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第1章 修道院での子供時代
5、修道院の生活
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大きな街から修道院へ戻るとまたいつも通りの生活が待っていた。
修道院の朝は早い。まだ暗いうちに起きて服を着替え修道士全員が大きな礼拝堂に集まる。カルロス先生の声で朝の祈りが行われ、その後は宿舎に戻ってそれぞれの部屋で瞑想を行う。幼い私はこの瞑想が苦手であった。椅子に座って目を閉じていればどうしても眠くなってしまう。大人の修道士には許されないことであったが、私はまだ子供であったので居眠りも見逃された。1時間ほど瞑想をした後、カルロス先生が呼びに来て食堂へ行く。朝食はパンとスープのことが多かった。食べ終わるまで祈りの言葉以外はしゃべることは許されていない。
朝食後は朝の労働の時間となる。図書館で写本をする者、畑で農作業をする者、食堂で食事の準備や後片付けをするものなどそれぞれの場所で働くことになる。農作業や食事の準備をする者は僧衣ではなく動きやすい服に着替える。この時間に私は勉強をすることが多かった。宿舎とは別の図書館にある学習室でカルロス先生や他の修道士の先生からスペイン語の他にラテン語などの読み書きを習い、聖書を一緒に読む。学習室は広くてたくさんの机と椅子が並んでいたが、そこで学ぶ生徒は私1人であった。孤児院にはたくさんの子供がいたが、彼らが学習室で一緒に勉強することは決してなかった。
お昼前になると作業は中断され、修道士は体を清めた後に礼拝堂に集まる。全員で祈りの言葉を唱えた後、それぞれの部屋に入って瞑想をしなければならない。この時間はかなりお腹がすいている。お昼ご飯に何が食べられるのか、そんなことばかり考えていた。
お昼ご飯は1日の中で1番たくさんのものを食べることができた。大きなスープ皿にはいろいろな種類の野菜と大きな肉の塊が入り、魚や珍しい魚介が入ることもあった。何種類かのパンが食卓に並び、自由に取って食べることができた。時には甘いお菓子が並べられることもある。私はうれしくてたまらなかったが、そうした表情を出すことは許されなかった。食事は厳かに取るものであったから、カルロス先生も他の修道士もみな表情を変えることなく黙々と食べていた。修道院の生活では大きな声で話すことと笑うことは固く禁じられていた。互いに目を合わすことも許されない。下を向いて静かに食べた。
お昼ご飯を食べた後は昼の労働の時間となる。基本的に朝と同じ作業を行い、私は学習室で勉強することになる。ごく稀にカルロス先生は私を連れて見回りに行った。修道院長としてそれぞれの作業場でみんながきちんと働いているか見に行くのである。図書館で修道士が写本をしている様子を眺め、ブドウ畑に行き、家畜を飼育している場所にも行った。畑や家畜のいる場所では修道士でない大人の人や孤児院の子も働いていた。遠くから子供のヒソヒソ話が聞こえる。
「おい、院長先生が見回りに来ているぞ」
「大きな声は出すな。見つかったら酷い目に合う」
「酷い目ってなに?」
「俺はこの前、懺悔室に連れていかれた。まずは告解室で犯した罪の告白をする。罪と言ってもただ仕事をさぼってしゃべっていただけだ。その後地下室に連れて行かれ鞭で打たれた」
「そんなことがあったのか」
はっきりと聞こえる声に私はドキドキした。でもカルロス先生には聞こえていないようだ。数人の子供が農作業をしていた。彼らは黙々と働いている。
「アルバロ、何か変わったことはあるか?」
アルバロと呼ばれた12,3歳ぐらいの子がカルロス先生の前に来た。
「何も変わったことはありません。みんな一生懸命作業をしています」
「ご苦労・・・」
見回りが終わった頃には太陽が西の空に沈みかけていた。私たちはパンとワインだけの簡単な夕食を取り、礼拝堂での祈りの後、修道士はそれぞれの部屋に入った。寝るまでの時間は本を読んでも瞑想してもよい自由時間である。私はカルロス先生の部屋に行き、本を読んでもらうのを楽しみにしていた。
ある日、私はカルロス先生に連れられて懺悔室を訪れた。それは墓地へと続く糸杉の林の中にあった。告解室という名前の質素な礼拝堂があり、地下へと石の階段が続いている。下の方から子供の泣き声が聞こえる。
「ごめんなさい。もう怠けたりしません。鞭だけは許してください」
「静かにするのだ。今、院長先生がいらっしゃる」
長い階段を私はカルロス先生と手をつないで降りて行った。日の当たらない階段は途中から真っ暗になり、先生の持つランプの灯りだけで前に進んだ。やがて石造りの広い部屋に出た。壁に大きな暖炉があり、火が燃えている。壁に取り付けられた蝋燭の炎が部屋の様子をぼんやりと照らしている。暖炉と反対側の壁に大きな十字架があり、その下に木のベッドがいくつか置かれていた。10歳くらいの子供が1人、裸でうつぶせになってベッドに縛られていた。
「院長先生、フェリペは仕事をさぼって怠けていました」
「それは本当か?」
「ごめんなさい。もうしません。許してください」
「怠惰は7つの大罪にもあたる大きな罪、子供だからとて許すわけにはいかない。罰として7回の鞭打ちとする。声を出さぬよう歯を食いしばりなさい」
カルロス先生の命令でそばにいた修道士が鞭を手に取った。彼は悲鳴を上げた。7回の鞭打ちが終わった後、彼を縛っていた太いひもがほどかれた。彼は服を着て2人の修道士に支えられながら石の階段をゆっくり上がって行った。カルロス先生が壁の十字架の下で跪いた。
「父なる神とその子イエスよ。神の子イエスは私たちの罪を背負い苦しまれました。それから1500年の月日が経ちましたが、いまだに私たちは罪を犯しています。どうか私たちが罪を犯さないように見守ってください」
修道院の朝は早い。まだ暗いうちに起きて服を着替え修道士全員が大きな礼拝堂に集まる。カルロス先生の声で朝の祈りが行われ、その後は宿舎に戻ってそれぞれの部屋で瞑想を行う。幼い私はこの瞑想が苦手であった。椅子に座って目を閉じていればどうしても眠くなってしまう。大人の修道士には許されないことであったが、私はまだ子供であったので居眠りも見逃された。1時間ほど瞑想をした後、カルロス先生が呼びに来て食堂へ行く。朝食はパンとスープのことが多かった。食べ終わるまで祈りの言葉以外はしゃべることは許されていない。
朝食後は朝の労働の時間となる。図書館で写本をする者、畑で農作業をする者、食堂で食事の準備や後片付けをするものなどそれぞれの場所で働くことになる。農作業や食事の準備をする者は僧衣ではなく動きやすい服に着替える。この時間に私は勉強をすることが多かった。宿舎とは別の図書館にある学習室でカルロス先生や他の修道士の先生からスペイン語の他にラテン語などの読み書きを習い、聖書を一緒に読む。学習室は広くてたくさんの机と椅子が並んでいたが、そこで学ぶ生徒は私1人であった。孤児院にはたくさんの子供がいたが、彼らが学習室で一緒に勉強することは決してなかった。
お昼前になると作業は中断され、修道士は体を清めた後に礼拝堂に集まる。全員で祈りの言葉を唱えた後、それぞれの部屋に入って瞑想をしなければならない。この時間はかなりお腹がすいている。お昼ご飯に何が食べられるのか、そんなことばかり考えていた。
お昼ご飯は1日の中で1番たくさんのものを食べることができた。大きなスープ皿にはいろいろな種類の野菜と大きな肉の塊が入り、魚や珍しい魚介が入ることもあった。何種類かのパンが食卓に並び、自由に取って食べることができた。時には甘いお菓子が並べられることもある。私はうれしくてたまらなかったが、そうした表情を出すことは許されなかった。食事は厳かに取るものであったから、カルロス先生も他の修道士もみな表情を変えることなく黙々と食べていた。修道院の生活では大きな声で話すことと笑うことは固く禁じられていた。互いに目を合わすことも許されない。下を向いて静かに食べた。
お昼ご飯を食べた後は昼の労働の時間となる。基本的に朝と同じ作業を行い、私は学習室で勉強することになる。ごく稀にカルロス先生は私を連れて見回りに行った。修道院長としてそれぞれの作業場でみんながきちんと働いているか見に行くのである。図書館で修道士が写本をしている様子を眺め、ブドウ畑に行き、家畜を飼育している場所にも行った。畑や家畜のいる場所では修道士でない大人の人や孤児院の子も働いていた。遠くから子供のヒソヒソ話が聞こえる。
「おい、院長先生が見回りに来ているぞ」
「大きな声は出すな。見つかったら酷い目に合う」
「酷い目ってなに?」
「俺はこの前、懺悔室に連れていかれた。まずは告解室で犯した罪の告白をする。罪と言ってもただ仕事をさぼってしゃべっていただけだ。その後地下室に連れて行かれ鞭で打たれた」
「そんなことがあったのか」
はっきりと聞こえる声に私はドキドキした。でもカルロス先生には聞こえていないようだ。数人の子供が農作業をしていた。彼らは黙々と働いている。
「アルバロ、何か変わったことはあるか?」
アルバロと呼ばれた12,3歳ぐらいの子がカルロス先生の前に来た。
「何も変わったことはありません。みんな一生懸命作業をしています」
「ご苦労・・・」
見回りが終わった頃には太陽が西の空に沈みかけていた。私たちはパンとワインだけの簡単な夕食を取り、礼拝堂での祈りの後、修道士はそれぞれの部屋に入った。寝るまでの時間は本を読んでも瞑想してもよい自由時間である。私はカルロス先生の部屋に行き、本を読んでもらうのを楽しみにしていた。
ある日、私はカルロス先生に連れられて懺悔室を訪れた。それは墓地へと続く糸杉の林の中にあった。告解室という名前の質素な礼拝堂があり、地下へと石の階段が続いている。下の方から子供の泣き声が聞こえる。
「ごめんなさい。もう怠けたりしません。鞭だけは許してください」
「静かにするのだ。今、院長先生がいらっしゃる」
長い階段を私はカルロス先生と手をつないで降りて行った。日の当たらない階段は途中から真っ暗になり、先生の持つランプの灯りだけで前に進んだ。やがて石造りの広い部屋に出た。壁に大きな暖炉があり、火が燃えている。壁に取り付けられた蝋燭の炎が部屋の様子をぼんやりと照らしている。暖炉と反対側の壁に大きな十字架があり、その下に木のベッドがいくつか置かれていた。10歳くらいの子供が1人、裸でうつぶせになってベッドに縛られていた。
「院長先生、フェリペは仕事をさぼって怠けていました」
「それは本当か?」
「ごめんなさい。もうしません。許してください」
「怠惰は7つの大罪にもあたる大きな罪、子供だからとて許すわけにはいかない。罰として7回の鞭打ちとする。声を出さぬよう歯を食いしばりなさい」
カルロス先生の命令でそばにいた修道士が鞭を手に取った。彼は悲鳴を上げた。7回の鞭打ちが終わった後、彼を縛っていた太いひもがほどかれた。彼は服を着て2人の修道士に支えられながら石の階段をゆっくり上がって行った。カルロス先生が壁の十字架の下で跪いた。
「父なる神とその子イエスよ。神の子イエスは私たちの罪を背負い苦しまれました。それから1500年の月日が経ちましたが、いまだに私たちは罪を犯しています。どうか私たちが罪を犯さないように見守ってください」
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