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レモンキャンディーと、あいつ。
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高校二年に上がる前の春休み。早いもので、春休みはもう残り一週間になった。今日はちょうど折り返し地点だ。宿題全然やってねぇけど、ま、大丈夫だろう。河南と一緒に柿本ん家押し掛ければ大抵何とかなる。
朝、中学時代の友人、柳から電話がかかってて、妹のおつかいの同伴を頼まれた。春から小学四年生になる柳の妹、なっちゃんのことを、中学ん時はしょっちゅう面倒見てたので、二つ返事で了解した。
「柳、なっちゃんのことは任せろ!」
「あ、加藤、実はさ、これ、夏海から頼まれっ」
ブツッ、
なんか途中で切れたけど、今日の俺の任務は、公園で遊ぶなっちゃんを迎えに行き、スーパーでカレールウを買って、友人の家に送り届けることだ。カレールウだけなのかよ。なっちゃんと会うの、二年ぶりだな!背伸びたかな?
*
「かとう!!!」
「よ!なっちゃん!わー、めっちゃ可愛い。似合ってんぞ!ワンピース!」
「あ、ありが、とう。」
肩あたりまで伸びた焦茶色の髪を二つにくくったなっちゃんは、青いリボンのついた白い帽子を被っていた。水色のワンピースがよく似合う。お洒落さんだな。まじで可愛いなこいつ。つい顔がほころんだ。前会った時とあんまり身長が変わっていない。まだまだちっこいな。
*
「なっちゃん、肩車するか?」
「も、もう子どもじゃない、から!」
「あー、そっかそっか。ごめんな。」
「その、手は、繋ぎたい!」
「もちろん。」
スーパーからの帰り道、なっちゃんの希望で少し遠回りして河川敷を歩く。昼下がりに川沿いを歩くのはとても心地いい。のんびり歩いていると、強い風が吹いて、なっちゃんの帽子が飛ばされてしまった。うわ!まじか!
「っ!」
俺はすぐに駆け出して、川に入って無事に帽子を手に入れた。帽子が濡れる前にキャッチできて良かった。ここの川はギリギリ足首ぐらいの高さで、水も綺麗なので、夏はよく水遊びしていた。久しぶりだな。
「かとう!!ごめん、なさい!」
「大丈夫!よし、やっぱ似合うな!!」
泣きそうな顔をして追いついてきたなっちゃんに帽子をかぶせると、嬉しそうに笑った。ふと、名案を思いついた。濡れた靴と靴下を脱いで乾かし、なっちゃんに明るく声をかける。
「なっちゃん、川入るか!?気持ちいいし。」
「え!」
「タオルあるし、大丈夫!柳には内緒な?」
「うん!!!」
なっちゃんが目を輝かせた。二人で川の水を軽く蹴ると、水が揺らめいてキラキラと輝く。足が冷たくて気持ちいい。あー、めっちゃ楽しい。最高だわ。
「かとう!あ、あのね、」
「どうした?」
なっちゃんが俺の服を掴んできたので、笑顔でなっちゃんを見つめて、首をかしげる。
「加藤!?」
ふと、聞き覚えのある声がして振り向くと、目を見開いた大野が立っていた。あ、そっか、こいつも徒歩通学だったわ。この辺りにいても変ではねぇか。なんでパーカーにジーパンでオシャレに見えるんだよお前は。俺とほぼ同じような服のはずなのに。
「お、大野!うわっ!?ちょっ!何!?」
いきなり大野が靴を脱ぎ捨て鞄を投げ捨て走ってきて、俺の頬を両手で包む。そのままペタペタと顔を触られて、ただただ困惑した。どうしたんだ、こいつ。そんなに近づかれると心臓に悪い。
「・・・本物だ。」
「あははははっ、、なんで偽物なんだよ!馬鹿か。」
やけに神妙な顔で言われて、思わず笑ってしまった。たまに天然だよな、こいつ。
「ひゃっ!!」
笑っていると、大野に耳を甘噛みされて、変な声が出た。お前はなんでいっつもそういうことしてくんの?てか馬鹿だろ!!ちっちゃい子の前で!!!大野に詰め寄って小声で注意する。
「おいこらお前ふざけんなよ!」
「あはははっ、ごめん。」
大野があんまり嬉しそうに笑うので、文句が言えなくなる。ずっと俺の後ろに隠れていたなっちゃんがひょこっと顔を出した。
「かとう、このお兄ちゃん、だれ?」
「あー、ごめんな、なっちゃん。大野だよ。俺と高校一緒の奴!!」
なっちゃんの肩を優しく抱いて大野の前に立たせる。
「や!柳夏海、です!」
「ふふっ、はじめまして。大野駿です。」
大野がしゃがみこんで、優しくなっちゃんの頬を撫でた。途端、なっちゃんの顔が林檎みたいに赤くなる。いやお前、何で頬なんだよ。普通頭だろ。
「お、王子さま、みたい。」
「ふふっ、そんなことないと思うけどな?なっちゃんは、お姫様みたいに可愛いね?」
「っ!!」
大野は小首をかしげて甘く微笑んだ。うっわなんつーセリフ吐いてんのお前。どこのイケメンアイドルだよ。こっちまで恥ずかしくなってきたわ。なんとなく顔を反らすと、大野がふっと立ち上がった。
「あれ?加藤、顔、赤いよ?」
「な”っ!?」
頬を両手で優しく包まれて、額と額がぶつかる。鼻先が触れそうな距離に、勝手に体温が上昇した。大野と至近距離で目が合って、甘く微笑まれて、何度も瞬きを繰り返す。こいつ、熱はかってんの?長くね?
「か、かとう、風邪引いたの!?」
「なっちゃん、大丈夫だよ。」
心配そうにこちらを見上げるなっちゃんに爽やかに微笑んで、大野はスッと俺の耳元に口を寄せた。
「俺のせい、みたいだから。」
「っ!?」
甘い囁きにビクリと肩が震える。は!?違うから!お前のせいじゃねぇよ馬鹿!!
あ、いや、お前のセリフが恥ずかしいから赤くなったから、お前のせいだわ。もう何も言えなくなって、とりあえず大野を睨むが、爽やかな微笑みで一蹴された。
「な!なっちゃん!!そろそろ帰るぞ!!」
「えー、もう?・・・・・・っ!?」
「おい大野!?」
大野がなっちゃんをお姫様抱っこで岸まで運んだ。うっわ。とっさに出る仕草がモテるやつのそれだよな、お前は。今日でなっちゃん確実にお前に惚れたぞ。俺が唖然としているうちに、なっちゃんはいつの間にか靴を履いていた。
「加藤?足拭くよ。」
「自分で拭くに決まってんだろ!!!」
俺を馬鹿にすんのも大概にしろよ大野!
「ねえ、かとう?しゅ、しゅんお兄ちゃんは、一緒に行けないの?」
「っ!」
なっちゃんが、俺の服を掴んで訴えかけてくる。うわー、絶対無視できねぇ。てか何で大野はお兄ちゃん呼びなんだよ!おかしいだろ!!
「大野、お前これから用事ある?」
「ん?特にないけど。」
「じゃ、一緒に帰ってくんね?」
「あー、いいけど、」
大野はそこで言葉を切って、耳元に寄ってくる。
「お返し、くれる?」
だから耳元で喋んなって!耳を押さえてため息をついた。もういいや、なっちゃんが喜ぶなら。
「はぁ、あげるから、行くぞ。」
「やった!」
*
なっちゃんを挟んで三人で歩く帰り道は、何だか不思議な感じだった。何気ない話をして、たくさん笑って、素直に楽しいと感じた。繋いだ小さな手が暖かくて心地いい。大野とこうやって歩くなんて想像もしなかったな。何が起こるかわからんもんだな。
ふと、大野がなっちゃんの帽子をふわりと手にとり、こちらに目配せしてきた。
「加藤!」
「はいよ!なっちゃんいくぞ?」
「うん!」
「「せーのっ」」
「あはははっ!わーい!」
「ふふっ、もう一回?」
「もう一回!!!」
二人で同時になっちゃんを引き上げて、何度も高くジャンプさせる。なっちゃんも大野もすっげぇ楽しそうに笑うから、俺まで嬉しくなって、心が暖かくなった。
なっちゃんに優しくしてくれる大野を見て、やっぱいい奴だよなと思った。たまに意味わからんことしてくるけど、こいつのことは嫌いになれない。
*
なっちゃんを無事に送り届けた。柳家の母ちゃんが大野の魅力に当てられててめっちゃおもろかった。あと、柳がすっげぇ複雑な顔してた。
そして俺は、河川敷の高架下に大野と二人で座っている。あー、もう。何でお返し了承したんだよ。また変なことしてからかわれるだろ、俺。
「春休みに入る前に、消えちゃった?」
「なっ!」
急に鎖骨を撫でられて、ぞわりとした。消えたよ!あの赤い痕のせいで余計なことばっか考えてたから、消えてくれて清々したわ。ふと、大野が俺を見つめて楽しそうに笑う。
「またつけないと、な?」
「へ?」
「お返し、くれるんだろ?」
「っ!な、何で、、」
「何でだと思う?」
「はぁ!?意味わかんねぇよ。」
「もっとすごいこと、お願いしてもいいけど?」
大野が妖艶に微笑む。背筋に悪寒が走って、慌てて声を上げる。
「わかった、わかったから!!」
「エロいことされると思った?」
「っ!お前はもう黙れ!つけるならさっさとつけろよ!!」
「ふふっ、はーい。」
大野はいたずらっ子のように笑った。まじで何なのこいつ。意味わかんねぇ。また、練習?
「服、捲り上げて?」
「はいはい。」
「・・・・触ってほしい?」
「は?」
「ふふっ、何処につけてほしい?」
「な”っ!?」
いやまずつけてほしいわけじゃねぇから!俺こいつ嫌いになりそう!
「ここ?・・・ここ?・・・それとも、ここ?」
「うひゃっ、はぁ、ちょ!なんかっ、大野!」
大野が手を這わす動きがやけにくすぐったくて、何処か厭らしく感じて、変な気分になりそうになる。鎖骨や首筋、腰や背中をなぞられて、必死に抵抗する。
「もう、暴れないで。」
「いや、はぁ!?」
「何処がいい?」
「もう何処でもいいから勝手につけろって!!」
「え!?いいの!?」
大野が嬉しそうに目を輝かせる。俺なんかミスった?ヤバい気がする。
「なっ!んっ、ちょ!ん”ん”、」
大野は執拗に何度も同じ場所を吸った。痛いのに体に甘い痺れが走って、たまらない気持ちになる。漏れそうになる上擦った声を、必死に堪えた。鎖骨の下、腰、腹と、おそらく背中に鈍い赤い痕がついた。
「ふふっ、可愛い。」
「んっ、はぁ、ちょっ!ん、やめ!」
大野は、四つの赤い痕に順番にキスをして、舌で舐め上げる。その度に体がぞわりとして、甘い声が漏れた。俺ら、外で何してんだよ。こんなとこ見られたらやばいって。背徳感に何故か胸が高鳴る自分の異質さが、ひどく怖くなった。
「ん。ありがとう。加藤。」
「お、おう。」
大野は何事もなかったように爽やかに微笑む。お前、何でそんなことすんだよ。俺を振り回してどうしたいんだよ。もう全然わかんねぇよ!俺、なんかどんどんおかしくなってくんだけど。
「なっちゃん、可愛かったね?」
「え?は?お、おう。」
なんというか、あまりにもあっけなく場の空気が変わるので、困惑してしまった。
「加藤って、幼女趣味、とかじゃないよな?」
「いや何言ってんだお前!!んなわけねぇだろ!!!」
「あははっ、冗談だって!仲良しだなって思ったんだよ。」
「だあ”もう!!そう、中一で初めて会ったんだっけな。そん時はまだこーんなちっこくてさ!割とすぐ懐いてくれた。可愛いよな。」
「うん。可愛い。」
「だよな!将来絶対べっぴんさんだろ!!!」
なっちゃんのことを褒められると、何故か俺が褒められた気分になる。俺は得意げに胸を張った。
「あははっ、なんか加藤、なっちゃんの保護者みたい。」
「そうか?てかお前、軽率にたぶらかすなよ!絶対なっちゃんお前に惚れたぞ?」
「へ?」
「あ”ー、もう、何でもねぇよ!!!」
「もし俺に惚れたなら、見る目ないよ。」
「いや何処がだよ!お前って自己評価低いんか?」
「え?」
「あー、もう、」
大野はたまに冷たい瞳をする。何処か苦しげな顔をする。自分がそんな表情してるって気づいてねぇの?んな顔すんなよ!いつもみたいに笑えよ!どうしたら笑ってくれんの?俺馬鹿だからわかんねぇよ。
「大野、目閉じて。」
「なーに?キス?」
何でこいつはすぐそういうこと言っておちょくってくんの!?
「いいから黙って口開けろこらぁぁぁ!!」
「・・・・・ん?」
大野の口に棒付きのレモン味の飴ちゃんを突っ込んだ。スーパーで見かけて何となく食べたくなったから、二つ買ったやつだ。一個はなっちゃんにあげたから、こっちは俺の分だけど。
「ふふっ、ありがとう、大野。」
大野が嬉しそうに笑う。そうやって笑ってりゃいいんだよ!お前が笑顔だと、俺もなんか嬉しくなるから。
「お前もあっこの、えっと、古本屋と花屋の前のスーパー行ったことある?」
「え?あー、あそこ?」
「前、俺のポッケにそれ入れたのお前だろ?」
ホワイトデーに大野と別れた後、制服のズボンのポケットの中に同じレモン味の飴ちゃんが入っていた。
「あははっ、バレた?」
「やっぱ大野だったか!それ、コンビニとかじゃ売ってねぇからさ、ちょっと特別感あるよな!」
「あははっ、わかる。あ、そうだ、加藤。」
「どうした?」
大野の指が、背中のある一点にそっと触れる。
「ここに痕、ついてんの。」
「っ!」
「これは俺しか知らない。」
大野がくすっと笑った。もうお前黙れよ!!!
「あ”あ”あ”あ”あ!!!もうお前何なんだよ!!!」
「あははっ、春休み中も俺のこと忘れないでね?」
「うっせぇよ!!!!」
楽しそうに走り去る大野を睨みつける。あー、もう!お前はいい奴なのか嫌な奴なのかどっちなんだよ!!忘れたくても忘れらんねぇわ!!
*
結局、春休みが終わるまでずっと大野のことで悶々としてしまった。しょうがないだろ!服脱ぐ度に、痕が三つも見えるんだよ!!その度にあいつのこと思い出すんだよ。結局これも全部あいつの思い通りかよ。薄くなってきた時に、嬉しいと思う一方でどこか名残惜しいと感じた。何それ、俺、気色悪っ!!!!
わざわざ鏡に映して覗くのが恥ずかしくて、背中の痕がどうなっているかはわからない。俺の背中の赤い痕は、大野しか見たことがない。大野しか知らない。って、それがどうしたんだよ!あー、もう、まじでなんなんだよあいつ。もうからかってくんなよ!!
「うっわっ!冷たっ!?!?」
俺は力任せに蛇口をひねり、頭から思いっきり冷水を浴びてしまった。
朝、中学時代の友人、柳から電話がかかってて、妹のおつかいの同伴を頼まれた。春から小学四年生になる柳の妹、なっちゃんのことを、中学ん時はしょっちゅう面倒見てたので、二つ返事で了解した。
「柳、なっちゃんのことは任せろ!」
「あ、加藤、実はさ、これ、夏海から頼まれっ」
ブツッ、
なんか途中で切れたけど、今日の俺の任務は、公園で遊ぶなっちゃんを迎えに行き、スーパーでカレールウを買って、友人の家に送り届けることだ。カレールウだけなのかよ。なっちゃんと会うの、二年ぶりだな!背伸びたかな?
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「かとう!!!」
「よ!なっちゃん!わー、めっちゃ可愛い。似合ってんぞ!ワンピース!」
「あ、ありが、とう。」
肩あたりまで伸びた焦茶色の髪を二つにくくったなっちゃんは、青いリボンのついた白い帽子を被っていた。水色のワンピースがよく似合う。お洒落さんだな。まじで可愛いなこいつ。つい顔がほころんだ。前会った時とあんまり身長が変わっていない。まだまだちっこいな。
*
「なっちゃん、肩車するか?」
「も、もう子どもじゃない、から!」
「あー、そっかそっか。ごめんな。」
「その、手は、繋ぎたい!」
「もちろん。」
スーパーからの帰り道、なっちゃんの希望で少し遠回りして河川敷を歩く。昼下がりに川沿いを歩くのはとても心地いい。のんびり歩いていると、強い風が吹いて、なっちゃんの帽子が飛ばされてしまった。うわ!まじか!
「っ!」
俺はすぐに駆け出して、川に入って無事に帽子を手に入れた。帽子が濡れる前にキャッチできて良かった。ここの川はギリギリ足首ぐらいの高さで、水も綺麗なので、夏はよく水遊びしていた。久しぶりだな。
「かとう!!ごめん、なさい!」
「大丈夫!よし、やっぱ似合うな!!」
泣きそうな顔をして追いついてきたなっちゃんに帽子をかぶせると、嬉しそうに笑った。ふと、名案を思いついた。濡れた靴と靴下を脱いで乾かし、なっちゃんに明るく声をかける。
「なっちゃん、川入るか!?気持ちいいし。」
「え!」
「タオルあるし、大丈夫!柳には内緒な?」
「うん!!!」
なっちゃんが目を輝かせた。二人で川の水を軽く蹴ると、水が揺らめいてキラキラと輝く。足が冷たくて気持ちいい。あー、めっちゃ楽しい。最高だわ。
「かとう!あ、あのね、」
「どうした?」
なっちゃんが俺の服を掴んできたので、笑顔でなっちゃんを見つめて、首をかしげる。
「加藤!?」
ふと、聞き覚えのある声がして振り向くと、目を見開いた大野が立っていた。あ、そっか、こいつも徒歩通学だったわ。この辺りにいても変ではねぇか。なんでパーカーにジーパンでオシャレに見えるんだよお前は。俺とほぼ同じような服のはずなのに。
「お、大野!うわっ!?ちょっ!何!?」
いきなり大野が靴を脱ぎ捨て鞄を投げ捨て走ってきて、俺の頬を両手で包む。そのままペタペタと顔を触られて、ただただ困惑した。どうしたんだ、こいつ。そんなに近づかれると心臓に悪い。
「・・・本物だ。」
「あははははっ、、なんで偽物なんだよ!馬鹿か。」
やけに神妙な顔で言われて、思わず笑ってしまった。たまに天然だよな、こいつ。
「ひゃっ!!」
笑っていると、大野に耳を甘噛みされて、変な声が出た。お前はなんでいっつもそういうことしてくんの?てか馬鹿だろ!!ちっちゃい子の前で!!!大野に詰め寄って小声で注意する。
「おいこらお前ふざけんなよ!」
「あはははっ、ごめん。」
大野があんまり嬉しそうに笑うので、文句が言えなくなる。ずっと俺の後ろに隠れていたなっちゃんがひょこっと顔を出した。
「かとう、このお兄ちゃん、だれ?」
「あー、ごめんな、なっちゃん。大野だよ。俺と高校一緒の奴!!」
なっちゃんの肩を優しく抱いて大野の前に立たせる。
「や!柳夏海、です!」
「ふふっ、はじめまして。大野駿です。」
大野がしゃがみこんで、優しくなっちゃんの頬を撫でた。途端、なっちゃんの顔が林檎みたいに赤くなる。いやお前、何で頬なんだよ。普通頭だろ。
「お、王子さま、みたい。」
「ふふっ、そんなことないと思うけどな?なっちゃんは、お姫様みたいに可愛いね?」
「っ!!」
大野は小首をかしげて甘く微笑んだ。うっわなんつーセリフ吐いてんのお前。どこのイケメンアイドルだよ。こっちまで恥ずかしくなってきたわ。なんとなく顔を反らすと、大野がふっと立ち上がった。
「あれ?加藤、顔、赤いよ?」
「な”っ!?」
頬を両手で優しく包まれて、額と額がぶつかる。鼻先が触れそうな距離に、勝手に体温が上昇した。大野と至近距離で目が合って、甘く微笑まれて、何度も瞬きを繰り返す。こいつ、熱はかってんの?長くね?
「か、かとう、風邪引いたの!?」
「なっちゃん、大丈夫だよ。」
心配そうにこちらを見上げるなっちゃんに爽やかに微笑んで、大野はスッと俺の耳元に口を寄せた。
「俺のせい、みたいだから。」
「っ!?」
甘い囁きにビクリと肩が震える。は!?違うから!お前のせいじゃねぇよ馬鹿!!
あ、いや、お前のセリフが恥ずかしいから赤くなったから、お前のせいだわ。もう何も言えなくなって、とりあえず大野を睨むが、爽やかな微笑みで一蹴された。
「な!なっちゃん!!そろそろ帰るぞ!!」
「えー、もう?・・・・・・っ!?」
「おい大野!?」
大野がなっちゃんをお姫様抱っこで岸まで運んだ。うっわ。とっさに出る仕草がモテるやつのそれだよな、お前は。今日でなっちゃん確実にお前に惚れたぞ。俺が唖然としているうちに、なっちゃんはいつの間にか靴を履いていた。
「加藤?足拭くよ。」
「自分で拭くに決まってんだろ!!!」
俺を馬鹿にすんのも大概にしろよ大野!
「ねえ、かとう?しゅ、しゅんお兄ちゃんは、一緒に行けないの?」
「っ!」
なっちゃんが、俺の服を掴んで訴えかけてくる。うわー、絶対無視できねぇ。てか何で大野はお兄ちゃん呼びなんだよ!おかしいだろ!!
「大野、お前これから用事ある?」
「ん?特にないけど。」
「じゃ、一緒に帰ってくんね?」
「あー、いいけど、」
大野はそこで言葉を切って、耳元に寄ってくる。
「お返し、くれる?」
だから耳元で喋んなって!耳を押さえてため息をついた。もういいや、なっちゃんが喜ぶなら。
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「加藤!」
「はいよ!なっちゃんいくぞ?」
「うん!」
「「せーのっ」」
「あはははっ!わーい!」
「ふふっ、もう一回?」
「もう一回!!!」
二人で同時になっちゃんを引き上げて、何度も高くジャンプさせる。なっちゃんも大野もすっげぇ楽しそうに笑うから、俺まで嬉しくなって、心が暖かくなった。
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そして俺は、河川敷の高架下に大野と二人で座っている。あー、もう。何でお返し了承したんだよ。また変なことしてからかわれるだろ、俺。
「春休みに入る前に、消えちゃった?」
「なっ!」
急に鎖骨を撫でられて、ぞわりとした。消えたよ!あの赤い痕のせいで余計なことばっか考えてたから、消えてくれて清々したわ。ふと、大野が俺を見つめて楽しそうに笑う。
「またつけないと、な?」
「へ?」
「お返し、くれるんだろ?」
「っ!な、何で、、」
「何でだと思う?」
「はぁ!?意味わかんねぇよ。」
「もっとすごいこと、お願いしてもいいけど?」
大野が妖艶に微笑む。背筋に悪寒が走って、慌てて声を上げる。
「わかった、わかったから!!」
「エロいことされると思った?」
「っ!お前はもう黙れ!つけるならさっさとつけろよ!!」
「ふふっ、はーい。」
大野はいたずらっ子のように笑った。まじで何なのこいつ。意味わかんねぇ。また、練習?
「服、捲り上げて?」
「はいはい。」
「・・・・触ってほしい?」
「は?」
「ふふっ、何処につけてほしい?」
「な”っ!?」
いやまずつけてほしいわけじゃねぇから!俺こいつ嫌いになりそう!
「ここ?・・・ここ?・・・それとも、ここ?」
「うひゃっ、はぁ、ちょ!なんかっ、大野!」
大野が手を這わす動きがやけにくすぐったくて、何処か厭らしく感じて、変な気分になりそうになる。鎖骨や首筋、腰や背中をなぞられて、必死に抵抗する。
「もう、暴れないで。」
「いや、はぁ!?」
「何処がいい?」
「もう何処でもいいから勝手につけろって!!」
「え!?いいの!?」
大野が嬉しそうに目を輝かせる。俺なんかミスった?ヤバい気がする。
「なっ!んっ、ちょ!ん”ん”、」
大野は執拗に何度も同じ場所を吸った。痛いのに体に甘い痺れが走って、たまらない気持ちになる。漏れそうになる上擦った声を、必死に堪えた。鎖骨の下、腰、腹と、おそらく背中に鈍い赤い痕がついた。
「ふふっ、可愛い。」
「んっ、はぁ、ちょっ!ん、やめ!」
大野は、四つの赤い痕に順番にキスをして、舌で舐め上げる。その度に体がぞわりとして、甘い声が漏れた。俺ら、外で何してんだよ。こんなとこ見られたらやばいって。背徳感に何故か胸が高鳴る自分の異質さが、ひどく怖くなった。
「ん。ありがとう。加藤。」
「お、おう。」
大野は何事もなかったように爽やかに微笑む。お前、何でそんなことすんだよ。俺を振り回してどうしたいんだよ。もう全然わかんねぇよ!俺、なんかどんどんおかしくなってくんだけど。
「なっちゃん、可愛かったね?」
「え?は?お、おう。」
なんというか、あまりにもあっけなく場の空気が変わるので、困惑してしまった。
「加藤って、幼女趣味、とかじゃないよな?」
「いや何言ってんだお前!!んなわけねぇだろ!!!」
「あははっ、冗談だって!仲良しだなって思ったんだよ。」
「だあ”もう!!そう、中一で初めて会ったんだっけな。そん時はまだこーんなちっこくてさ!割とすぐ懐いてくれた。可愛いよな。」
「うん。可愛い。」
「だよな!将来絶対べっぴんさんだろ!!!」
なっちゃんのことを褒められると、何故か俺が褒められた気分になる。俺は得意げに胸を張った。
「あははっ、なんか加藤、なっちゃんの保護者みたい。」
「そうか?てかお前、軽率にたぶらかすなよ!絶対なっちゃんお前に惚れたぞ?」
「へ?」
「あ”ー、もう、何でもねぇよ!!!」
「もし俺に惚れたなら、見る目ないよ。」
「いや何処がだよ!お前って自己評価低いんか?」
「え?」
「あー、もう、」
大野はたまに冷たい瞳をする。何処か苦しげな顔をする。自分がそんな表情してるって気づいてねぇの?んな顔すんなよ!いつもみたいに笑えよ!どうしたら笑ってくれんの?俺馬鹿だからわかんねぇよ。
「大野、目閉じて。」
「なーに?キス?」
何でこいつはすぐそういうこと言っておちょくってくんの!?
「いいから黙って口開けろこらぁぁぁ!!」
「・・・・・ん?」
大野の口に棒付きのレモン味の飴ちゃんを突っ込んだ。スーパーで見かけて何となく食べたくなったから、二つ買ったやつだ。一個はなっちゃんにあげたから、こっちは俺の分だけど。
「ふふっ、ありがとう、大野。」
大野が嬉しそうに笑う。そうやって笑ってりゃいいんだよ!お前が笑顔だと、俺もなんか嬉しくなるから。
「お前もあっこの、えっと、古本屋と花屋の前のスーパー行ったことある?」
「え?あー、あそこ?」
「前、俺のポッケにそれ入れたのお前だろ?」
ホワイトデーに大野と別れた後、制服のズボンのポケットの中に同じレモン味の飴ちゃんが入っていた。
「あははっ、バレた?」
「やっぱ大野だったか!それ、コンビニとかじゃ売ってねぇからさ、ちょっと特別感あるよな!」
「あははっ、わかる。あ、そうだ、加藤。」
「どうした?」
大野の指が、背中のある一点にそっと触れる。
「ここに痕、ついてんの。」
「っ!」
「これは俺しか知らない。」
大野がくすっと笑った。もうお前黙れよ!!!
「あ”あ”あ”あ”あ!!!もうお前何なんだよ!!!」
「あははっ、春休み中も俺のこと忘れないでね?」
「うっせぇよ!!!!」
楽しそうに走り去る大野を睨みつける。あー、もう!お前はいい奴なのか嫌な奴なのかどっちなんだよ!!忘れたくても忘れらんねぇわ!!
*
結局、春休みが終わるまでずっと大野のことで悶々としてしまった。しょうがないだろ!服脱ぐ度に、痕が三つも見えるんだよ!!その度にあいつのこと思い出すんだよ。結局これも全部あいつの思い通りかよ。薄くなってきた時に、嬉しいと思う一方でどこか名残惜しいと感じた。何それ、俺、気色悪っ!!!!
わざわざ鏡に映して覗くのが恥ずかしくて、背中の痕がどうなっているかはわからない。俺の背中の赤い痕は、大野しか見たことがない。大野しか知らない。って、それがどうしたんだよ!あー、もう、まじでなんなんだよあいつ。もうからかってくんなよ!!
「うっわっ!冷たっ!?!?」
俺は力任せに蛇口をひねり、頭から思いっきり冷水を浴びてしまった。
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