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しおりを挟む「……様はいらない。ラシャドって言え」
言いながら、ラシャドは再びルトを見直す。真剣になった漆黒の瞳を見返して、言われるままルトはもう一度言い直した。
「ら、ラシャド……」
瞬間、強烈な力で二の腕を掴まれ引っ張られた。ルトの貧相な身体が勢いよく傾き、厚い胸に抱きしめられる。急な行動に目をつむれば噛みつくような口づけをされた。たった今ルトしたような、ままごとみたいなキスではなく。深く激しい、情熱ともいえる口づけだった。
「んっ、ぅ、んン…っ…」
溢れる吐息を絡めとられ、柔らかな口腔に舌先をねじこまれる。震えた舌を撫でられて、角度を変えて貪られた。口蓋の粘膜も、頬の内側も、舌の裏も歯列までくすぐられる。溜まった唾液をすすられ、ルトが息苦しさにもがけばようやく重なる唇が離れた。
荒い息をつく、ルトの口角からこぼれた雫をラシャドの舌先が追っていく。薄い皮膚を伝う熱い感触に、ぞわりとルトの身体が震えた。
「ぁ……」
「――お前がチビの傍にいられるように、魔術師に話をつけといてやる」
後頭部をぐっと包まれて耳元で囁かれる。名残惜しいとばかり、ルトの丸い頬にも口づけをおとされた。ラシャドは寝台から抜け出すと、再びルトをベッドに横たえて、寝室に続く浴室へ姿を消した。
エミルが出産する。弾ける水音を聞きながらルトはざわつく胸中を握りしめた。しかしエミル以外にも、心を揺さぶられる再会が待っていたのだと、このときのルトは思いもしなかった。
おそらくラシャドでさえ……いや、ただのひとりでさえ予測できなかっただろう。音もなく、ゆるやかに、それぞれの運命の歯車が、大きく回りはじめていたことに。
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