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しおりを挟む今度はしっかり目を開けて背後を振り返る。薄暗い視界に入った光景に、目を疑った。休んでいるはずの皇帝がいない。苦し気な呼吸音とともに上下する大きな体躯は、全身が金色の体毛に覆われていた。凛々しくも豪傑なたてがみは背中までなびく。
毛並みよく、艶やかで、獰猛で。どんな獲物でも一瞬で仕留められるだろう雄々しさを放つ、輝く黄金の若獅子だ。全長はルトの数倍以上ある。苦し気に呻く獣の口元には鋭い牙が覗いた。
「……っ」
思わず声をあげそうになるのをどうにか堪える。無茶な交わりで軋む身体も忘れ、驚きに身を起こした。これは、誰。
状況を考えれば皇帝しかいない、だがどう見ても獣だ。ぐったりと苦しそうに、金色の背が激しく上下するのを間近で感じる。どこか怪我をしているのだろうか、手負いの獣のよう。
いやこの獣は皇帝か。獣人は、獣にもなるのだろうか。それとも皇帝が飼っている、本物の獣かもしれない。
様々な疑問が頭に浮かび、戸惑いながら半信半疑で手を伸ばした。目の前の現実をなぞるように、そっと、艶色の良い毛並みを撫でる。
手負いであっても王者の風格を醸し出す獰猛な肉食獣は、完璧で、作り物めいて見えた。だが手に触れる温かな体温が生命を知らしめる。ルトの撫でる手がわかるのか、若獅子の喉元がゴォゥゥと地鳴りを立てるように低く鳴いた。
シャド村で世話をした動物が、怪我を負った様子をふと思い出した。痛々しいのが可哀想で癒しの力を使った。物言えぬ動物にも力が効くかはわからない。それでもどことなく、安らかになったようで嬉しかった覚えがある。
さらさらと流れる心地よい手触りに、知らずに力をのせる。ルトの癒しを感じたのか、若獅子の荒い息づかいが少しずつ和らいだと思う。ルトは夢中になって癒しをこめて、若獅子の頭から背を撫でた。
どれくらいたっただろう。不意に、若獅子がゆっくりと目を開いた。暗闇に浮かんで光る黄金の瞳、それは、鋭い意志を持つ皇帝の瞳と同じだった。
『この姿を恐れぬか』
その声はルトの頭の中に直接鳴り響いた。脳天を撃ち抜かれたようにルトの肩が跳ね上がり、撫でていた手を離す。黄金の瞳が細まりルトを見据えた。
目と鼻の先だ。至近距離で対峙する金色の獣に囚われて、心の隅々まで覗かれる感覚に陥る。闇色に閉ざされた真っ黒い世界に、天空から遣わされた黄金の使者が、初めてルトそのものを見定めようとしている。そんな気がした。
ルトの喉元が、こくんと緊迫の音を立てた。
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