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うしお

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番外編『囚われのメイド姫』

番外編『囚われのメイド姫』1

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「……鎖の先に、爆発物は仕掛けられてない、か。特に魔術的な罠もないようだし、本当に首輪を繋いでいるだけ……? あいつは、本気で俺を閉じ込める気があるのか?」

スヴェンは、自身の首につけられた首輪からのびる鎖を手にひとりごちる。
どうしてそこまで無防備でいられるのかと思ってしまうほど、屋敷に配備された私兵たちはスヴェンのことを警戒していない。
スヴェンを脅威だと思っていないのだ。
作戦の通りと言われればそれまでなのだが、スヴェンは少し複雑な思いだった。


つい数日前のことだ。
とある貴族の屋敷で、違法な奴隷売買が行われているという情報が、騎士団本部に匿名で寄せられた。
名指しされている貴族は、普段から騎士団のために色々と便宜をはかってくれている商会の出資者で、本人からもそれなりの寄付をいただいている。
半信半疑ではあるものの、手紙に書かれた内容を見ればみるほど、その貴族が怪しいとしか言えなくなった。
いくら騎士団がお世話になっているとはいえ、違法な奴隷売買など許されることではない。
騎士団としても、このところ平民の子どもが姿を消しているとあって、最大限の警戒を行っているところだった。
事実であれば、とんでもない話だ。
すぐに裏付け捜査が行われることになった。
行方不明になった子どもと、その貴族の周辺に騎士団は密かに捜査の手をのばす。
気付かれてはならない極秘任務だった。

幸いなことに、といえばいいのか、それともそれ自体が罠なのか。
その手紙には、次の売買が行われる日まで書き込まれていた。
数日後の夜、街外れの貴族屋敷の地下でオークションが行われるという。
罠だとしても、見逃すわけにはいかない情報だった。
すぐさま、決定的な証拠を得るため、潜入捜査を行うことが決定される。

相手を警戒させないため、という理由で潜入捜査官には、騎士団でも一番小柄なスヴェンが選ばれた。
スヴェンは、今年で三十になる立派な成人男子なのだが、いまだに未成年に間違われがちな容姿をしている。
それが役に立つのならと、スヴェンはしぶしぶではあるものの任務を引き受けることにした。
それに、スヴェンは騎士でありながら、魔術も使える魔術騎士だ。
剣を持ち込めない場所であっても、魔術触媒さえあれば魔術で何とかすることができる。
スヴェンは、この任務を全力でこなすことに決めていた。
何の罪もない子どもを食い物にする輩が、許せなかったのだ。

数日後に行われるオークションまでにスヴェンを潜入させるべく、騎士団はあらゆるつてを使って屋敷に繋がる縁を手繰り寄せた。
その結果、スヴェンは何故か、屋敷にメイド姿で潜入することになった。
それも、サービスメイドなる少しいかがわしい店の店員としてだ。
どうやら、疑惑の貴族のいきつけの店らしい。
スヴェンは、金に困っている平民の少年として、その店に入ることになった。
金さえ払えば、店員に何でもさせると噂のいかがわしい店だ。
結果次第では、こちらの店も騎士団で摘発することになるだろう。
それにしても、三十路の男に十代の無垢な少年の振りをしてこいだなどと、とんでもなく無茶なことをさせられる。
スヴェンは、苦々しく思いながらも面接に挑んだ。
すぐに店主に引き合わされ、スヴェンは面接を受けた。
間近で顔を見られ、頬をぷにぷにと押されながら、これはバレてしまったのかとひやひやする。
だが、スヴェンの年齢がバレることはなかった。
店主の目が節穴だったのか、スヴェンの肌が少年のようにぴちぴちしていたのか、判断に迷うところだ。

スヴェンに用意された衣装は、丈が異様に短いスカートのふわふわワンピースに、ピンク色のふりふりエプロン。
誰の趣味だがわからないが、太ももまでの黒いストッキングにガーターベルトまで着けさせられた。
他にも、両方の手首に意味のわからない布製のブレスレットみたいなものを着けさせられたり、頭にもひらひらな何かを着けさせられたが、おかげで魔術触媒でもあるスヴェン特製の魔石ブレスレットを外さなくてすんだのでよしとしておく。
着替えたあとは、ばふばふと化粧をはたかれ、可愛らしいと褒められながら女の子のような顔にされた。
「これは逸材だわ! ワタシの目に狂いはなかった!」と野太い声で歓喜する店主を横目に、スヴェンは自身の顔が見たこともない少女のものになっているのを苦々しく思いながら受け入れる。
これなら、相手も油断してくれるだろう。

そうとでも思わなければ、こんなことやっていられなかった。
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