捨てられた侯爵夫人の二度目の人生は皇帝の末の娘でした。

ルモア家との別れ④

妻ソフィアの荷物を馬車に乗せエミリーの荷物は当初着ていた服だけを送る事になり、アレックは使用人に言伝てルモア家へと走らせた。
アレックは妻の遺品だけでも遺していたいと思っていたが両親の願いを受け入れ送ることにした。
アレックの手元に残ったのは、妻ソフィアの日記と髪の毛を一房そして披露宴に一緒に行くはずだったドレスが残っただけだった。
「……」
アレックは馬車を見送ると一台の馬車が屋敷へと入ってきた。
「アレック様」
「医師」
医師がルモア家から戻ってきた。
「ただいま戻りました…」
「ご苦労だった…エミリーの容体は？」
「落ち着かれたようで食事も少しですが食されていました」
「そうか…ご苦労だった…」
「いえ…」
医師は顔色がよくないアレックを心配していた。
「…お食事は必ずお取りください…お仕事もご無理はしないでください…」
「エミリー様は、いつ頃こちらへお戻りに？」
「……エミリーは屋敷へは戻らない」
「え？それは…」
「私とエミリーの結婚は白紙となった…ご両親からの願いを私は受け止めた…」
「！」
エミリーと結婚の話が無くなったと聞いた医師は驚いたが目を閉じ頭を下げた。
「…エミリー様には悪いと思いますが、私は良かったと思います…アレック様の奥様はソフィア様なのですから…」
「……」
医師は涙を溜めアレックの妻はソフィア一人だと話をした。
「エミリー様はご結婚の事は…」
「知らないだろう…私はルモア家の門をくぐる事を許されていない…」
エミリーとの子供は、父親が誰なのかもわからないまま埋葬される事となり、ソフィアの側で眠る事になった。
エミリーと別れてからの屋敷の中は静だった…アレックとエミリーの噂は、貴族達の会話の一つとして取り上げられていた。
「あの、真面目な侯爵が信じられん…」
「父親から受け継いだものだ。浮かれ気分で浮気をしていたのだろう、良い身分だ」
「妻の妹に孕ませ妹を捨てたらしいぞ」
「それは、本当か？」
「妻には侯爵の店には寄るなと話そう」
噂話は半分真実、半分嘘の貴族達の退屈しのぎの話へとなっていた。
「わたくしがお話し、しましたとおりですわ！」
お茶会の席で貴婦人が声をあげた。
「侯爵様とエミリー様とご関係がありました事を…」
「まさか、奥様がいます方が…素敵なお方と思っていましたが…」
「それに、奥様の妹エミリー様が侯爵様のお子様を身籠ったとは本当ですの？」
「ですが、エミリー様には婚約者の方がおりますけど…」
「では…お子様の父親は…？」
笑みを見せ会話を楽しむお茶会はエミリーとアレックの話で尽きることはなかった。