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第三章 ウスト遺跡編

第四十八話 ダイヤの夢

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 ラルドの夢の世界。今日も今日とて暗黒に包まれた遺跡に出た。

(うーん……夢の世界か。ということは)
「ようラルド。無事合流出来たな」
(ダイヤ、早速お前の夢の中に連れていってくれ)
「ついてこい。こっちだ」

 ラルドはダイヤの後ろを歩く。暗闇で何も見えないが、恐らく道順があるのだろう、ぐにゃぐにゃと曲がりながら進む。そのうち、光が射してきた。

(あれが君の夢の世界か?)
「そうだ。まあ、お日様が照る花畑だ。変な生き物がたくさんいるが、害はないからほったらかしだ」
(悪いけどその世界をぐちゃぐちゃに歪めることになる)
「そりゃそうだよな。俺の過去の忘れてしまった記憶を掘り出しにきたんだもんな」

 やがて光の場所までたどり着き、ダイヤは裂け目をこじ開けた。そこはダイヤの言う通り、花畑だった。蝶がたくさん飛んでいて、光の影響で暖かい。

「さて、どうやって俺の夢を古代文明の世界にするんだ?」
(任せろ。そうぞうしんに観せてもらったあの映像を思い浮かべて、君の夢を書き換える)

 ラルドは創造神に観せてもらった映像をそのまま思い浮かべた。すると、地割れが発生し、その隙間に二人は落ちていった。ある程度落ちると、上空に出た。ウスト王国の真上のようだ。

「あああ、懐かしい……栄光のウスト王国!」
(さて、降りるか。ダイヤ、泳いでついてきてくれ)
「泳がなきゃダメなのか?」
(夢の世界だからな。落ちるときは落ちるけど、落ちないときは泳がなきゃ下がれない)
「お前の夢は普通に落ちたがなぁ」

 二人は地上目指して泳ぎ始めた。徐々にウスト王国から聞こえる賑やかな声が大きくなる。そこには戦争をしているとは思えない平和な空間が広がっていた。

「ほら、やっぱり戦争なぞしてないだろ? 創造神に観せてもらった映像なんて嘘っぱちなんだよ」
(本当にそうかな。ダイヤみたいな殺しを目的とした奴らがそこら中にいるが)
「あれは庭園ロボットだ。俺たちはもともと広大な花畑を管理する機械だったんだよ。いつの間にか、いつ争いが起きても良いようにと武器をつけられたがな。少なくともこの文明が滅ぶまでには一度も使っていない」
(そうか。じゃあまずはサウス王国へ続く道に行くか。そうすれば、否が応でも戦争していたことがわかる)
「夢ってそこまで出来るのか? 俺は戦争なんて一度も見てないぞ」
(きっと出来る。時間はたっぷりあるから、まずはそこへ行こう)
「俺、ウスト王国から出ていっちまって大丈夫なのかな……」
(既に出ているじゃないか。今から出ても何も起こらないよ)
「しかし、戦争か……なぜそんなことをするのか、本当だったら王に訊かねばならないな。それよりもやることはたくさんあるが」
(まあまあ、無理に今日だけで全てを済まさなくても良いじゃないか。とりあえず、戦場に行こう)

 二人はウストに着地し、歩くことが出来るようになった。その足でサウス方面の道へ進み始めた。二人とも周りを見渡す。ラルドは古代文明の現代を超えた物の数々、ダイヤはその懐かしさに感動を覚えている。

(凄いな……あの金属の塊なんか、人を乗せて動いてるぞ)
「あれは車というやつだな。竜よりも乗り心地が良いぞ」
(くるま……? なんだかよくわからんな)
「乗せてやろうか? へい、タクシー!」

 ダイヤは止まっていたタクシーに対し手を振った。タクシーが近づいてくる。二人の前で止まり、後ろの扉を開けた。

「さあ、乗れ乗れ。金は……夢の中だからどうにでもなるだろう」
(え? 乗るのに金が必要なのか?)
「そこは、お前の力でなんとか払わなくて良いように改変してくれ。夢の中ならなんでも出来るんだろ?」
(ま、まあ一応……)

 二人が喋っていると、運転手が声をかけてきた。

「お客さん、どこまで行きますか?」
「サウスに続く道まで連れていってくれ」
「あの付近は危険です。かなり手前で降ろすことになりますが、よろしいですか?」
「全然大丈夫だ」
「じゃあ行きますよ」

 タクシーはサウスへの道に向かって走り始めた。道中、ダイヤは運転手との会話を弾ませる。

「それでですね、そのお客さんがですね、金の代わりに伝説の剣とかいうのを渡してくるんですよ。今どきそんなファンタジーな物、この国では無価値ですよね」
「ハハハ! 見ろよ、俺のツレの顔。話についていけてないみたいだ」
「そういえば、その方は中々ファンタジーな服装してますね。流行には疎いですが、若者の間でそういうのが流行ってるんですかね」
(なんだか居辛い……)
「俺は懐かしくてしょうがない。お前より俺の方が楽しんじまってるな」
「さあお客さん、そろそろ止まりますよ。ここから歩けば戦場には着くので、気をつけてくださいね」
「オッケー。さあラルド、金を払わないで良いようにしてくれ」
(あ、うん、わかった)

 ラルドは金を払わなくても良いように念じた。やがてタクシーは止まり、本来金を要求される場面になった。しかし、運転手は金のことについて何も言わずに後ろの扉を開けた。

「ご利用ありがとうございました。どうぞお降りください」
「ありがとうな、運んでくれて」

 タクシーは振り返り、定位置に戻っていった。
 タクシーから降りた二人は、歩いて戦場を目指した。人気がなく、なんとなく不気味な雰囲気を醸し出している。

「ここら辺が防衛ラインか。家にもビルにも誰もいない。こんな寂しい場所がウストにあるとは……」
(すっかり戦争が起きてることを認めるようになったな)
「まあ、現地の人間が言うのだから間違っていないのだろう。温室育ちの俺が行ってケガでもしなきゃ良いが」
(夢の中だから多少の攻撃は効かないだろう)
「なら良いか。俺に元々痛覚はないが」
(つうかく……?)
「いちいちわからない言葉が出たときにオウム返しするのやめてくれ」
(ご、ごめん)

 戦場に徐々に近づく二人。やがて何か物音が聞こえ始めた。ラルドにとって聞き慣れた呪文の音と、ダイヤの聞き慣れた銃声が同時に聞こえる。

「ようやく賑やかになってきたな。さあ、この音が本物かどうか確かめに行こう」

 ダイヤは駆けだした。その後をラルドは追う。しばらく走ると、塹壕に隠れて光線銃を放っている者たちが見えてきた。その者たちはすぐに二人の方に顔を向け、ジェスチャーでしゃがむことを指示した。二人は急いでしゃがみ、間一髪というところで風の刃の呪文をかわした。

「君たち、なんでここに来たんだ! 死にたくなければ、早く離れなさい!」
(夢の中だから死ぬことはないんだけどな。ともかく、これで戦争は本当にあったってことは伝わっただろうから、離れよう)
「しかし、戦争になったのに俺たちは徴兵されなかった。不思議だ……戦闘力は人間よりもはるかに高かったはずなのに」
(僕たちに負けといてそれが言えるか?)
「あれは竜の力じゃないか。竜がいなかったら負けてたぞ」
(まあ、それはそうだ。さあ、とりあえず王様のところへ向かおうか。きっとなぜ戦争をしているのか教えてくれるはずだ)
「また適当なところでタクシー捕まえて行くか。城の警備も歪められるのか?」
(さっきも歪められたし、出来るはず。たくしいに乗せてくれ)

 二人はある程度歩いて、賑やかな中央部に少し近づいた。さっきまでの静寂とは一転、人の声が何個も聞こえる場所だ。ダイヤは止まっているタクシーの扉をノックし、後ろ扉を開けてもらった。二人はタクシーに乗り込んだ。

「あんた、人格入りの機械じゃないか。花畑の手入れが面倒でサボったのか?」
「寝坊だ。アラームが機能しなかった。向こうに着いたら直してもらわなくちゃな」
「向こうって、どこですか?」
「城だ。そこまで連れてってくれ」
「わかりました」

 二人を乗せたタクシーは目的地に向けて走り始めた。走行中、ダイヤはひらめいた。

「なぁ運転手さん。なんでウストはサウスと戦争をしてるんだ? それが気になってしょうがない」

 王に訊くつもりだった質問を、ダイヤは運転手にした。時短のためだろう。しかし、望んだ答えは返ってこなかった。

「なぜでしょうなぁ。王は戦争の正しさのことばかり話して、戦争の原因に全く触れようとしない。いい加減終われば良いのにって思っちゃう」
「やはり王に直接訊くしかないか。ラルド、まだ目は覚めそうにないか?」
(多分大丈夫。あと……三時間くらい)
「運転手さん、城までどのくらいかかる?」
「まあ、二十分もあれば着くよ。そんなに慌てないで」

 二十分後、タクシーは城の前に到着した。タクシーから降りた二人は、城門に向かって歩き始めた。
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