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幕開け 始まりの呪い
しおりを挟む獣人たちが慈しむ山が燃えている。いつもは聞こえてくるはずの、鳥のさえずりや風の爽やかな匂い、心地よい水の流れ。心休まる居場所は確かに存在していたはずなのに、すべてが幻想へと変わってゆく。美しい何もかもが無に帰る。
目の前でゴォゴォと盛る炎はただの山火事では収まらない。もはや、炎の海だった。はじける熱気は遠い地上まで泳いでいくよう。
獣人と人間の対立。それは、獣人が大切にしている自然をことごとく破壊する。
獣人たちの身体能力は人間に勝るものだ。しかし、人間は知恵と器用さによって、獣人には扱いにくい、殺しの道具を常に手にしていた。その威力は絶大で、ときには獲物以外のものたち……地を這うしかない逃げ惑う動物であったり、咲き誇る花々であったり、そういう罪なき生命までをも奪い尽くす。
「おのれ、おのれ、おのれぇッ! 人間め、許さんぞ、許すものか! 必ず人間を滅ぼしてやる。余の御代で叶わぬとも、余の子孫が、必ずや人間を滅ぼしてくれる!」
凄まじい爆弾を投下され、無差別にあらゆる生命を消滅させる。どちらが獣か。獣人には気性の荒いものもいるが、より強いものへ挑戦すれども無駄な殺生を好まない。己の領分を理解し、よそのテリトリーを侵さない。
自分たちの種族しか尊ばず、身に余る力を欲し、他の種を虐げて支配下に置こうとする。支配が不可能と察すれば、道具に頼り意に添わぬものを滅ぼそうとする。人間のほうが獣だ、いいや、獣以下だ。この屈辱を魂に刻め。決して、忘れるな。この恨み、未来永劫続くだろう。
獣人王の叫びは、燃え盛る炎を吹き飛ばそうとするほどの、呪いとなった。
***
勝利の雄叫びを上げたのは獣人だった。始祖の呪いは確実に子へと受け継がれ、二百年以上の時を経てついに戦いは幕を下ろした。
「我らが勝利だ! ついに、ついに勝ったぞ! おおおおおっ」
数千人はいるだろうか。焼け野原となった、広い大地を埋め尽くすほどの獣人たちが、勝利の大合唱を鳴らした。野太い叫びは地に向かえば岩を割るほど、天に向かえば雲を薙ぎ払うほどの凱歌となる。ともに戦い抜いた相棒ともいえる、それぞれの武器を手にして、空高くかかげていた。
「我らが獣人王、万歳、万歳、万々歳!」
終止符を宣言したのは呪いの始祖の子孫だった。人間だけが住む国は、完膚なきまでに叩きのめされ、そうして獣人国の隷従国となり果てた。
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