすることになった。

またいつ会えるかも分からないけれど約束を取り付けるのも今は戸惑われていつも通りお金を渡して、簡単な別れの挨拶だけして薫さんは帰ってしまった。

「はあ~~…」

ソファーに腰掛けてだらりと背を預ける。

薫さんに好きな人がいるっていう事実が思う以上にずしりと心を重くする。本当になんで聞いてしまったのかと少し前の自分を叱りつけてやりたくなった。

「…あれ、これ…」

視界の端に見覚えのあるタイピンが置かれていることに気づいて腰を上げた俺はテーブルの端にちょこんと乗っかっているそれを手に取った。

「忘れちゃったのか」

俺が薫さんにあげたアリッサムのタイピンは相変わらず洗練された美しさを保っていて薫さんを見ている気分にさせられた。

それと同時に早く返さないとって思う。

「…間に合うか……、無理か…」

走ればもしかしたら間に合うかもしれないけれど、これを返すのがなんだか惜しくなってくる。

これが家にあれば忘れ物を口実にまた彼に会える。

真っ当な理由なんだからまた会ったっていいじゃないかって自分に言い聞かせて明日にでも連絡しようと決めた。

寂しさを紛らわすようにタイピンの縁をなぞって彼の笑った顔や熱を思い出す。

さっきまで一緒に居たのにもう会いたくなって、タイピンを両手で包み込んで口元まで持っていってそれを包み込んだ手にキスを落とした。

そうすると、いつもはつけている香水を今は付けてないせいか彼の香りはしなくて、俺はまたそれに寂しさを覚えた。

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