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決別
①
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はらりと自身の結んでいた長髪が床へと落ちるのを視界に捉えながら、一瞬の隙を見てラセットさんの腕に巻かれていた縄を解いた。
「ラセットさんっ、立って!!」
「っ……我慢してくださいよっ!」
ラセットさんが素早く立ち上がると僕の腕を引いて自分の胸に引き寄せる。そして、近くに落ちていた剣を拾って男達を次々に薙ぎ払って行く。
「ちょっとちょっと~、やめてよねえ、まさか飛び込むなんて思わなかったよ」
アデレードの言葉に男達が動きを止めて、その隙にラセットさんが僕を抱き締めたまま距離を取った。
「ちっ、その護衛は連れて来るときに殺しとくんだった」
「……アデレードっ!」
「なあに?ほんっとうにうざいなあ」
「もう止めてよ……」
こんなことしても意味なんてない。
ロペス家の未来は隣国でこんなことした時点でもう途絶えてるんだよ……。
「やめないよ~?だって、お前だけが幸せになるなんて許せないから。僕は天使の落とし子とまで言われるアデレード=ロペスなんだよ??それなのに、どうしてこんな惨めな思いをしないといけないのさ!!!」
ジリジリと僕達に近づいてくる彼にラセットさんが剣を向けて対峙する。
アデレードは剣先が見えていないのか、喉元近くにあるそれを気にも止めていない風にただ真っ直ぐ僕だけを見つめて歩を進めてくる。
「僕と君は違う人間なんだ。だから、それぞれがそれぞれの生き方を探す必要があるんだよ。アデレードは許されないことをしてしまったけれど、今ならまだ道を正すことが出来るはずだよ」
「うるさいっ!!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっっ!!!!」
腹の底からの叫びに唖然として固まってしまう。
肩で荒い息を吐き出していたアデレードは、固まる僕を見て急にニタリと嫌な笑みを浮かべ始める。
「……そうだよ……」
「アデレード?」
「……そうさっ……僕にはもう、正せる物なんて残っちゃいない。ジュダ様を愛していたのに!それなのに、彼は僕を選ばなかった。優しかったお父様でさえ僕のことを呆れた瞳で見てくるんだ!!美しいともてはやしていた癖に、公爵家が落ちぶれた瞬間周りからは誰もいなくなった!僕はっ、僕にはもうなにも残っちゃいないんだ!!」
アデレードは叫びながら剣先に向かって走り出した。剣先とアデレードの距離が近すぎてラセットさんが剣を下ろす間もない。
スローモーションのように彼が剣に向かって走るのを目に焼き付けながら、彼の目元に涙が光っているのが見えて、僕は思わず自分を護ってくれているラセットさんを勢いよく横へと突き飛ばした。
ガシャンっと剣が床に落ちる音を聞きながら、目の前で尻餅を付くアデレードを見つめる。
僕は歯を食いしばると、アデレードの目の前にしゃがみこんで彼の頬を思い切り平手打ちした。
「……っ!?」
「何してるんだよ!!!!」
ボロりと涙が溢れてくる。
自分でも、どうして涙が溢れてくるのかもわからないまま、唖然とした顔で僕のことを見つめていふアデレードを抱きしめた。
華奢な肩がビクリと揺れて、彼は本当に変わってしまったと頭の片隅で思う。
いつも堂々としていて美しかったアデレード=ロペスはもう居ない。目の前にいるのは自分の犯してしまった罪を受け入れられずただ震えている幼子のような青年。
「離して……」
「離さないよ」
「離せってばっ!!」
背中を握り拳で何度も叩かれて、その度に鈍い痛みが走るけれど、それでも僕は彼を抱きしめたまま離すことをしなかった。
「ラセットさんっ、立って!!」
「っ……我慢してくださいよっ!」
ラセットさんが素早く立ち上がると僕の腕を引いて自分の胸に引き寄せる。そして、近くに落ちていた剣を拾って男達を次々に薙ぎ払って行く。
「ちょっとちょっと~、やめてよねえ、まさか飛び込むなんて思わなかったよ」
アデレードの言葉に男達が動きを止めて、その隙にラセットさんが僕を抱き締めたまま距離を取った。
「ちっ、その護衛は連れて来るときに殺しとくんだった」
「……アデレードっ!」
「なあに?ほんっとうにうざいなあ」
「もう止めてよ……」
こんなことしても意味なんてない。
ロペス家の未来は隣国でこんなことした時点でもう途絶えてるんだよ……。
「やめないよ~?だって、お前だけが幸せになるなんて許せないから。僕は天使の落とし子とまで言われるアデレード=ロペスなんだよ??それなのに、どうしてこんな惨めな思いをしないといけないのさ!!!」
ジリジリと僕達に近づいてくる彼にラセットさんが剣を向けて対峙する。
アデレードは剣先が見えていないのか、喉元近くにあるそれを気にも止めていない風にただ真っ直ぐ僕だけを見つめて歩を進めてくる。
「僕と君は違う人間なんだ。だから、それぞれがそれぞれの生き方を探す必要があるんだよ。アデレードは許されないことをしてしまったけれど、今ならまだ道を正すことが出来るはずだよ」
「うるさいっ!!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れっっ!!!!」
腹の底からの叫びに唖然として固まってしまう。
肩で荒い息を吐き出していたアデレードは、固まる僕を見て急にニタリと嫌な笑みを浮かべ始める。
「……そうだよ……」
「アデレード?」
「……そうさっ……僕にはもう、正せる物なんて残っちゃいない。ジュダ様を愛していたのに!それなのに、彼は僕を選ばなかった。優しかったお父様でさえ僕のことを呆れた瞳で見てくるんだ!!美しいともてはやしていた癖に、公爵家が落ちぶれた瞬間周りからは誰もいなくなった!僕はっ、僕にはもうなにも残っちゃいないんだ!!」
アデレードは叫びながら剣先に向かって走り出した。剣先とアデレードの距離が近すぎてラセットさんが剣を下ろす間もない。
スローモーションのように彼が剣に向かって走るのを目に焼き付けながら、彼の目元に涙が光っているのが見えて、僕は思わず自分を護ってくれているラセットさんを勢いよく横へと突き飛ばした。
ガシャンっと剣が床に落ちる音を聞きながら、目の前で尻餅を付くアデレードを見つめる。
僕は歯を食いしばると、アデレードの目の前にしゃがみこんで彼の頬を思い切り平手打ちした。
「……っ!?」
「何してるんだよ!!!!」
ボロりと涙が溢れてくる。
自分でも、どうして涙が溢れてくるのかもわからないまま、唖然とした顔で僕のことを見つめていふアデレードを抱きしめた。
華奢な肩がビクリと揺れて、彼は本当に変わってしまったと頭の片隅で思う。
いつも堂々としていて美しかったアデレード=ロペスはもう居ない。目の前にいるのは自分の犯してしまった罪を受け入れられずただ震えている幼子のような青年。
「離して……」
「離さないよ」
「離せってばっ!!」
背中を握り拳で何度も叩かれて、その度に鈍い痛みが走るけれど、それでも僕は彼を抱きしめたまま離すことをしなかった。
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