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◇25◇ 【ペラギア視点】落とし前はひとつずつ
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◇ ◇ ◇
「ペラギア!! あんた、何してくれたのよ!!!」
牢獄でラミナの面会に臨んだ私は、絶望に染まったラミナにつかみかかられた。
「あら、何が不満?
あんたの『思いの強さ』のままに、あんたの言葉を修正なく載せたわよ?」
「新聞に書かれたことが広まって、みんな私のこと馬鹿にしてくるようになったじゃない!!
いままでは、みんな私のこと可哀想って言ってくれたのに!!」
そりゃ、同情していたのは、いじめられて追い詰められての犯行だったと思っていたからでしょ?
まぁあんたは知らなかっただろうけど。
「あたりまえでしょうよ。『思い』が強かったらなんでも共感されることなんてある??」
「あと、私の過去まで暴かれて……。
何よこれ、わたし……あのひとに……笑われちゃうじゃない……」
会う人会う人に馬鹿にされるのが嫌でたまらないらしいラミナを、私は鼻で笑う。
「何がおかしいのよ!!」
「言い寄ってきた貴族は、最初からリリス目当てであんたに近づいたのよ。
あんたのことなんてもともと眼中になかったの」
「わかったようなこと、言わないで!!
私……何度も……あの人と熱い夜を過ごしたわ。
素敵なものをたくさんプレゼントしてくれて、お姫様みたいに大切にしてくれて……」
ああ、なるほど、そういう貴族の手練手管に、本気で愛されてると思い込んだのか。
「単純に貴族たち、そういう女のもてなし方には長けてるってだけよ。
比較のために、私の前職で、本気になった貴族の男がどんな言葉をささやいてどんなものを貢いできたか、教えてあげましょうか?」
「…………うるさいわよ、この娼婦…………」
「陳腐な罵倒ね。でも一度娼婦のてっぺん取った女にそれが罵倒になると思う? あんたと違って、私のほうが男に四、五回刺されてるから」
「性悪…………女狐…………年増…………」
「なんとでも言えば?
あんたのおかげで、その貴族のことが詳しくわかったし、いま探偵に身辺調べさせてるとこよ」
「!! ……調べさせてどうするのよ!!」
「さぁ、何が後ろに隠れてるかしらね。
大好きな彼の破滅をお楽しみに」
「やめて!!」
ラミナは悲痛な声をあげた。
「私……わたし、牢獄を出たら、あの人のところに行って……どれだけ私の思いが強かったかわかってもらって……今度こそ、私」
この期に及んでまだ叶わない夢を見ていたとは。
「まだわかってないみたいだけど、ラミナ。
『思い』は他の人にもあるのよ?」
「……………………」
「まずは自分が思い知ったら?」
「……嫌よ、そんなの…………私が正しいのよ……こんなの、ひどすぎる……」
もはや誰も自分の味方についてくれないと知り、ラミナは涙を流す。
そして、こどものように床にうずくまり、声をあげて泣き始めた。
「…………あんたの罪は、泣いて終わりではないわよ。リリスの苦しみはまだ続くんだから」
これから、情状酌量など一切ない厳罰が下るはずだ。
それだけ自分がしたことの重さを思い知るがいい。
私がラミナとの面会室を出ると、看守が「お、お疲れさまです、ペラギア様っ」と顔を赤らめながら駆け寄ってきた。まだ若い男だ。
「……ペ、ペラギア様が女優をなさっていたとは……その、あなたの存在は、俺たちの世代にとってまさに憧れというか青春というか……」
「あら」
私は上品に微笑んだ。
「嬉しいことを言ってくださるのね」
とたんに看守が真っ赤になった。
この世代、こういう男がよくいる。
人気のある高級娼婦は女優などと同じように有名なので、私の絵姿などがよく、いろいろな広告だの、大衆向けの本だのにつかわれていたのだ。
…………女優を目指し、王都に出て、親切そうな奴の口車に乗って騙され、娼婦にされて、5年を無駄にした。
その間に権力者を顧客にし、また裏社会とのつながりを得、私を騙した奴はめちゃめちゃ後悔させた上できっちり破滅に追い込んだ。
すべての娼婦・男娼が騙されてそうなるわけではないが、いまでも女や男の子を騙して望んだ道と違う道へ引きずり込もうとする奴は絶対に許さない。
それでも、5年間私は娼婦の仕事を私なりにがんばって務めてきたし、一度は王都随一の娼婦として名を馳せたことを私は誇りに思っている。
“高級娼婦”ペラギアは、切っても切り離せないもう一人の私だ。
……そして、いざというときに、私の人脈はとても役に立つ。こんなときとかに。
◇ ◇ ◇
劇団に戻ると、建物の前に、妙に高級そうな馬車が停まっていた。
(……貴族の馬車? まさか、団長が言ってた、リリスを引き抜こうとした奴が来た??)
背筋に緊張が走る。
建物のなかに入り、まっすぐに団長室に向かう。扉を開けた。すると…………。
「…………リリス?」
決して広くない団長室の中に3人の男女の来客があり、その1人は、リリスだった。
「リリス!!」
私が駆け寄ると、リリスは複雑そうな顔で、私の顔面をぐにっとつかんだ。
「ペラギアさん…………いったいあなた、何やったんですか」
◇ ◇ ◇
「ペラギア!! あんた、何してくれたのよ!!!」
牢獄でラミナの面会に臨んだ私は、絶望に染まったラミナにつかみかかられた。
「あら、何が不満?
あんたの『思いの強さ』のままに、あんたの言葉を修正なく載せたわよ?」
「新聞に書かれたことが広まって、みんな私のこと馬鹿にしてくるようになったじゃない!!
いままでは、みんな私のこと可哀想って言ってくれたのに!!」
そりゃ、同情していたのは、いじめられて追い詰められての犯行だったと思っていたからでしょ?
まぁあんたは知らなかっただろうけど。
「あたりまえでしょうよ。『思い』が強かったらなんでも共感されることなんてある??」
「あと、私の過去まで暴かれて……。
何よこれ、わたし……あのひとに……笑われちゃうじゃない……」
会う人会う人に馬鹿にされるのが嫌でたまらないらしいラミナを、私は鼻で笑う。
「何がおかしいのよ!!」
「言い寄ってきた貴族は、最初からリリス目当てであんたに近づいたのよ。
あんたのことなんてもともと眼中になかったの」
「わかったようなこと、言わないで!!
私……何度も……あの人と熱い夜を過ごしたわ。
素敵なものをたくさんプレゼントしてくれて、お姫様みたいに大切にしてくれて……」
ああ、なるほど、そういう貴族の手練手管に、本気で愛されてると思い込んだのか。
「単純に貴族たち、そういう女のもてなし方には長けてるってだけよ。
比較のために、私の前職で、本気になった貴族の男がどんな言葉をささやいてどんなものを貢いできたか、教えてあげましょうか?」
「…………うるさいわよ、この娼婦…………」
「陳腐な罵倒ね。でも一度娼婦のてっぺん取った女にそれが罵倒になると思う? あんたと違って、私のほうが男に四、五回刺されてるから」
「性悪…………女狐…………年増…………」
「なんとでも言えば?
あんたのおかげで、その貴族のことが詳しくわかったし、いま探偵に身辺調べさせてるとこよ」
「!! ……調べさせてどうするのよ!!」
「さぁ、何が後ろに隠れてるかしらね。
大好きな彼の破滅をお楽しみに」
「やめて!!」
ラミナは悲痛な声をあげた。
「私……わたし、牢獄を出たら、あの人のところに行って……どれだけ私の思いが強かったかわかってもらって……今度こそ、私」
この期に及んでまだ叶わない夢を見ていたとは。
「まだわかってないみたいだけど、ラミナ。
『思い』は他の人にもあるのよ?」
「……………………」
「まずは自分が思い知ったら?」
「……嫌よ、そんなの…………私が正しいのよ……こんなの、ひどすぎる……」
もはや誰も自分の味方についてくれないと知り、ラミナは涙を流す。
そして、こどものように床にうずくまり、声をあげて泣き始めた。
「…………あんたの罪は、泣いて終わりではないわよ。リリスの苦しみはまだ続くんだから」
これから、情状酌量など一切ない厳罰が下るはずだ。
それだけ自分がしたことの重さを思い知るがいい。
私がラミナとの面会室を出ると、看守が「お、お疲れさまです、ペラギア様っ」と顔を赤らめながら駆け寄ってきた。まだ若い男だ。
「……ペ、ペラギア様が女優をなさっていたとは……その、あなたの存在は、俺たちの世代にとってまさに憧れというか青春というか……」
「あら」
私は上品に微笑んだ。
「嬉しいことを言ってくださるのね」
とたんに看守が真っ赤になった。
この世代、こういう男がよくいる。
人気のある高級娼婦は女優などと同じように有名なので、私の絵姿などがよく、いろいろな広告だの、大衆向けの本だのにつかわれていたのだ。
…………女優を目指し、王都に出て、親切そうな奴の口車に乗って騙され、娼婦にされて、5年を無駄にした。
その間に権力者を顧客にし、また裏社会とのつながりを得、私を騙した奴はめちゃめちゃ後悔させた上できっちり破滅に追い込んだ。
すべての娼婦・男娼が騙されてそうなるわけではないが、いまでも女や男の子を騙して望んだ道と違う道へ引きずり込もうとする奴は絶対に許さない。
それでも、5年間私は娼婦の仕事を私なりにがんばって務めてきたし、一度は王都随一の娼婦として名を馳せたことを私は誇りに思っている。
“高級娼婦”ペラギアは、切っても切り離せないもう一人の私だ。
……そして、いざというときに、私の人脈はとても役に立つ。こんなときとかに。
◇ ◇ ◇
劇団に戻ると、建物の前に、妙に高級そうな馬車が停まっていた。
(……貴族の馬車? まさか、団長が言ってた、リリスを引き抜こうとした奴が来た??)
背筋に緊張が走る。
建物のなかに入り、まっすぐに団長室に向かう。扉を開けた。すると…………。
「…………リリス?」
決して広くない団長室の中に3人の男女の来客があり、その1人は、リリスだった。
「リリス!!」
私が駆け寄ると、リリスは複雑そうな顔で、私の顔面をぐにっとつかんだ。
「ペラギアさん…………いったいあなた、何やったんですか」
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