マニーフェイク・フレンズ

天宮叶

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それって……

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風呂から上がってリビングで寛いでいると薫さんが部屋に飾られていた花に気づいて近づいていった。

「可愛いね」

いつの間にか沢山の花を咲かせているそれは光に照らされて輝いている。
折れていた所はもう目立たくなって、新しい蕾がいくつも顔を出していた。

「これってパンジーだよね」

俺でも分かるよって薫さんが笑って俺はそれに笑い返す。

「俺の家のは枯れちゃったんだ…」

「また育てたらいいじゃないですか」

寂しそうに花を見つめる薫さんに何も考えずにそう言ったら薫さんはゆるりと首を横に振って、あれじゃないと駄目だったんだってやっぱり寂しそうに答えた。

「そういえば花には花言葉があるって上司から聞いたんだけど、これはどんな花言葉があるのか分かる?」

話題を変えるように薫さんがそう言ったから俺は彼からパンジーへと視線をずらして少しだけ考える。

「確か…私を思って、だったと思います」

「…私を思って…か。片思いの花なんだね」

片思いって言葉にぎゅっと心臓が悲鳴をあげた気がした。

まるで自分の今の気持ちそのものの花言葉に目の前のパンジーが俺の代弁をしてくれているような気にもなってくる。

「…薫さんは…好きな人いるんですか?」

つい気になって聞くと、薫さんはパンジーから視線を外して俺の隣に腰掛けた。

ふわりと俺と同じシャンプーの匂いが漂ってくるのに変な感じがした。

「…いるよ、好きな人」

「…そ、そうなんすね」

薫さんの答えにずきりと胸が痛む。

ギシギシと悲鳴をあげる心臓が苦しくて、聞きたくないって自分が話題を振ったくせに耳を塞ぎたくなった。

「…凄く頑張り屋で、可愛い人なんだ」

昨日車内で見た時みたいに眉を八の字に垂れさせた薫さんの顔を見てその好きな人って話してた上司のことなんじゃないかって思い至る。

聞くんじゃなかった…。

言った後に後悔するなんて俺は馬鹿だ。

「…悟くんは?」

「…います…」

薫さんのことが好きです。

「その人は幸せだね」

「…え?」

「悟くんみたいないい子に好きになって貰えるなんて幸せなことだよ」

なんで…

なんでそんなこと言うんだよ…。

優しい声で本当にそう思ってるって言うみたいに薫さんが笑うから俺は何も言えなくなった。

ここでその好きな人は貴方ですって言ったら薫さんはどんな反応をするんだろう…。

きっと好きな人がいるって断られるんだと思う。

それは怖くて、告白したらこの関係も失ってしまうなら言わない方がいいって結論付ける。

「…叶うといいですね」

全然思ってないことを口走ると薫さんは俺の言葉を受けて困ったように微笑んだ。
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