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第二十話 精霊の血※
しおりを挟む皇帝の言葉に偽りはなし。反抗的なルトを懲らしめる意図が大いにあるのだろうが、一度目から二度三度とお召しがあった。人間嫌いの皇帝が同じ腹を召すと、ひそやかに王宮で囁かれだしたらしい。
秘めた噂が後押しし、ルトの相手は日に日に増える。休まる時間はめっきり減り、夜になれば皇帝の凌辱が訪れる。そのせいで、睡眠と休息があまりとれなくなった。気力と体力が奪われていく。
「――ト、おい、ルト」
どこかでベッドが軋む音がする。現実をさまよったルトの意識は、低い静かな声に引きあげられた。数秒間……いや、数分間だろうか。わからない。記憶が飛んでいる。今は、たしか、ラシャドの相手をしていた。
分厚い手に頬を軽くなぞられ、ルトは知らない間に落ちた、重い瞼を上げた。
「あ……」
「目ぇ覚めたか」
互いの肉体が重なり合う体勢で、真上から覗かれる。怜悧な眉根を寄せる漆黒の瞳を見返して、茫洋と頷いた。ここは外か、孕み腹の部屋だったか。少し前の記憶さえあやふやだ。だが裸の背にあたる感触は柔らかい。そうだ、ルトを硬い地面で犯したのはラシャドの前の獣人だった。
その後すぐ呼ばれたのだ。ラシャドは大事なものを扱う仕草でゆっくりと事に及んだ。前の獣人たちが乱暴だったこともあり、安堵から気が緩んでしまった。行為中に、気を失くしてしまうなんて。暴力的な獣人だったら懲罰を与えられる。
「ご、ごめんなさい」
「……いや、いい。怒らねぇよ」
強張った頬に触れる分厚い手が、ルトの前髪の生え際に移る。反射的にすくんだ裸体にラシャドの太い腕が伸びた。熱を持った手のひらで、慰めるように白い肌を撫でられる。端正な顔が迫り、軽く唇を吸われた。
「んっ」
「逃げんな」
喉の奥に逃げる舌をつつかれて、促されるまま差し出す。遠慮気味に出した赤い舌先を、かぷりと甘噛みされた。こそばゆい痛みを今度はなだめられ、柔らかく絡みとられる。互いの息がとろけ、生ぬるい唾液がルトの喉奥にあふれた。
「ふ…っ、ん……っ」
他人の唾液を飲みこむのは未だに下手だ。そもそも、ルトは口づけ自体が不慣れだ。無理やり男根を咥えさせる獣人は大勢いても、こんなふうに、優しく唇をついばむ獣人はいなかった。
好きにルトを貪られたら、上手く飲めない唾液が口腔に溜まる。ラシャドの肉厚な舌を噛まないよう、喉と舌を動かしてどうにか嚥下した。
耳の奥で水音が広がれば、口の中から溢れた唾液が丸い頬を伝う。二人分の体液を上手に飲んだ褒美と言いたげに、空っぽになった小さな口腔を優しい舌がやんわりと撫でた。
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