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36、面倒な亡霊を異母弟に押し付けて困らせる作戦
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僕は護身術の学校で偶然再会した異母弟マルティンを怖がらせようとして、亡霊の話をした。僕は再会を素直に喜べず複雑な気持ちになっていた。でも彼は夜になると僕の部屋に来た。彼は僕にだけ見える亡霊ラミロ2世とペドロ2世が見えていて、2人は学校の偉い先生で昔の王様の衣装を身に付けて特別指導をしていたのだと考えた。剣術の稽古の時、王様の衣装を付けて目の前でウロチョロするラミロ2世の亡霊は邪魔だったが、彼は運命の皮肉でアラゴン王となり貴族達に馬鹿にされて彼らを集めて斬首し、その首を鐘のように高く積み上げたという怖ろしい伝説を持っている。この話をしてマルティンを怖がらせようとしたのだが、途中で本物のラミロ2世の亡霊が出てしまい、マルティンは怖がるどころか大喜びしてしまった。
「ラミロ2世、なんで今出てきたの?」
「なんでって、そなたが私の話をしていて私の名前を呼んだではないか」
亡霊の話をして怖がらせようとした時に本物が登場すればもう笑い話になってしまう。劇で言うなら出る幕じゃない時にラミロ2世は登場した。そして騒ぎを聞きつけて、ペドロ2世も出て来た。
「わー!ペドロ2世も出て来た。こっちも亡霊だよね。手では触れないのにちゃんとそこにいるように見える。フェリペ兄さんすごいね」
8歳のマルティンは興奮してもう大喜びである。
「ペドロ2世、なんで出てきたの?」
「そなたがラミロ2世の話をしていたから出番を待っていた。この場合、ラミロ2世を差し置いて私が先に登場するのは失礼であろう。だから少し遅れて出て来た」
「すごい!亡霊もちゃんと順番を守って登場するんだ」
「我々亡霊はむやみに人間の前に出たりはしない」
「ペドロ2世のことは今日の授業で聞いたよ。僕たちは実際にその時代の鎧と兜を付けて剣術の稽古もした」
「ああ、それならしっかり見ていた」
「僕はてっきりもう1人の先生がペドロ2世の格好をして見ていると思っていた。だって本物の人間にそっくりなんだもん」
「ハハハハ・・・本物の人間にそっくりとはうれしいことを言ってくれる。ラミロ2世、この子の名前はなんて言っていた?」
「マルティンだ。フェリペの弟で同じ血を引いているから我々の姿が見える」
「そうか、フェリペの弟なのか。2人ともよく似ている」
正式には弟ではなく異母弟だが、彼ら3人は盛り上がっている。その時に鐘の音が聞こえた。
「あ、消灯の時間だ。僕は自分の部屋に戻るね」
「また会おう、マルティン!」
「フェリペ、そなたの弟は明るくていい子じゃないか」
「剣術の腕前もなかなかのものだった」
ラミロ2世とペドロ2世は口々に異母弟のことをほめる。僕はなんか面白くなくてモヤモヤしたが、次の瞬間にある作戦を思いついた。
「僕は今までずっと修道院に暮らしていたから弟のマルティンには会ってなかったけど、彼は素直ないい子に育っていた」
「我々の姿を見ても驚いたり怖れたりしないで、あんなに喜んでくれるとは・・・」
「でも、彼は明るく元気に振る舞っているけど、本当は辛い体験をしている」
「そうなのか・・・」
「父さんの家で初めて会った時、彼はあまり話さなかった。彼のお母さん、僕にとっては継母だけど、亡くなったばかりだった」
「・・・・・」
「僕が5歳の時に母さんが亡くなったけど、あの時は本当に辛かった。僕は毎日泣いて、やがて継母に苛められるようになり、7歳の時に修道院に入れられた」
「・・・・・」
「僕も同じように母さんが亡くなった経験をしているから、弟がどんなに辛い思いでいるかよくわかる。それに父さんの家は今は貧乏になってしまい、ヴェネツィアに行ってやり直すと聞いた。お母さんが亡くなり遠い国へ行くことになった彼の気持ちを考えると胸が痛い」
すすり泣く声が聞こえた。2人は泣いている。
「だから2人にお願いしたい。この学校にいる間は僕ではなくマルティンのそばに行って欲しい。彼は2人を見てすごく喜んでいた。ラミロ2世にアラゴンの歴史を教えてもらい、ペドロ2世に剣術の稽古でアドバイスをもらえれば、きっと忘れられない思い出になって、これから先の生きる力になると思う」
作戦のために言っているのだが、僕の頬にも涙が流れた。
「フェリペ、そなたは継母に苛められ修道院に入れられるという辛い体験をしている。その憎い継母の子を恨むどころか、彼の悲しみに寄り添って癒し、生きる力を与えようと考えた。これこそが神がキリストを通じて人間に教えようとした慈悲の心、そのように考えられるそなたに出会えて本当にうれしい。そなたの弟の役に立てるよう、我々2人が精一杯がんばろう」
「私はラミロ2世のようにいい言葉は言えないが、剣の腕前なら誰にも負けない。持てる技すべてを彼に伝える」
僕はそんなにいい子ではなく目的は別にあるのだが、とりあえず彼ら2人の亡霊は明日から異母弟マルティンの面倒を見ることになった。
「ラミロ2世、なんで今出てきたの?」
「なんでって、そなたが私の話をしていて私の名前を呼んだではないか」
亡霊の話をして怖がらせようとした時に本物が登場すればもう笑い話になってしまう。劇で言うなら出る幕じゃない時にラミロ2世は登場した。そして騒ぎを聞きつけて、ペドロ2世も出て来た。
「わー!ペドロ2世も出て来た。こっちも亡霊だよね。手では触れないのにちゃんとそこにいるように見える。フェリペ兄さんすごいね」
8歳のマルティンは興奮してもう大喜びである。
「ペドロ2世、なんで出てきたの?」
「そなたがラミロ2世の話をしていたから出番を待っていた。この場合、ラミロ2世を差し置いて私が先に登場するのは失礼であろう。だから少し遅れて出て来た」
「すごい!亡霊もちゃんと順番を守って登場するんだ」
「我々亡霊はむやみに人間の前に出たりはしない」
「ペドロ2世のことは今日の授業で聞いたよ。僕たちは実際にその時代の鎧と兜を付けて剣術の稽古もした」
「ああ、それならしっかり見ていた」
「僕はてっきりもう1人の先生がペドロ2世の格好をして見ていると思っていた。だって本物の人間にそっくりなんだもん」
「ハハハハ・・・本物の人間にそっくりとはうれしいことを言ってくれる。ラミロ2世、この子の名前はなんて言っていた?」
「マルティンだ。フェリペの弟で同じ血を引いているから我々の姿が見える」
「そうか、フェリペの弟なのか。2人ともよく似ている」
正式には弟ではなく異母弟だが、彼ら3人は盛り上がっている。その時に鐘の音が聞こえた。
「あ、消灯の時間だ。僕は自分の部屋に戻るね」
「また会おう、マルティン!」
「フェリペ、そなたの弟は明るくていい子じゃないか」
「剣術の腕前もなかなかのものだった」
ラミロ2世とペドロ2世は口々に異母弟のことをほめる。僕はなんか面白くなくてモヤモヤしたが、次の瞬間にある作戦を思いついた。
「僕は今までずっと修道院に暮らしていたから弟のマルティンには会ってなかったけど、彼は素直ないい子に育っていた」
「我々の姿を見ても驚いたり怖れたりしないで、あんなに喜んでくれるとは・・・」
「でも、彼は明るく元気に振る舞っているけど、本当は辛い体験をしている」
「そうなのか・・・」
「父さんの家で初めて会った時、彼はあまり話さなかった。彼のお母さん、僕にとっては継母だけど、亡くなったばかりだった」
「・・・・・」
「僕が5歳の時に母さんが亡くなったけど、あの時は本当に辛かった。僕は毎日泣いて、やがて継母に苛められるようになり、7歳の時に修道院に入れられた」
「・・・・・」
「僕も同じように母さんが亡くなった経験をしているから、弟がどんなに辛い思いでいるかよくわかる。それに父さんの家は今は貧乏になってしまい、ヴェネツィアに行ってやり直すと聞いた。お母さんが亡くなり遠い国へ行くことになった彼の気持ちを考えると胸が痛い」
すすり泣く声が聞こえた。2人は泣いている。
「だから2人にお願いしたい。この学校にいる間は僕ではなくマルティンのそばに行って欲しい。彼は2人を見てすごく喜んでいた。ラミロ2世にアラゴンの歴史を教えてもらい、ペドロ2世に剣術の稽古でアドバイスをもらえれば、きっと忘れられない思い出になって、これから先の生きる力になると思う」
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「フェリペ、そなたは継母に苛められ修道院に入れられるという辛い体験をしている。その憎い継母の子を恨むどころか、彼の悲しみに寄り添って癒し、生きる力を与えようと考えた。これこそが神がキリストを通じて人間に教えようとした慈悲の心、そのように考えられるそなたに出会えて本当にうれしい。そなたの弟の役に立てるよう、我々2人が精一杯がんばろう」
「私はラミロ2世のようにいい言葉は言えないが、剣の腕前なら誰にも負けない。持てる技すべてを彼に伝える」
僕はそんなにいい子ではなく目的は別にあるのだが、とりあえず彼ら2人の亡霊は明日から異母弟マルティンの面倒を見ることになった。
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