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31、第3王女と第1王子は悪評を流される【ウィルヘルミナ視点】
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◇ ◇ ◇
────第1王女アルヴィナの出発から、19日。トリニアス王城。
「……やられたわ」
私、第3王女ウィルヘルミナは、王都で配られているという新聞を見て、嘆息した。
災害対策の山場が終わり、それから止まっていた他の仕事を徹夜で片付けたら、倒れて2日寝込んだ。
3日目、ようやく動けるようになったところだった。
「酷いです!
エルミナ殿下の仕業でしょうか!?」
「こんな中傷して、何になるというのでしょうっ!!」
侍女たちが口々に憤慨する。
私はここ最近、仕事に追われ、国民の前に姿を現す催事にはしばらく出られなかった。
その間、第4王女エルミナが、自分のイメージアップ作戦に出ていたのは知っている。
自分の産みの母親の実家の経済力をバックにした新聞社に、自分を良く書かせたり。
出なくていい催事に出席したり、視察と称してあちこち出歩いたり。
それは知っていたけれど……。
「……加えて、私とダンテス兄様の中傷記事まで書かせるとはね」
その記事は、私と第1王子ダンテス兄様が結託してアルヴィナ姉様をいじめ、追い出し、まるで身売りのように結婚させたのだと書き連ねる。
その根拠のひとつとして、私がアルヴィナ姉様の元婚約者と婚約したことにも触れられていた。
…………なるほど、こうしてやったことは自分に返ってくるのね。
(本当、人の婚約者なんて盗るものじゃない)
ただ、エルミナが王家のなかでただ1人アルヴィナ姉様をかばったことになってるのは、なかなかお笑いだ。厚顔無恥すぎる。
(また婚約者が何かうるさいこと言ってくるかしら……)
飢饉対策の仕事が大詰めになって『会えない』と断っていたら、先日青筋立てて
『仕事と私とどっちが大事なんですか!!』
とか詰め寄ってきた。
そういえば、アルヴィナ姉様との婚約解消を決めた一番の理由は、姉様の悪評だったらしい。
(今回の新聞の件で、そのままスルッと私とも婚約解消してくれないかしら。
いや、絶対ごねるわね、あの人)
なおも侍女たちがエルミナへの憤慨を口にしていたそのとき、私の部屋の扉がノックされた。
「────ウィル。入っていいか」
第1王子、ダンテス兄様の声だ。
「いいわよ。どうぞ」
扉が開かれ、ダンテス兄様が入ってくる。
23歳の兄様は、若い頃の国王の顔をグッと整えたような顔をしている。産んで間もなく亡くなったという生母は、さぞ美人だったのだろう。
別に私とはそんなに仲良くはない。
他の姉妹より多少話すぐらい。
「どうだ、具合は」
「そうね、これから悪くなりそう」
「ああ、それか」
ダンテス兄様はどうやらすでに把握していたらしい。私の手から新聞を取る。
侍女たちが心得たように、頭を下げて部屋を出ていく。
「俺もこれの愚痴を言いにきた」
兄様、そんな暇まったくないだろうに、よっぽど腹に据えかねたんだろうか。
「国民の中で比較的人気のある2人を狙ったって感じか。
エルミナの奴も下品な手を使う。
俺もおまえも、ずいぶんと酷いこと書かれたもんだな」
「そうかしら。
私はともかく兄様がアルヴィナ姉様を苛めていたっていうのは外れてなくない?
雑務押し付けまくるわ、八つ当たりするわ」
そう言い添えると、ダンテス兄様は心当たりがあったのか目を伏せる。
(でもまぁ、兄様も後悔しているんでしょうね)
アルヴィナ姉様の出発以来、ダンテス兄様も見るからに仕事に追われて、げっそりと痩せているのだから。
完璧を求めすぎるダンテス兄様は、些細なミスですぐ周りの人をクビにした。その求めるレベルについていけるのはアルヴィナ姉様ぐらいしかいなくて、その姉様がいなくなったのだ。
そうして、イルネア姉様が放り出す形になった仕事、さらにエルミナがしょっちゅう犯すミスの尻拭いも兄様に回っている。
かわいそうになって、兄様がクビにした書記官に私が頭を下げて、戻ってきてもらった。
兄様がまたキレるようだったら次は私が雇うから、という条件付きで。
「エルミナの目的はなんだろうな」
「さぁ。自分の人気を上げたいだけじゃない?
王位を狙ってるにしては全然勉強しないし、あの子」
「そんな理由でこれは悪質すぎないか」
「このぐらいの足の引っ張りあいは、王城の中じゃ日常茶飯事でしょ。
動機もわりと大したことなかったりするし。
まぁ……アルヴィナ姉様がどんな誹謗中傷されてても国王陛下も王妃陛下も放置してたし、あの人たち自分の中傷以外どうでもいいから、どうせ今回もほっとかれるのよね。
私、王妃に恨まれちゃったし」
「いや、新聞社に即日解散命令がくだった」
「は?」
「対象の1人が、俺だからな」
「ああ……そういうこと」
……大事な跡継ぎだからか。
対応迅速すぎない?
笑っちゃうぐらい露骨な差。
「エルミナには?」
「新聞社の人間たちがこのまま口を割らなければ、何も咎めはないだろう」
「そ。じゃあ、印刷機をまたどこか別のところに持っていって悪評をばらまくんでしょうね」
「アルヴィナといい王家の悪評だらけだな」
「姉様は濡れ衣だけどね」
「は? そうなのか?」
「……あれ? 知らなかったの?」
兄様は姉様の悪評を信じていた?
じゃあ、それもあって、姉様への当たりがキツかったの?
────第1王女アルヴィナの出発から、19日。トリニアス王城。
「……やられたわ」
私、第3王女ウィルヘルミナは、王都で配られているという新聞を見て、嘆息した。
災害対策の山場が終わり、それから止まっていた他の仕事を徹夜で片付けたら、倒れて2日寝込んだ。
3日目、ようやく動けるようになったところだった。
「酷いです!
エルミナ殿下の仕業でしょうか!?」
「こんな中傷して、何になるというのでしょうっ!!」
侍女たちが口々に憤慨する。
私はここ最近、仕事に追われ、国民の前に姿を現す催事にはしばらく出られなかった。
その間、第4王女エルミナが、自分のイメージアップ作戦に出ていたのは知っている。
自分の産みの母親の実家の経済力をバックにした新聞社に、自分を良く書かせたり。
出なくていい催事に出席したり、視察と称してあちこち出歩いたり。
それは知っていたけれど……。
「……加えて、私とダンテス兄様の中傷記事まで書かせるとはね」
その記事は、私と第1王子ダンテス兄様が結託してアルヴィナ姉様をいじめ、追い出し、まるで身売りのように結婚させたのだと書き連ねる。
その根拠のひとつとして、私がアルヴィナ姉様の元婚約者と婚約したことにも触れられていた。
…………なるほど、こうしてやったことは自分に返ってくるのね。
(本当、人の婚約者なんて盗るものじゃない)
ただ、エルミナが王家のなかでただ1人アルヴィナ姉様をかばったことになってるのは、なかなかお笑いだ。厚顔無恥すぎる。
(また婚約者が何かうるさいこと言ってくるかしら……)
飢饉対策の仕事が大詰めになって『会えない』と断っていたら、先日青筋立てて
『仕事と私とどっちが大事なんですか!!』
とか詰め寄ってきた。
そういえば、アルヴィナ姉様との婚約解消を決めた一番の理由は、姉様の悪評だったらしい。
(今回の新聞の件で、そのままスルッと私とも婚約解消してくれないかしら。
いや、絶対ごねるわね、あの人)
なおも侍女たちがエルミナへの憤慨を口にしていたそのとき、私の部屋の扉がノックされた。
「────ウィル。入っていいか」
第1王子、ダンテス兄様の声だ。
「いいわよ。どうぞ」
扉が開かれ、ダンテス兄様が入ってくる。
23歳の兄様は、若い頃の国王の顔をグッと整えたような顔をしている。産んで間もなく亡くなったという生母は、さぞ美人だったのだろう。
別に私とはそんなに仲良くはない。
他の姉妹より多少話すぐらい。
「どうだ、具合は」
「そうね、これから悪くなりそう」
「ああ、それか」
ダンテス兄様はどうやらすでに把握していたらしい。私の手から新聞を取る。
侍女たちが心得たように、頭を下げて部屋を出ていく。
「俺もこれの愚痴を言いにきた」
兄様、そんな暇まったくないだろうに、よっぽど腹に据えかねたんだろうか。
「国民の中で比較的人気のある2人を狙ったって感じか。
エルミナの奴も下品な手を使う。
俺もおまえも、ずいぶんと酷いこと書かれたもんだな」
「そうかしら。
私はともかく兄様がアルヴィナ姉様を苛めていたっていうのは外れてなくない?
雑務押し付けまくるわ、八つ当たりするわ」
そう言い添えると、ダンテス兄様は心当たりがあったのか目を伏せる。
(でもまぁ、兄様も後悔しているんでしょうね)
アルヴィナ姉様の出発以来、ダンテス兄様も見るからに仕事に追われて、げっそりと痩せているのだから。
完璧を求めすぎるダンテス兄様は、些細なミスですぐ周りの人をクビにした。その求めるレベルについていけるのはアルヴィナ姉様ぐらいしかいなくて、その姉様がいなくなったのだ。
そうして、イルネア姉様が放り出す形になった仕事、さらにエルミナがしょっちゅう犯すミスの尻拭いも兄様に回っている。
かわいそうになって、兄様がクビにした書記官に私が頭を下げて、戻ってきてもらった。
兄様がまたキレるようだったら次は私が雇うから、という条件付きで。
「エルミナの目的はなんだろうな」
「さぁ。自分の人気を上げたいだけじゃない?
王位を狙ってるにしては全然勉強しないし、あの子」
「そんな理由でこれは悪質すぎないか」
「このぐらいの足の引っ張りあいは、王城の中じゃ日常茶飯事でしょ。
動機もわりと大したことなかったりするし。
まぁ……アルヴィナ姉様がどんな誹謗中傷されてても国王陛下も王妃陛下も放置してたし、あの人たち自分の中傷以外どうでもいいから、どうせ今回もほっとかれるのよね。
私、王妃に恨まれちゃったし」
「いや、新聞社に即日解散命令がくだった」
「は?」
「対象の1人が、俺だからな」
「ああ……そういうこと」
……大事な跡継ぎだからか。
対応迅速すぎない?
笑っちゃうぐらい露骨な差。
「エルミナには?」
「新聞社の人間たちがこのまま口を割らなければ、何も咎めはないだろう」
「そ。じゃあ、印刷機をまたどこか別のところに持っていって悪評をばらまくんでしょうね」
「アルヴィナといい王家の悪評だらけだな」
「姉様は濡れ衣だけどね」
「は? そうなのか?」
「……あれ? 知らなかったの?」
兄様は姉様の悪評を信じていた?
じゃあ、それもあって、姉様への当たりがキツかったの?
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