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26、ハイメ1世の家族

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 ペドロ2世と話をした後、僕は自分の荷物を入れた袋の中からノートを取り出した。

「フェリペ、揺れる馬車の中で長い時間本を読むと気分が悪くなる。ほどほどにしなさい」
「わかりました」

 ニコラス先生にはそう答えたが、ペドロ2世はきっと息子ハイメ1世のことを聞いてくるに違いない。ノートに書き写したアラゴンの歴史の中のハイメ1世のページを開いた。

1208年 ハイメ1世、ペドロ2世とマリア・デ・モンペリエの間に生まれる。
1211年 シモン・ド・モンフォールのところに委ねられる。
1213年 ペドロ2世が戦死し、アラゴンとカタルーニャは教皇インノケンティウス3世に訴え、モンフォールにハイメを引き渡させた。ハイメはアラゴンのモンソンに送られ、テンプル騎士団の元に預けられた。
1216年 騎士団と貴族が幼い王をサラゴサに連れて行くまで混乱は続いた。
1221年 カスティーリャ王アルフォンソ8世の娘レオノールと結婚したが後に離婚する。
1222年 アルフォンソ(1222ー1260)生まれる。父よりも先に亡くなる。
1229年 バレアレス諸島(1229年マヨルカ島、1232年メノルカ島、1235年イビサ島)1232年からバレンシア(首都占領は1238年)の征服を進めた。
1235年 ハンガリー王アンドラーシュ2世の娘ビオランテと結婚する。
1236年 ビオランテ生まれる(1236ー1301)カスティーリャ王アルフォンソ10世と結婚する。
1240年 ペドロ生まれる(1240ー1285)アラゴン王ペドロ3世。
1243年 ハイメ生まれる(1243ー1311)マリョルカ王ジャウメ2世。
1247年 イサベル生まれる(1247ー1271)フランス王フィリップ3世と結婚する。
ハイメ1世には他にもたくさんの子がいたが、僕は歴史に関係がありそうな人物だけノートに書き写していた。

「フェリペ、それは我が子ハイメについて書いてあるのか?」
「そうだよ。ちょうどペドロ2世に聞かれるかもしれないと思ってノートを開いておいた」
「そなたは本当に先見の明がある」

 ペドロ2世との会話はもちろん声には出さず、頭の中だけである。僕はノートを見ながらハイメ1世のことをペドロ2世と話した。





「そうか、ハイメ1世を取り戻せたのは敵であった教皇のおかげか」
「そうだね。3歳から5歳までモンフォールのところにいて、その後アラゴンにあるテンプル騎士団の城で育てられている。5歳から8歳までだ」
「モンソン城にはそなたと一緒に訪れている。あの時は楽しかった」

 前に僕はラミロ2世、ハインリヒ7世、ペドロ2世の3人と一緒にテンプル騎士団の拠点の1つ、モンソン城を訪れたことがある。3人ともこの時は修道士の衣装を着ていたが、ラミロ2世とペドロ2世の2人はすっかりはしゃいで、歌を歌いながらどんどん先に行ってしまった。修道士ならいつどんな場所にいてもおかしくないという理由でその衣装を選んだのだが、歌いながら歩く修道士は多分いないと思う。目が見えないで仮面をつけていたハインリヒ7世は取り残されてしまい、僕は彼の手を引いてゆっくり歩いていた。

「成人したハイメ1世は積極的にイスラム教徒の支配する土地の征服を進めた」
「それで征服王と呼ばれているのか。さすが我が息子、何も教えなくても戦士としての血はしっかり流れていた」
「ハイメ1世にはたくさんの子がいた、特に2番目の王妃、ハンガリー王アンドラーシュ2世の娘ビオランテとの間には・・・」

 アンドラーシュ2世という名前を見て気が付いた。ハインリヒ7世と一緒に彼が生まれる前、ハンガリー王妃になっていたコンスタンサに会いに行ったことがある。彼女の子ラースローは叔父アンドラーシュによって王位を簒奪され、母と一緒にオーストリアに亡命している。でもそのことを説明すると長くなりそうだ。

「ビオランテとの間にはたくさんの子がいた。長男ペドロはアラゴン王ペドロ3世となり、次男のハイメはマリョルカ王ジャウメ2世となった。そして娘のビオランテはカスティーリャ王アルフォンソ10世と結婚し、イサベルはフランス王フィリップ3世と結婚した。だからフィリップ4世やその後のヴァロワ朝にはアラゴンの血が流れていることになる」
「私はハイメには何1つ父親らしいことはしてやれず、王としての教育もしてやれなかった。だがあの子は立派に成長し、アラゴンを大国にしていた」
「そしてハイメ1世の時代は商人や職人が力を増し始めたので、貴族や僧侶に加えて商人や職人も参加する身分制議会をカタルーニャに設置させた。また自伝的年代記『事実の書』も書き、多方面で活躍している」
「親はなくても子は育つということか。うれしくもあり寂しくもある」
「でも、ハイメ1世はペドロ2世の血を受け継いでいるのです。ペドロ2世の叶えられなかった夢をハイメ1世が実現したと考えれば・・・」

 

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