上 下
12 / 19
第2章 地獄編 第1階層 鬼神島〜運命の糸編 まで

第9話 ジェルバの強さ

しおりを挟む
ジェルバの強さ
勝った! なんとか勝てた! 俺は地面に着地するとそのまま寝込んでしまった。
あまりの疲労に体が動かない……
「春樹さん、大丈夫ですか?! 私のせいで……,ほんとに、ほんとに、ごめんない」
「いや、春子さんはわるくないよ。俺は春子さんのおかげでこの鬼を倒せたんだ……。謝るのは俺の方だよ……。でも今はムスカくんを助けないと。
俺にあの回復術をかけてくれないか?」
「ダメですよ! このまま動いたらほんとに死んでしまいますよ? いくら回復術をかけたからといってそれはただの応急処置ですよ。今の春樹さんのお体はもう死んでもおかしくない状況なんです!!」
「頼む……。それでもいいから!!!」
私はその真剣な眼差しを向けられ、彼の頼みを否定することができなかった。



一方ジェルバサイド。
春樹さん達は今どうしているのだろうか? 春樹さんが鬼を引き連れたおかげで私は今のところ3体しか鬼に遭遇していないので、容易に倒すことができた。しかも鬼がそれぞれ別行動してくれたおかげで助かった。
とにかく早くムスカを見つけないと。
「ねぇねぇ。そこのおじさん」
はっ! 私の道の前に現れたのは上半身裸の金髪の美少年だった。
「お前は何者だ? 鬼か?」
私は戦闘態勢に入る。
「ちょっと待ってよ。僕は別に君の敵ではないよ。なんなら君の息子さんのところへ案内しようか?」その美少年は微笑みながら言った。
「本当か? ぜひ案内して欲しい!!」
「うん。じゃあ行こうか」
私はその少年に連れられて島の中央にある大きな洞窟までやってきた。
「あ、お父さん!」
洞窟の奥にはムスカがいた。
「ムスカ!!! はぁ、心配したぞ!!」
「ごめんなさい、お父さん。僕、鬼に村の人達やお父さんが傷つけられるのが我慢できなくて!! それでやるせなくて道を歩いていたら、鬼に連れて行かれたんだ!!」
「そうか、そうか。ほんとうに生きててよかった。実は春樹くんと春子さんも一緒に助けにきてくれたんだ」
「あの2人が? 僕、強がってあの人達に酷いこと言っちゃった。後で絶対に謝るよ」
「うん! えらいぞ! それじゃ、帰るぞ!」
 よしこれでムスカは発見した。あとは春樹くん達と合流して本土に帰るだけだ。

「いやーよかったですね。息子さんが生きていて。でも、このままあなた方を返す訳にはいかないんですよねー」
金髪の少年がそう言った。
「どういうことだ? お前やっぱり鬼だな?」
「え? 鬼? んー 少し違うかな?
 ただの鬼ではないのですよ。 "鬼の王"って言ったらわかりやすいかなー?」
そう言った瞬間、突然周りの空気が、重くなり始めた。まずい、まずい、やばい気がする。この鬼は他と違う……。春樹くん達がいないと…………。
「父さん、こいつが俺を捕まえたんだ。
こいつは敵だよ! 倒さないと」
「わかった。私が囮になる。早く逃げるんだ」
「でも……」
「いいから!! 早く逃げるんだ!!! 後で追いつくから…………」
「わかったよ、父さん…………」
ムスカはその脚力で瞬く間に洞窟を出た。
あとはムスカが春樹くん達と合流して逃げてくれれば…………。
「あ、逃げられちゃいました。さすが狐さんの息子さんだ! お早いですねー」
「私は君が何者かよくわからないが、悪いがここで死んでもらう! 息子には指一本触れさせない!!!」
「ほう? 愛の力ですか? お美しい」
私は春樹くんほど強くないが、速さだけなら自信はある。
「縮地(しゅくち)! そして……
狐妖煌術 死滅鉤爪!!
(きつねようこうじゅつ) (しめつかぎづめ)」
縮地は足とつま先の筋肉を限りなく膨張させ、高速で移動する術。そして、その状態で爪を刃の如く研ぎ澄ませる死滅鉤爪。この二つの術が合わされば、私は高速で相手の体を切り裂くことができる 
「何? 速すぎる! こんなの避けきれない!!」少年は驚いた口調で言った。
 シャキーン/
 私は作戦通り、相手の間合いに一瞬で近づきその上半身を真っ二つに切り裂いた。
 勝負あり! 勝った!
私はすぐに術を解いて、洞窟を出たのだった……。
しおりを挟む

処理中です...