110 / 367
10-(8)
しおりを挟む「花の世話ができるのか? 朱華殿で、水をやっていた」
もしかして、昨日エミルと過ごした様子も見られていたのだろうか。ごく自然に尋ねられた内容にルトは動揺を隠せなかった。ほんの少し目線を下げて、戸惑いがちに頷く。
「花は好き。きれいだから」
「人間が、花を綺麗だと思うのか」
「は?」
素直に口にすれば、思ってもみない斜め上の返答が返された。なんだそれは。この獣人はさっきから、いったい何が言いたいのだ。
話が全くかみ合わなくて唖然とする。それとも獣人は人間に感性がないと、本気で思っているのだろうか。いろんな感情がごちゃ混ぜになって、ルトは反発心を露わにさせた。
獣人と向き合っているとは思えないほどの、穏やかな雰囲気に流されていたのかもしれない。
自分の意思をしっかり持つルトは、慎ましいけれど言動力がある。的外れな獣人の言葉に、思わず当たり前だと腹立たしく告げた。
「あたりまえでしょう、感情があるんだから」
綺麗なものに気をなごませて、優しいものに慰められる。五感をとおして美しいと感じ、哀しいと感じ、愛おしいと感じる。それは心があるからだ。身体のなかで心臓が跳ねる、痛む、鼓動する。それは生きる命の動き。玩具などではありはしない。
「ここの花だって、陽の光の下で、背を伸ばして生きてる。それは、きれいと言わないのですか。あなたは、きれいだと感じないのですか」
はっきり言いきれば、獣人は蜂蜜色の瞳を見開いて、ルトをじっと見つめてきた。そしてまた思案気な表情をする。ルトが初めて目にする穏やかな獣人は、ゆっくりと口を開いた。
「……そうだな、確かに、そうだ。綺麗なものだ」
何かを納得させながらルトの言葉を砕いていく。長い両腕を深く組み、指先を落ち着きなく何度も叩いた。身は動かさないが、体躯の後ろで見え隠れする細い尻尾がそわそわと揺れ動く。逡巡する琥珀の豹は、整った眉間にしわを寄せた。
「正直に言おう。俺は人間には、慈悲の心などないと思っていた。その身に邪悪なものを抱きこそすれ、君みたいに、何かに心を砕くことはしないものと」
「なにを言ってる……。信じられない。あなたは……あなたたち獣人は、いったい人間を、何だと思っているのですか。本当に、ただの、人形だとでも?」
心のない遊び道具と思っているからそんなことが言えるのか。あまりに無情な発言だった。
本当に心がないならこんなに苦しんだりしていない。むしろ心があるから苦しいのに。それが獣人にはわからないのか。
10
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
白い化け物は彼を愛せない
COCOmi
BL
外見異端児(アルビノ)x次男←長男・三男。
白髪赤瞳の貧乏人だった来は突然妾の子と判明し、街で有名な大地主の家に迎え入れられる。
三兄弟がすでにおり優しい次男に少しつつ惹かれるも、ある事件をきっかけに地下へ長い間閉じ込められてしまう。来の次男への想いは次第に憎しみと変化していき…。
次男を巡った深い執着と愛。その行く末は。
※攻めが暴力を振るわれたり監禁される場面があります。ただし性的な要素はありません。
※攻め視点で基本話が進みます。暗い展開が多いです。
完結はしていませんが、来の屋敷編までの掲載となります。続きはもしかしたら更新されるかもしれません。
【1章完結】経験値貸与はじめました!〜但し利息はトイチです。追放された元PTメンバーにも貸しており取り立てはもちろん容赦しません〜
コレゼン
ファンタジー
冒険者のレオンはダンジョンで突然、所属パーティーからの追放を宣告される。
レオンは経験値貸与というユニークスキルを保持しており、パーティーのメンバーたちにレオンはそれぞれ1000万もの経験値を貸与している。
そういった状況での突然の踏み倒し追放宣言だった。
それにレオンはパーティーメンバーに経験値を多く貸与している為、自身は20レベルしかない。
適正レベル60台のダンジョンで追放されては生きては帰れないという状況だ。
パーティーメンバーたち全員がそれを承知の追放であった。
追放後にパーティーメンバーたちが去った後――
「…………まさか、ここまでクズだとはな」
レオンは保留して溜めておいた経験値500万を自分に割り当てると、一気に71までレベルが上がる。
この経験値貸与というスキルを使えば、利息で経験値を自動で得られる。
それにこの経験値、貸与だけでなく譲渡することも可能だった。
利息で稼いだ経験値を譲渡することによって金銭を得ることも可能だろう。
また経験値を譲渡することによってゆくゆくは自分だけの選抜した最強の冒険者パーティーを結成することも可能だ。
そしてこの経験値貸与というスキル。
貸したものは経験値や利息も含めて、強制執行というサブスキルで強制的に返済させられる。
これは経験値貸与というスキルを授かった男が、借りた経験値やお金を踏み倒そうとするものたちに強制執行ざまぁをし、冒険者メンバーを選抜して育成しながら最強最富へと成り上がっていく英雄冒険譚。
※こちら小説家になろうとカクヨムにも投稿しております
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
転移先は薬師が少ない世界でした
饕餮
ファンタジー
★この作品は書籍化及びコミカライズしています。
神様のせいでこの世界に落ちてきてしまった私は、いろいろと話し合ったりしてこの世界に馴染むような格好と知識を授かり、危ないからと神様が目的地の手前まで送ってくれた。
職業は【薬師】。私がハーブなどの知識が多少あったことと、その世界と地球の名前が一緒だったこと、もともと数が少ないことから、職業は【薬師】にしてくれたらしい。
神様にもらったものを握り締め、ドキドキしながらも国境を無事に越え、街でひと悶着あったから買い物だけしてその街を出た。
街道を歩いている途中で、魔神族が治める国の王都に帰るという魔神族の騎士と出会い、それが縁で、王都に住むようになる。
薬を作ったり、ダンジョンに潜ったり、トラブルに巻き込まれたり、冒険者と仲良くなったりしながら、秘密があってそれを話せないヒロインと、ヒロインに一目惚れした騎士の恋愛話がたまーに入る、転移(転生)したヒロインのお話。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
その火遊び危険につき~ガチで惚れたら火傷した模様~
ちろる
BL
ホストクラブ『ネロック』で働く明空宇大(みよく うた)は
新入りで入ってきた愛くるしい美青年黒崎真夜(くろさき まや)に
わずか三ヶ月でナンバーツーの座を奪われた。
ゲイのビッチだともっぱらの噂の真夜は
宇大が好きだと迫ってくるけれど相手にしていなかったが
真夜には抱えている背景があって――。
ノンケ先輩ホスト×ビッチ(性依存)後輩ホスト。
表紙画は鈴春°様の『フリー素材』
https://estar.jp/novels/25619154
より、拝借させて頂いています。
とばりの向こう
宇野 肇
BL
あの方の心が閉ざした瞬間を覚えている。
敬愛と恋情との区別も曖昧な時分のことだ。
「結婚しようとも貴方ほど愛せる人はいまいよ」
冗談めいていながらもまごうかたなき本心だった。それを、あの方の想い人は笑い飛ばしたのだ。
「そういうことは好いた女に言うのだな。男同士で寒気がするわ」
その言葉は、彼の人なりの冗談であったのだろう。表情は柔らかく、しかしどこか呆れたような色を滲ませていた。
気にすることなどない一幕のはずであった。ただの言葉遊びに過ぎぬ、他愛のない遣り取りのはずであ
った。
しかしながらその頃すでに己の性癖――同じ男に性の欲求を抱くということを感じ始めていたあの方にとって、彼の人の言葉は強い拒絶となり、あの方を酷く萎縮させた。あるいは、彼の人は彼の人の想いを感じ取られていあのかもしれない。今となってはもう、確かめようのない話ではあるが。
そのようにして、あの方はそっと心を閉ざされた。誰にも気づかれぬように、美しく気高いヴェールで幾重にも覆い隠してしまわれた。
表面上は何も変わらないまま、誰にも見せぬ心があることさえも気づかれることの無いよう、厳重に、そして自然に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる