1 / 32
一日目リノ、夫役
1、授業開始
しおりを挟む
「では、各自準備のできたものからここを出て、実技へと移るように」
実践を交えながら授業説明を終えた黒い仮面の男は、着ていたローブの前を整えながら観客であり、本日の授業を受ける生徒に向かって言い放つ。
静まりかえった部屋には、二十人ほどの生徒しかいない。
だが、これはいまから授業を受ける生徒のほんの一部だ。
これから授業を受ける生徒は、全部で八十人と聞いている。
ここの他にあと三ヶ所でも、同じように授業説明が行われているということだろう。
いつもの授業であれば、周囲の人間の反応を気にするところだが、今日の授業に関してはそれをする必要がなかった。
目の前に立つ男はもちろん、周囲に座る人の顔さえ、今のリノにはわからない。
だが、それは周囲にいる誰もが同じ状況だ。
仮面の男はもちろん、生徒である自分たちも姿変えのアンクレットをつけていた。
アンクレットには、身につけていると目の前で顔を見ても、それが誰かわからなくなる魔法がこめられている。
さらには、本人が望まない限り外れることがないように、魔法で鍵がかけられているため正体を暴かれる心配もない。
これから行われる授業は、相手の素性を知らないまま行うことになっていた。
いつもは気弱でおどおどするしかない伯爵家子息のリノでも、クラスで一番の秀才である公爵家子息のロイドだけでなく、第二王子であるアルステリス王子の存在すら気にしなくていいということだ。
いまはどの人も、顔がわからないただの一生徒でしかないのだから。
黒い仮面をつけた男に言われるまま、覚悟を決めたリノは部屋から外に出た。
この授業は、基本的には二泊三日のお泊まり授業だが、合格ができなければ何日も延長して受けなければならないと決められているので、少しでも早く合格したいリノは素早く動くことにしたのだ。
明日も受けなければならない授業があるため、どうがんばっても今日中に合格することはできないが、場合によっては何時間でも練習する必要があるかもしれない。
それならば、少しでも早く本日の授業を済ませてしまおう、ということである。
小さなパーティーを開けそうなほど大きなエントランスは、いつの間にか真っ黒な幕に覆われていた。
真っ黒な幕はどこかに繋がる通路の入口らしく、いくつかある入口の前には、それぞれ白い仮面をつけた男が立っている。
黒であれ白であれ仮面をつけている男たちはみんな、学園の関係者だという話だが、その声にも顔にも覚えがない。
きっとこちらも何かしらの魔法で、中身が誰であるかわからないようにしているのだろう。
「一人一本だ。導きの杖を受け取るように」
なんとなく誘われるまま、いくつかある列のひとつに並ぶ。
白い仮面の男は、並んだ入口でペンと同じくらいの長さの杖を配っていた。
順番がやってきた差し出す杖を受け取ると、先端に小さな灯りが点る。
「その灯りが指し示す部屋に入りなさい」
リノはどきどきしながら、黒い幕でできたトンネルの中に足を踏み入れた。
実践を交えながら授業説明を終えた黒い仮面の男は、着ていたローブの前を整えながら観客であり、本日の授業を受ける生徒に向かって言い放つ。
静まりかえった部屋には、二十人ほどの生徒しかいない。
だが、これはいまから授業を受ける生徒のほんの一部だ。
これから授業を受ける生徒は、全部で八十人と聞いている。
ここの他にあと三ヶ所でも、同じように授業説明が行われているということだろう。
いつもの授業であれば、周囲の人間の反応を気にするところだが、今日の授業に関してはそれをする必要がなかった。
目の前に立つ男はもちろん、周囲に座る人の顔さえ、今のリノにはわからない。
だが、それは周囲にいる誰もが同じ状況だ。
仮面の男はもちろん、生徒である自分たちも姿変えのアンクレットをつけていた。
アンクレットには、身につけていると目の前で顔を見ても、それが誰かわからなくなる魔法がこめられている。
さらには、本人が望まない限り外れることがないように、魔法で鍵がかけられているため正体を暴かれる心配もない。
これから行われる授業は、相手の素性を知らないまま行うことになっていた。
いつもは気弱でおどおどするしかない伯爵家子息のリノでも、クラスで一番の秀才である公爵家子息のロイドだけでなく、第二王子であるアルステリス王子の存在すら気にしなくていいということだ。
いまはどの人も、顔がわからないただの一生徒でしかないのだから。
黒い仮面をつけた男に言われるまま、覚悟を決めたリノは部屋から外に出た。
この授業は、基本的には二泊三日のお泊まり授業だが、合格ができなければ何日も延長して受けなければならないと決められているので、少しでも早く合格したいリノは素早く動くことにしたのだ。
明日も受けなければならない授業があるため、どうがんばっても今日中に合格することはできないが、場合によっては何時間でも練習する必要があるかもしれない。
それならば、少しでも早く本日の授業を済ませてしまおう、ということである。
小さなパーティーを開けそうなほど大きなエントランスは、いつの間にか真っ黒な幕に覆われていた。
真っ黒な幕はどこかに繋がる通路の入口らしく、いくつかある入口の前には、それぞれ白い仮面をつけた男が立っている。
黒であれ白であれ仮面をつけている男たちはみんな、学園の関係者だという話だが、その声にも顔にも覚えがない。
きっとこちらも何かしらの魔法で、中身が誰であるかわからないようにしているのだろう。
「一人一本だ。導きの杖を受け取るように」
なんとなく誘われるまま、いくつかある列のひとつに並ぶ。
白い仮面の男は、並んだ入口でペンと同じくらいの長さの杖を配っていた。
順番がやってきた差し出す杖を受け取ると、先端に小さな灯りが点る。
「その灯りが指し示す部屋に入りなさい」
リノはどきどきしながら、黒い幕でできたトンネルの中に足を踏み入れた。
52
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!


朔の生きる道
ほたる
BL
ヤンキーくんは排泄障害より
主人公は瀬咲 朔。
おなじみの排泄障害や腸疾患にプラスして、四肢障害やてんかん等の疾病を患っている。
特別支援学校 中等部で共に学ぶユニークな仲間たちとの青春と医療ケアのお話。


男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる