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身代わりの花

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ふらふらと目的の場所もなく屋敷の中を歩いていく。今はパーティーの真っ最中で、屋敷の中には人影があまり見当たらない。
中庭に続く外通路を歩いていると丁度そこが月明かりに照らされていて、庭園と空が良く見えた。
立ち止まって、月に照らされながら、夜空の星々を目に焼きつける。  

「…僕も星になりたい」 

無意識に出た言葉は確かに自分自身の願いでもあった。

「そんな所で何をしているのかな?」

夢中になって星を見つめていると、突然通路の奥の方から低くて落ち着いた声に話しかけられた。ゆっくりとそちらに顔を向ける。
暗がりからこちらへゆったりと歩いてくるその人の姿が、月明かりに照らされて段々と浮かび上がってくる。

銀糸を溶かしたような美しい長髪に金色の瞳。見たこともないほどに精巧に整った顔にはやけに感情のこもっていない作られた笑みだけが貼り付けられていて、美しい彼にその笑顔は勿体ないと感じた。
彼がもし本物の笑みを浮かべたなら、きっととても素敵だろうなと思う。

初対面の相手にそんなことを思うなんて、酷く自分が図に乗っているように感じて拳を握りしめた。

「星を見ていたのです」

みっともなく掠れた声が喉から出る。
その声を聞かれることが恥ずかしくて、微かに俯いた。

「楽しいかい?」
「……えぇ……とても」

暗いやつだと思われただろうか。
なぜかこの人にそんな風に思われることが嫌だと思う。

「星が好き?」

質問攻めしてくる彼に内心で首を傾げつつ、小さく頷いた。
金色の瞳に見つめられるとなんだが落ち着かない気分にさせられる。
きっと彼は天人なのだろうと、その時思った。
花人の匂いに惹き付けられる人のことを天人と呼ぶ。

天人は産まれながらに高い潜在能力を秘めていると言われており、高い地位にいる者はほとんどが天人だ。彼らは唯一、花人の開花期を抑えることの出来る人間であり、開花期に花人が天人に項を噛まれると契約関係の様なものが成立する。その2人は永遠に離れられない存在になるのだとか。

また花人が天人の子を産むと、ほとんどの確率で天人が産まれることが分かっており、花人が重要視されるのはそういった面も関係している。
そんな花人と天人には狂花と呼ばれる現象がごく稀に起きることがある。

狂花が起きた花人と天人は深くお互いを求め合い、唯一無二の存在になれるらしい。
狂花なんて夢物語だと言って笑う人は多いけれど、もしもそんな相手が見つかったらどれだけ幸せなんだろうって想像してしまう。
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