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13、持つべきものは切り札です
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「驚きました……確かに魔力を増幅させる力があるのですね、この魔法石は」
翠色の魔力オーラをふりまきながら、魔法石はレクシィの頭上へとのぼっていく。
ひどく焦りが見えるベールゼブフォ。
こちらに駆け寄り手を伸ばすもバシュンと魔力が弾けて拒まれる。
「……そなた、もしや……テュランノスの末裔か!?」
弾かれ焼かれた手を、信じられないという目で見つめる魔王。
ディノはこそっとレクシィに聞く。
「テュランノス?」
「確か、うちの家の姓をある時期の古語で発音したものです」
「魔王、タイラントじゃわからなかったのか……」
「でもそれが、魔法石と何の関係があるんです?」
翠の光を浴びて、足にまとわりつく泥の手の力が弱まってくる。
ディノはそれを思い切り蹴りつけて足から引き剥がした。
「俺の知る限りだが……古来、魔法石は魔力を増幅させる効果ゆえに、人間や魔族ほか知的生命体の間で激しい争奪戦が起きてきた。
だが、どうも魔法石には人格、というほどではないが、持ち主を選ぶ癖があるようなんだ。
特に、人間の中にまれに現れる『勇者』に対してはその力に惹かれることが多いらしく、戦いの土壇場で敵の魔法石が勇者に寝返った、という事例がいくつか王家の歴史書に残っている」
「そうなんですね……。
じゃ、これは魔王陛下じゃなく私が石に選ばれたっていうことで良いです?
勇者じゃないですけど」
「そうだな。
勇者という言葉で引っ掛かってたんだ。
軟派魔王。貴様を封印したのはテュランノス、つまり、レクシィの先祖の勇者だったんだな?」
「そうだったんですか?」
「…………うむ」
ベールゼブフォは過去の敗北を思い出したのか、整った顔にひどく苦々しい表情を浮かべた。
「だとしたら魔法石も、おまえが封印された後に略奪されたのではなく、先に魔法石が勇者側についてしまったために力が弱まって封印されてしまったんじゃないのか?」
うぐ、と詰まった様子を見せるベールゼブフォ。
正解らしい。
「……し、しかし……五百年の時を経てテュランノスがまた余の目の前に現れるなどっ」
「タイラント家はクレタシアス建国よりもはるか前、千年以上昔から勇者を数多く輩出してきた家だ。
徹底した秘密主義で、歴史書からも自らの名を消している上に、歴代当主以外には正確な家の歴史を伝えないなんていう悪癖もあるがな」
「冒険者やってる娘としては、もっと詳しく教えておいて欲しかったですね」
そのようなタイラント家の背景を知るのは、クレタシアス王国でも一握りの人間しかいないのだ。
ベールゼブフォは「ふん」と鼻をならす。
「それがどうした。
多少魔力量の増減があったところで、おまえたちは余の〈丸飲み泥地獄〉の中におるのだ。
聖職者らも引き連れて部隊でやってきた五百年前のあの勇者とはまるで状況が違う。そして勇者もおらぬ」
「いえ。これぐらいの魔力があれば何とかなりそうですよ」
「?」
ニコッとレクシィは微笑み、右手を上にかざした。
左手のそれとは違う金属籠手には教会の紋章が入っている。
レクシィが詠唱を始めると、魔法石がパアアアッ……と一段と強い光を放つ。
同時に、レクシィたちがいる空間の壁に無数の魔法陣が描かれ、回転しはじめる。
「……な、なんだ、これは……」
ベールゼブフォの足元に一際大きな魔法陣が浮かび上がっていて、それがグズグズと足元の地面を崩し、あっという間にその身体を飲み込んでいく。
「私、一級聖職者の資格持ってますから。
やり方だけは習ってたんですよ、魔王の封印」
「なんだとっ……!」
「魔王陛下はお目覚めになったばかりでまだ本調子ではなかったとのことで、私たちは幸運でしたね」
ベールゼブフォの身体はもう、胸の辺りまで魔法陣に飲み込まれ、その下は見えなくなっていた。
「う、ううむ、そなたの力を侮った余が迂闊であった。
さすがは余が見初めたほどの女、惚れ直したぞ!」
「え、まだ言ってるんですか?」
「だからこそ! 見逃せるものか! 余がまたこれより永きにわたり封印されるというのならば……そなたも余と共にっ……」
ベールゼブフォの美しい顔や上半身が急にブクウウウッと膨れ上がり、人呑み毒蝦蟇ほどもある不気味な白い蛙の頭になった。
ぱっくり開けた大口。ビヨオオオオッと長い長い舌がレクシィ目掛けて飛んでくる!
しかしその舌はレクシィに届く前に寸断された。
ディノの〈鎌爪脚〉によって。
ぶつ切りにされた長い舌が、地面に落ちる。
「……レクシィに触れたら殺す。
さっきは言いそびれたがな」
白い巨大蛙は顔を歪め、何か必死で言おうとしたようだが、間に合わないまますべて魔法陣に飲み込まれ、封印されてしまったのだった。
翠色の魔力オーラをふりまきながら、魔法石はレクシィの頭上へとのぼっていく。
ひどく焦りが見えるベールゼブフォ。
こちらに駆け寄り手を伸ばすもバシュンと魔力が弾けて拒まれる。
「……そなた、もしや……テュランノスの末裔か!?」
弾かれ焼かれた手を、信じられないという目で見つめる魔王。
ディノはこそっとレクシィに聞く。
「テュランノス?」
「確か、うちの家の姓をある時期の古語で発音したものです」
「魔王、タイラントじゃわからなかったのか……」
「でもそれが、魔法石と何の関係があるんです?」
翠の光を浴びて、足にまとわりつく泥の手の力が弱まってくる。
ディノはそれを思い切り蹴りつけて足から引き剥がした。
「俺の知る限りだが……古来、魔法石は魔力を増幅させる効果ゆえに、人間や魔族ほか知的生命体の間で激しい争奪戦が起きてきた。
だが、どうも魔法石には人格、というほどではないが、持ち主を選ぶ癖があるようなんだ。
特に、人間の中にまれに現れる『勇者』に対してはその力に惹かれることが多いらしく、戦いの土壇場で敵の魔法石が勇者に寝返った、という事例がいくつか王家の歴史書に残っている」
「そうなんですね……。
じゃ、これは魔王陛下じゃなく私が石に選ばれたっていうことで良いです?
勇者じゃないですけど」
「そうだな。
勇者という言葉で引っ掛かってたんだ。
軟派魔王。貴様を封印したのはテュランノス、つまり、レクシィの先祖の勇者だったんだな?」
「そうだったんですか?」
「…………うむ」
ベールゼブフォは過去の敗北を思い出したのか、整った顔にひどく苦々しい表情を浮かべた。
「だとしたら魔法石も、おまえが封印された後に略奪されたのではなく、先に魔法石が勇者側についてしまったために力が弱まって封印されてしまったんじゃないのか?」
うぐ、と詰まった様子を見せるベールゼブフォ。
正解らしい。
「……し、しかし……五百年の時を経てテュランノスがまた余の目の前に現れるなどっ」
「タイラント家はクレタシアス建国よりもはるか前、千年以上昔から勇者を数多く輩出してきた家だ。
徹底した秘密主義で、歴史書からも自らの名を消している上に、歴代当主以外には正確な家の歴史を伝えないなんていう悪癖もあるがな」
「冒険者やってる娘としては、もっと詳しく教えておいて欲しかったですね」
そのようなタイラント家の背景を知るのは、クレタシアス王国でも一握りの人間しかいないのだ。
ベールゼブフォは「ふん」と鼻をならす。
「それがどうした。
多少魔力量の増減があったところで、おまえたちは余の〈丸飲み泥地獄〉の中におるのだ。
聖職者らも引き連れて部隊でやってきた五百年前のあの勇者とはまるで状況が違う。そして勇者もおらぬ」
「いえ。これぐらいの魔力があれば何とかなりそうですよ」
「?」
ニコッとレクシィは微笑み、右手を上にかざした。
左手のそれとは違う金属籠手には教会の紋章が入っている。
レクシィが詠唱を始めると、魔法石がパアアアッ……と一段と強い光を放つ。
同時に、レクシィたちがいる空間の壁に無数の魔法陣が描かれ、回転しはじめる。
「……な、なんだ、これは……」
ベールゼブフォの足元に一際大きな魔法陣が浮かび上がっていて、それがグズグズと足元の地面を崩し、あっという間にその身体を飲み込んでいく。
「私、一級聖職者の資格持ってますから。
やり方だけは習ってたんですよ、魔王の封印」
「なんだとっ……!」
「魔王陛下はお目覚めになったばかりでまだ本調子ではなかったとのことで、私たちは幸運でしたね」
ベールゼブフォの身体はもう、胸の辺りまで魔法陣に飲み込まれ、その下は見えなくなっていた。
「う、ううむ、そなたの力を侮った余が迂闊であった。
さすがは余が見初めたほどの女、惚れ直したぞ!」
「え、まだ言ってるんですか?」
「だからこそ! 見逃せるものか! 余がまたこれより永きにわたり封印されるというのならば……そなたも余と共にっ……」
ベールゼブフォの美しい顔や上半身が急にブクウウウッと膨れ上がり、人呑み毒蝦蟇ほどもある不気味な白い蛙の頭になった。
ぱっくり開けた大口。ビヨオオオオッと長い長い舌がレクシィ目掛けて飛んでくる!
しかしその舌はレクシィに届く前に寸断された。
ディノの〈鎌爪脚〉によって。
ぶつ切りにされた長い舌が、地面に落ちる。
「……レクシィに触れたら殺す。
さっきは言いそびれたがな」
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