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しおりを挟む覚悟はいいか。鞘に納めた自分の剣を見せつけるように、両腕を前方に伸ばす。刀剣と鞘をそれぞれ握り締め、そのまま大きく両腕を広げ一瞬の速さで剣を抜いた。
鞘と抜き身の剣を片方ずつ持ち、仕留める相手を見据えている。対する六人の獣人は、息を詰めて身動きすらできないでいた。ラシャドの口角が薄く上がる。見るからに酷薄な笑みだった。
「なんだ? 仮にも皇族の姻戚に選ばれるくらいだ、それなりの名家だろう。剣術くらいは習ってんだろうが。剣を拾え」
「……っ」
それなりの武芸を習っているからこそ、相手の格がわかるというもの。ラシャドの気迫は数メートル離れていても感じるだろう。睨み合いが続くなか、先に動いたのはラシャドだった。
「素手でやんのか? 時間切れだ」
喉奥で低く笑う。次の瞬間ラシャドが素早く地を蹴った。小石が落ちる砂利のなか、氷の上を滑るように瞬く間に移動する。あっという間に目の前まで迫るラシャドに、六人は慌てて剣を掴んだ。だがラシャドのほうが早い。相手が構えを見せる前に、剥き出しの剣が空を切った。
鞘に収まったままの剣で、双子の片割れがラシャドの鋭い剣を弾く。たった一撃だ。それが痺れるほど重たい。弾いた剣はびりびりと振動し、蛇の片割れが体勢を崩した。
「ぐ……っ」
力で吹き飛んだ身体を仲間が支える。双子の取り巻きが、血相を変えて声を張った。
「てめぇ! おい全員で囲めッ。所詮ひとりだけだろ!」
その一声で活気づいた六人がラシャドを中心に散らばる。鞘から抜いた剥き出しの剣を手に、円を描いて一斉に襲いかかった。
「――せぁッ!」
気合いとともに振り上げてきた抜き身の剣を横目にし、体勢を変えたラシャドが難なくかわす。動いた先で真横から切り付けてきた切っ先を、右手の刀身を振り上げて止めた。互いの刃が交錯する。力のある鋭い刃先に刀身を滑らせれば、今にも発火しそうな火花が散った。
同時に反対から仕留めてきた剣先は、左手で握る剣の鞘で押し止める。そのまま手首と指先を使い、器用に鞘を回転させて相手の武器を絡め取った。軽快に空中へ飛ばした武器は、背後から襲ってくる獣人に向かう。ラシャドの広い背中で、鈍い音が響いた。
「ぎゃっ」
「揃いも揃って弱すぎか。もっと粘れ」
軽々と攻撃をかわしながら、片足を軸にして向きを変える。背後から襲おうとしていた獣人は、素早く飛んだ剣先を避けきれず負傷していた。血を流す横腹を押さえ、うずくまっている。だがラシャドは一瞬の隙も与えない。すぐさま次の狙いをつけて間合いを詰めた。
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