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61、王女は何故か歓迎される

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「あの。つかぬことを伺いますけれど、他に夫のことをあまりよく思っていない方などは」

「それは……恐ろしい速さで出世なさいましたから、妬む方はいらっしゃるでしょうね。
 わたくしはあまり詳しくはわかりませんが……。
 ただ、少将閣下の出世は忖度ではなく実力でのものですし、一方、お祖父様であるホメロス公爵は現在、宰相として王太子殿下から絶大な信頼を置かれていらっしゃる。
 いま少将閣下に表立って喧嘩を売りたい方は、いらっしゃらないのではないかしら」

「大丈夫でしょうか……」


 身内だけではなくて、社交界でもっと情報収集するべきかしら。
 といって、招待もされないのに押し掛けるわけにはいかないし……。

 そう思い、考え込んだ私に、
「そういえば……侯爵令嬢で王太子の幼なじみのカサンドラ様とお友達でいらっしゃるのですよね」
とミス・メドゥーサは言う。


「お友達?」

「あら、違いました??」

「いえ、お友達にはなりたいですが」

「カサンドラ様のご親友の王族令嬢……今は叙爵されて女公爵でいらっしゃいますけれど、近く、その方のご出産お祝いのパーティーがございますわ。昼間のはずです」

「? は、はい……」


 そういえば、カサンドラ様が
『親友の赤ちゃん』
の話をしていたような。

 それに確か、その王族令嬢(女公爵)の方とも面識はある。

 王太子殿下と宰相閣下にお会いしたあの場にも同席なさっていたし、結婚式にも出席くださってお祝いのお言葉をいただいた。
 私からお礼状も書いているはず。


「年末にお産まれになり、確かそろそろ5か月。育児にも慣れて、落ち着いてきたところで、女友達同士で出産お祝いを……ということだったかと存じます。
 まだあまりベネディクト王国の中に親しい方もいらっしゃらないでしょう?
 社交界のことで不安になられているのはそのせいもおありだと拝察いたします。
 だからこそ、お顔を売るのは大切です。カサンドラ様にお声かけしてそのパーティーに参加されては??」

「え、ええっ!」


 なんか話が全然違う方向に進んだ??


「さすがに招待されていないものに、そんな」

「もちろん、いきなり押し掛けるのではありませんわ。
 その公爵閣下の旦那様は、宰相閣下が後見についていらしたはず。ホメロス公爵家とも縁が深いのですわ。
 ですから、もし、こちらからもお祝いをさせていただきたい、とでも言えば、すぐに招待状もいただけますわ」

「ご、ご迷惑ではないでしょうか?
 仲の良いお友達同士での集まりのようですし、そこにいきなり私などが」

「同年代の女性の多い場は、お嫌ですか?」

「そ、そんな! そういうわけでは……??」


 そういうわけでは…………ちょっと、あるかもしれない。

 仕えてくれる侍女たちには大切にしてもらったけど、社交界の女性たちからは悪評で嫌われてきたから、少し恐い気持ちもある。
 ただでさえ、王女だということで気を遣わせる恐さもあるし……。


「大丈夫ですわ。
 爪弾き者の私が申し上げるのも何ですけれど、貴族令嬢としては型破りすぎるあのカサンドラ様を親友にしていらっしゃる方です。
 大抵のことでは動じませんわ。
 お友達ではなくても同年代女性、場にそぐわないということはないかと存じますし、おそらくお話も合うかと」

「…………そうでしょうか」


 大丈夫かしら。やっぱり非常識なことじゃないかしら。悩んでしまう。


「おそらく殿下をご招待したい貴族は山ほどいるかと存じます。
 わたくしの察するに、ホメロス公爵家以外の皆様は、王宮での結婚披露パーティーまでは遠慮なさっているのですわ。
 ですが、王族の方でしたら特に角は立たないでしょう」

「その……私、先日、ホメロス公爵家で粗相を……」

「仲が良いところを見せつけたぐらいのことです。
 噂にもなっておりません。
 社交界という場は、結局印象が大きく左右いたします。
 せっかくです。親しいお友達をたくさん作ってしまうのが、悪い噂に対抗する一番の策ですわ」

「お友達……たくさん……」


 ああ、その言葉にはグッと心惹かれるものが……。
 確かに、同年代の女性ばかりの場なら、情報収集もはかどるだろうし……。


「……夫と、カサンドラ様に、相談してみます……あと宰相閣下にも、一言お声をおかけいたします」

「それで問題ないかと存じますわ。
 どうぞ、がんばってくださいまし!」


   ◇ ◇ ◇


 ────その後。
 イーリアス様も宰相閣下も
「あの方のパーティーでしたら不届き者もいないでしょう」
とあっさり賛成。
 カサンドラ様も
「え、いいんですか? じゃあぜひ!」
と軽いノリで。

 すぐに招待状は届き。

 お友達でも何でもない私が、出産お祝いパーティーに出席させてもらうことができてしまった。


「いらしてくださり、ありがとうございます。楽しんでくだされば嬉しいですわ」

 お迎えしてくださった公爵閣下はにっこり微笑んだ。
 私の1つ上、ホッとするような笑顔の、素敵な女性だった。


 ────出席者は10人ほど。
 未婚の貴族令嬢たち、それから既婚の夫人たち……大体みんな私と同じぐらいの歳だ。

 トリニアスで貴族女性たちに向けられた眼差しを思いだし、一瞬足がすくみそうになる自分を叱咤した。


(お友達……いえ、それより情報収集がんばらなくちゃ)
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