24 / 70
◇24◇ 加害者の告白
しおりを挟む「……リリス。
まだ頼るあてはないのでしょう?」
奥様が私に声をかけた。
「やっぱりお仕事や行くあてが見つかるまでは、うちにいなさい。もう身代わり役はさせないように、マレーナに釘を刺すわ」
「ギアン様からレイエスへのお誘いが間もなく来るかもですが、大丈夫でしょうか?」
「マレーナを連れていきます。あなたはここに残ればいいわ。
もし、本人を連れていって、ギアン様とうまく行かなかったら、そのときは、あの子が妃の器じゃなかったと諦めます。
それと……」
しばらく奥様は私を見つめて「リリス。あなた、誕生日はいつなの?」と尋ねた。
「11月1日です」
「ああ、私がマレーナを産んだ日よりも、先に産まれたのね……そう」
「何か?」
「いえ、何でもないわ。
あなたの方が先に産まれたのであって、あとではないのよね」
そう、自分に言い聞かせるように繰り返す奥様に、マクスウェル様が軽く目を伏せた。
(…………?)
首をかしげた。奥様にも何かあるのだろうか。
「――――あの、リリス様」
あさっての方向から私たちに声がかかり、こちらに誰かが小走りに駆けてくる。シンシアさんだった。
「どうしました?」
「ああ、これ。これをご覧になってください。
週一回出る、大衆新聞を使用人みんなで回し読みしてるので、さっき私買ってきたんですけど」
「新聞?」
渡された新聞の一面見出しを見て、私は息を飲んだ。
思いきりでかでかと、私の似顔絵が載っている上に書かれていたのは、
『――――我々はいかに嘘に踊らされたか
リリス・ウィンザー事件の真相』
「これは……?」
「走りながら内容は読みました。
リリス様を襲った女の証言、それからリリス様にまつわる噂が日を追うごとにどのようにつくられていったか……そういったことをまとめてあります」
それは、ある意図をもって丁寧にまとめられた記事だった。
売れるためでも、あおるためでもない。
ひとつひとつの事実や証言を拾い上げ、曖昧なものには説明を付記して、これでもかというほど正確さに力をいれていた。
これを書いた人、いや、この記事をのせた人の目的は――――私の、名誉回復、だ。
「…………ペラギアさんだ、これ」
「ペラギア!? って、リリス様のライバルですよね!?」
「いや、ライバルっていうか役者仲間なんですけど」
私が目を止めたのは、記事の中に登場する、とある匿名の女性の存在だった。
前身が高級娼婦である彼女は、伝手で、ラミナを取り調べている憲兵に接触。捜査に協力するとして、ラミナとの面会に成功する。
すると、今まで黙秘していたラミナが、リリスを襲った動機を語り始めたという。
「…………ちょっ、ちょっと、待ってください」
シンシアさんに新聞をいったん返す。
すーはー、何度か深呼吸する。
思いのほか、心臓がバクバクしていた。
目元に涙がじわりとにじむ。
……ああ、私、思った以上にダメージ受けてたんだな。
そりゃそうだ。
ラミナがあのたった一回オイルランプを投げつけるだけで、私のどれだけを奪っていったか。
私が苦しんだ過去も、積み重ねた努力も、勝ち取ったお客様の笑顔も、居場所も……。
なぜ私だったのか。
どういう理由で、私はあそこまでされなければならなかったのか。
その動機がいよいよ、わかる。
私は再び新聞を手に取り、読み始めた。
『…………ラミナの語る動機の中には、一人の貴族が登場する。彼はまず劇団長に近づき、ある要望を繰り返し伝えた。
それは“リリス・ウィンザーを譲ること”。要望の内容としては、引き抜きを望むものだった』
『団長が拒むと、貴族はラミナに接近した。女優としてではなく女性として愛されたと考えたラミナは、身分の差があるにもかかわらず、彼との結婚を夢見た』
『しかしその貴族は、ラミナに、「リリスを引き抜くために協力してほしい」と持ちかけた。ラミナはそれを聞き、貴族がラミナからリリスに乗りかえたと考えた』
『容姿に恵まれ、なんでも涼しい顔をして手に入れていくリリスが憎い』
『そのうえ、私の愛する人まで奪っていくなんて』
『この私のつらさを思い知らせてやりたい』
『リリスの美貌を奪って人生をめちゃくちゃにしてやりたい』
『焼け死んだってかまわなかった。それだけ私の思いの強さを思い知らせてやりたかったから』
…………ちからが、抜けた。
(そんな…………)
(まさか、そんなくだらない理由で??)
もっと何か書いてるんじゃないかと記事の続きに目を走らせる。お願いだから、もっとほかに理由があってくれと思う。
だけどあとは、ラミナの自分語りだった。自分がいかに不幸だったか…………。
ふざけんな。おまえ自分で田舎の両親捨てて役者になってんだろうが。少なくともそれからは、私のようにギャラ搾取されることも虐待されることもなかっただろうが。枕営業させようとする親と闘うこともなかっただろうが。練習時間私の半分もがんばってなかっただろうが。主役つかむ前、一生懸命稽古する私を、男遊びしながら鼻で笑ってただろうが。男友達に14の私を紹介しろといわれて差し出そうとしただろうが。
『思い知らせてやる』? いったい何をだ。
おまえの無知をか、視野狭窄をか。
なんでそんなに気軽に、他人の人生をめちゃくちゃに踏みにじれるんだ。
◇ ◇ ◇
1
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
英雄になった夫が妻子と帰還するそうです
白野佑奈
恋愛
初夜もなく戦場へ向かった夫。それから5年。
愛する彼の為に必死に留守を守ってきたけれど、戦場で『英雄』になった彼には、すでに妻子がいて、王命により離婚することに。
好きだからこそ王命に従うしかない。大人しく離縁して、実家の領地で暮らすことになったのに。
今、目の前にいる人は誰なのだろう?
ヤンデレ激愛系ヒーローと、周囲に翻弄される流され系ヒロインです。
珍しくもちょっとだけ切ない系を目指してみました(恥)
ざまぁが少々キツイので、※がついています。苦手な方はご注意下さい。
愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
マクリントック公爵家の長女カチュアは、婚約者だった王太子に斬られ、顔に醜い傷を受けてしまった。王妃の座を狙う妹が王太子を魅了して操っていたのだ。カチュアは顔の傷を治してももらえず、身一つで辺境に追放されてしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる