マニーフェイク・フレンズ

天宮叶

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友達

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俺何かおかしいこと言ったかな?

「それ大丈夫な理由になってないの分かってる?」

「え……あー……んーー?」

なんて言えばいいかわかんなくて首を傾げたら更に笑われて少しだけ恥ずかしくなった。
結構笑い上戸なのかなって笑ってる彼を見ながら思う。

ひとしきり笑ってから、お邪魔しようかなって彼が言って俺はそれに了解ですって答えた。

並んでエレベーターに乗り込んで部屋へと向かう。どんどん上がっていくエレベーターの浮遊感が俺は苦手で、親に何度も1番下の階にしてくれと頼み込んだのに聞き入れて貰えなかったのは今でも苦々しい思い出だ。

「流石に高いね」

ガラス窓になっている後ろを見て彼が呟いた。

「高いの苦手ですか?」

「…そんなことないよ」

これ、絶対苦手なヤツだわ。

顔は平然としてるけど少しだけ後ろを気にしている様子に可愛いところもあるんだなって笑いそうになった。

180ある俺と並んでもそんなに変わらない身長と均等の取れたスラリとした身体つきにこの顔がくっついていると隙が無さすぎて少し関わりにくい印象があるのに意外なギャップを見つけると途端に親近感が湧いてくる。

それからぽつぽつと世間話をしていたらあっという間に最上階について、エレベーターを降りて廊下に1つしかない扉の前へと進んだ。カードキーを取り出してかざしてから指紋認証をして部屋へと入る。無駄にセキュリティが高いのも親のこだわりだったりする。

「適当にくつろいでてください」

「ありがとう」

彼はそう言って近くにあったソファーにゆったりと腰掛けた。それを見てこの人やっぱりこういうところ慣れてるのかなって思う。

俺の家に初めて来る人は大体無駄にテンションが上がるかビビって縮こまるかのどっちかで、その後は俺を金づる認定するのか無駄にしつこく付きまとって来るやつとかもいるんだけどこの人はそのどっちでもない。

「お酒飲みます?」

「…まだ飲むの?」

「ショット2杯しか飲んでないんですってば」

「ふーん、弱いんだね」

ストレートに言われてなんだかものすごくグサッときたけど、苦笑いで返して冷蔵庫に入っていた酒類を適当にチョイスしてテーブルに並べた。ついでに簡易のワインセラーからワインも1本取り出す。

「どれ飲みます?」

「それ、頂こうかな」

俺が手に持っていたワインを指さした彼にワイングラスを渡して注いであげる。

種類なんてさっぱり分からないのに親が俺の家を酒置き場みたいにしてるから無駄に大量の酒が眠っていて、たまに邪魔に思うことがあるけど、こういう時に役立つから何も言わない。

俺も近くにあった缶ビールを手にとって一気に煽った。酒は一気飲みが1番美味い。
それを周りに話すと呆れられるけど、好きに飲むのが1番だと俺は思う。

「そういえば名前聞いてませんでした」

「知りたいの?」

「そりゃあ、呼ぶ時不便ですし」

今後関わることがあってもなくても名前くらいは知っておきたいと思う。もう一生こんな綺麗な人とは話せないかもしれないんだし…。

月見 薫つきみ かおる。君は?」

名前まで綺麗なんだな。

星野 悟ほしの さとるです」

「星野?……星野グループの社長の息子さん?」

「え……あー……そうですけど……」

「へー、お兄さんと似てないね」

この人兄貴のこと知ってるの?
話せば話すほど不思議な人だ。
会社関係の人なんだろうか。

星野と聞いて食いついてくる人は山ほど見てきたけどこんなにあっさりしてるのは始めてて困惑する。

「飲まないの?」

「……ちょっと酔ってきたみたいで」

飲むペースが目に見えて落ちてきている俺を月見さんが指摘してくる。当の本人はさっきから結構な量飲んでるはずなのにケロッとしているから驚く。

「夜にあんなとこで1人酒なんて……友達と飲んだりしないの?」

突然の話題に缶を上げようとしていた手が止まる。

「……ぼっちなんで」

「友達多そうなのに」

意外そうに言われて複雑な気分になった。

高校の時は俺も自分は友達が多い方だって思ってたけど、それは違うって思い知らされてからは人と深く関わるのを無意識に避けている節がある。


「……月見さんが俺の友達になってくれます?」

なんてって言って手に持っていた缶を煽った。
身体にアルコールがしみてなんとも言えないふわふわ感に包まれる。

冗談で言ってみたけど案外本気だったりする。
こんな風にリラックスして、俺の何にも驚かずに世間話をできるような、まさに月見さんみたいな人と友達になれたら絶対楽しいのにって思う。

「飲み過ぎだよ」

手に持っていた缶をそっと奪われてそれに少しだけムッとした。

確かに俺は酔ってるのかもしれない。
だからこんなこと思うのかも。

初対面の相手に友達になれなんて馬鹿みたいだけど、俺は自分が思うよりもかなり寂しかったのかもしれない。

「お願いします……いくらでも払うんで俺と友達になってください」

だからこんなことを口走ってしまう。

月見さんは驚いた顔をした後に、少しだけ困った顔をして立ち上がると俺の横に腰かけた。

「……いいよ」

意外にもあっさりとOKされて逆に俺が戸惑う。
彼は俺から奪った缶を豪快に煽るとテーブルに缶を置いた。

それを目で追いながら関節キスだなって安直なことを思う。

「ところで、友達ってどういう友達?」

「え……」

含み笑いをした月見さんに顔を覗かれて答えに迷った。

確かに友達ってなにかって考えた時にどうしたら友達になるのかなんてよく分からないなって気づく。

「……うーん……」

「考えてなかったの?」

「……はい」

「ふーん。俺はてっきりこういうことかと思ったんだけど」

「……!?」

月見さんの白くて長い指が俺の顎をそっと掴んで、状況の飲み込めない俺を置いてけぼりにして月見さんの綺麗な顔が俺の視界にドアップで映し出される。しっとりした柔らかい感触と、ビールとワインの混ざった独特の味が口内に広がる。

一瞬で離れた月見さんの顔を俺は間抜けな顔で見つめた。

「……へ?」

俺の口からとび出たのも間抜けな声だった
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