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僕の家族

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次から次に頭の中を飛び回る疑問たちのせいで、きっと僕は変な顔をしていたんだと思う。エレノアは僕の心境を読み取ったかのように、誤解しないでくださいなって僕の手を取って、やっぱり真っ直ぐ目を合わせながら言ってきた。
誤解、とはなんのことだろう。

「私、皇后候補から外れてとても清々しているの。皇帝陛下がいつまでもお相手を選ばないから身分の釣り合う私と他に数名、候補が選ばれたけれど、14歳で成人とはいえ29歳の皇帝陛下に嫁ぐなんて歳が離れ過ぎてると思わない?それに私、恋愛はまっぴらごめんなのよ」

目の端を釣り上げてぷりぷりと愚痴を零すエレノアに、思わずきょとんとした間抜けな顔を向けてしまった。彼女の言うことが本当だとするなら、皇后候補になったのはエレノアにとって嬉しくはないことだったんだろうか。

「……その、僕のせいで皇后候補じゃなくなったってことなんじゃ……」
「むしろ嬉しいですわ。私お義兄様を全力で応援しております」
「そう、なの?」

きらきらと輝くような笑顔で言われてどう反応していいのか困ってしまう。。皇后候補だったって言われて、エレノアも本当は僕のこと嫌いなんじゃないかって、一瞬疑って悲しくなったけれど、それは杞憂だったらしい。

「私、この公爵家を継ぐ予定なのよ」
「……公爵家を?」
「この国では女性だって然るべき手続きを踏めば当主になれるの。エーデルシュタイン公爵家には私しか子供がいないから、私がここを継いで親孝行をするって決めているの。お父様とお母様はお嫁に行って欲しいみたいだけど、そんなの相手から来させればいいって思ってるわ!」

はっきりと力強く、自分の将来の夢を語ってくれるエレノア。そんな彼女のことを、心から凄いって思った。僕よりも年下の女の子が、未来を見据えて努力している姿を目の当たりにすると、現状に嘆いてばかりで足踏みしている自分が酷く愚かに思えてくるんだ。

「……エレノアは凄いね……」

羨ましさと尊敬の入り交じった言葉を思わず零す。エレノアは一瞬驚いた顔をした後に僕に花が咲くみたいな笑みを向けてくれた。

「お義兄は私達の家族になるのだから、一緒にお勉強をしましょう!きっと2人なら楽しいわ」
「……まだ、家族になるかどうかは決めてなくて……」

首を横に振ると、彼女はきょとんとした顔をして僕を見つめてきた。

「なにを仰られるかと思えば、お義兄様ったら面白い冗談を言われるのね」
「……冗談?」
「だって、お義兄様はこのエーデルシュタイン公爵家の養子にならなければ皇帝陛下には嫁ぐことが出来ないのよ?」
「……どういう、こと?」

エレノアがなにを言っているのかわからなくて、困惑する。彼女には分かっていて僕には見えていないことでもあるみたいに、至極当然のように嫁げないと口にされ、何故だか泣きたい気持ちになる。

「……お義兄様、もしかして陛下からなにも聞いていないの?」
「アデルバード様から、なにを聞くの?」
「私、その……知ってるとばかり……。私から聞いたことは内緒にしてくれる?」

エレノアが不安そうに尋ねてくるから、分かったって頷いて彼女の次の言葉を待った。

自分のことなのになにも分からないことが不安で仕方ない。きっと自分の置かれた現状を僕だけが理解出来ていない気がする。

「お義兄様はリュカ=ロペスではないのよ。いいえ、それ以前にお義兄様は戸籍がないからどの国のどの家にも属していない状態なの。だから、今のままではお義兄様は皇帝陛下とは添い遂げられないのよ。身分がないのだもの……」

事実を知って、ぐらりと視界が揺れる感覚がした。
戸籍?……何処にも属していない?
じゃあ、僕はロペス公爵家の息子ですらないってことなの?

アデレード兄さんが自慢の一人息子だと言われていたのを思い出す。その言葉は確かに間違いではなかったんだ。僕は息子とすら認めてもらえていなかった……それどころか、1人の人間としても認めてもらえていなかったんだ。

だから、アデルバード様は僕に家族を作ってくれようとしてくれているの?

悲しさと困惑の感情が襲ってきて、その次は怒りの感情が頭を過った。けれど最後には、諦めという感情が全身を覆って、僕は小さく笑い声を漏らす。それと同時に目から涙が零れてきて、もう消えてしまいたいと本気で思った。
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